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ぼうやはキューピッド

ぼうやはキューピッド


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 レベッカ・ウインターズ(Rebecca Winters)
 アメリカの作家。十七歳のときフランス語を学ぶためスイスの寄宿学校に入り、さまざまな国籍の少女たちと出会った。これが世界を知るきっかけとなる。帰国後大学で、多数の外国語や歴史を学び、フランス語と歴史の教師になった。ユタ州ソルトレイクシティに住み、四人の子供を育てながら執筆活動を開始。これまでに数々の賞を受けたベテラン作家である。

解説

キャシーは大手銀行頭取のトレイスの姿を見て、はっと息をのんだ。間違いなくぼうやのパパだわ。まさに姉の息子に瓜二つだ。産後、病床にあった姉は、病院の手違いで赤ちゃんが入れ替わったと言い続けていた。そしてとうとう、ぼうやの本当の親を見つけてやってほしいと言い残して逝ってしまったのだ。キャシーは必死で事情を説明したが、トレイスは聞く耳すら持たず、それどころか誘拐犯と決めつけた。「作り話はそれだけか」彼は冷たく片眉をあげて、警察を呼んだ。

抄録

「ミスター・ラムゼイ?」キャシーは言いかけて、彼が蒼白になっているのに気づいた。ジェイスンをあやすのに夢中になっているうちに、いつの間にか部屋にはトレイスしかいなくなっている。ぼうやの父親は部屋の真ん中で身動きできずに立っていた。
 キャシーはぐっとつばをのみ込むと、髪の毛をきつく握っているジェイスンの手をほどいて父親と向かい合わせた。数秒後、トレイスが緊張した声でつぶやくのが聞こえた。「なんと……信じられないくらいそっくりだ」
 キャシーはトレイスに同情した。初めて我が子の顔を見たばかりでなく、生まれたときからずっとかわいがってきた子供が自分の子ではなかったと知ったのだ。その心中はどんなものか、想像もつかない。
「私もあなたのお顔を見たとき、そっくりだと思いました」キャシーは静かに言った。トレイスが感動したような目をぼうやからキャシーに向ける。「名前はジェイスンです」ジェイスンは自分の名前が呼ばれるのを聞いてぐずり出した。泣きながらキャシーのうなじに顔をつけ、片手でしっかりと服をつかむ。それがお気に入りの‘だっこ’なのだ。
「僕に抱かせてくれないか?」トレイスの声はひきつっていた。彼は無意識のうちに手を差し伸べた。
「もちろん、かまいませんわ。でもまた泣き出すかもしれませんよ。私以外の人が近づくといつもそうなんです」
 ジェイスンはキャシーから急に引き離されたので、すぐに怒ってもがき始めた。脚を蹴り上げ、銀行の上から下まで響き渡るような大声で泣き叫ぶ。それでもキャシーは父と息子の触れ合いの瞬間を妨げる気にはならなかった。
 二人はぴったりと合って見えた。本当に完璧だ。キャシーの喉は感動でつまった。
 トレイスはぐずる息子を背広の肩に当ててあやしながら、キャシーのほうを向いた。エレガントなグレーのスーツが汚れるのもまったく気にしていない。「哺乳瓶を持ってるかい? それで少しはおとなしくなるかもしれない」
 そうね、なんで思いつかなかったのかしら? キャシーは急いでミセス・ブレイクスリーがおいていってくれたバッグの中をさぐった。「はい、これです」
 トレイスはやさしく、が、しっかりとジェイスンを腕に抱えて乳首をぼうやの口に入れた。手つきといい、やり方といい、いかにも慣れている。もし彼がこの九カ月間、スーザンのぼうやを育てていたのだと知らなければ、キャシーも驚くところだ。
 だが、ジェイスンは強情だった。ぼうやはいっそう激しく泣き、力いっぱい哺乳瓶と父親に抵抗した。トレイスもさすがにどうしていいのかわからなくなったようだ。
「おしめを替えてみますわ。それで泣きやむかもしれません」キャシーはそっと提案した。
 トレイスはなんとも解釈のできないまなざしをキャシーに向けて、しぶしぶジェイスンを返した。ぼうやがキャシーの胸で再びおとなしくなると、彼は手提げバスケットに敷いてあったキルトを取ってデスクに広げ、電話を横に押しやった。こんな立派なデスクの上でおしめを取り替えるなんて、思ってもいなかったわ! キャシーは心の中でつぶやいた。
「さあ、いい子ね。ママが気持よくしてあげますからね」ジェイスンは敵でも見るように父親を見やり、なおもむずかった。が、キャシーはなんとかぼうやを横にしてカバーオールを脱がせ、ぬれたおしめをはずした。
 彼女が新しい紙おむつを当てたとき、トレイスは低い声で何事かをつぶやき、感極まったようにジェイスンの右足を両手で包んだ。ぼうやはなぜかそれを喜んで、少し機嫌を直した。たぶん強い注目を浴びて満足したのだろう。ジェイスンの足は生まれたときから注目を集めていたのだ。
 キャシーはジェイスンの右足の第三指と第四指の間に水かきがあることをいつも不思議に思っていた。スーザンの家系にも、テッドの家系にも、そんな特徴はない。どうやらジェイスンの父親もそれにただならぬ興味を持ったようだ。
「この子は僕の息子だ!」トレイスはおごそかに宣言して喜びの声をあげた。青い目が誇りで光り輝いている。
「血液型を検査して、病院の記録と照合してみる必要があるでしょうね」
「そうしよう。だが、すでに証拠はここにいる」トレイスはジェイスンの手を握って軽く引いた。ぼうやがその手を力いっぱいつかみ、一人で頭を起こしてすわると、満足そうに喉の奥で笑う。ジェイスンもこれほど喜んで遊んでくれる黒髪の人物に興味を持ったようだ。
 部屋はひんやりしていたので、キャシーはバッグから新しいカバーオールを取り出した。とたんに手が伸びてきて、それを取り上げる。
「僕が着せる」トレイスは独占欲をあらわにして、ジェイスンの小さな体に白いカバーオールの袖と脚を通し始めた。
 スナップをかけ終えると、息子を肩にのせ、黒い巻き毛を指でかき上げた。ぼうやはもうぐずらない。髪の毛の分け目まで二人は同じだった。
 キャシーは忘れ去られていた。トレイスはジェイスンを抱いてフェニックス市街を見下ろす窓のところへ連れていき、ぼうやにだけ聞こえる声で何事かを耳もとでささやいている。誰が見ても、ジェイスンをすでに深く心にかけているのがわかる。
 これでジェイスンを愛している人間は世界中で二人いることになったわ、とキャシーは思った。トレイスの妻が知れば、すぐに三人になる。彼が自分のものを諦めるような男でないことは一目でわかるけど、今回ばかりは諦めてもらうほかはない。だって私は決してジェイスンを手放さないから。私はぼうやを愛しているんだもの。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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