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伯爵と秘密の小部屋で

伯爵と秘密の小部屋で


発行: ハーレクイン
シリーズ: MIRA文庫
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

19世紀初頭、秘密にあふれた英国マナーハウスを舞台に、1冊の本が、薄幸のヒロインを真実の愛へ導く――。

美しき郊外に立つ瀟洒な館、ソーンクリフ。両親らとしばらくそこに滞在することになったクロエは、亡き祖父の旧友から頼まれ事をしていた。館からある1冊の本を捜してきてほしいというのだ。その本があれば祖父の死の謎がわかるかもしれない――そう聞かされ、クロエが図書室を探っていると、同じく館を訪問中のウッドフォード伯爵にでくわす。不幸な生い立ちの伯爵は、見目麗しくもどこか陰のある男。どぎまぎしつつ、あたりさわりのない会話をしたクロエだが、まさか伯爵も同じ本を捜しているとは、そのときは思いもせず……。

抄録

 レディ・ニューベリーが肩越しにこちらを見た。そよ風を受け、髪が幾筋かほつれている。「あなたが言ったとおり、本当にすばらしい眺めですね」そう言って、にっこりする。きらきらと輝く瞳は誘いかけているかのようだ。
 たちまちジェームズは胸が苦しくなった。体のべつの部分も硬くこわばっている。「おいで」そう言うと、手を伸ばした。歩み寄ってきたレディ・ニューベリーの体を、背後にある塔の壁にそっと押しつける。こうすれば下を通りかかった者が塔を見上げても、ふたりの姿が見えることはない。「キスをしてもいいかい?」
 レディ・ニューベリーがわずかに唇を開いた。みずみずしい唇から震える吐息がもれ、緑色の目は期待に大きく見開かれている。恐れの色はどこにも見当たらない。目と目を合わせると、ジェームズは指先でレディ・ニューベリーの腕を優しくたどっていった。ゆっくりとした動きで彼女を慰め、いかなる心の痛みも癒してやりたい。そういう心の痛みを感じると、レディ・ニューベリーはいつも必死に隠そうとする。そんな健気で生真面目な部分があることには前から気づいていた。だからこそ、よけいにわかるのだ。ぼくとのひとときを楽しむという決断を、彼女はけっして軽い気持ちで下したわけではないだろう。それがことのほか嬉しい。
「ええ」とうとうレディ・ニューベリーがささやいた。聞こえるか聞こえないかの、か細い声だ。
 唇を重ねた瞬間、ジェームズはみぞおちのあたりがうずいた。とうとう彼女との距離をここまで縮めることができた。そんな喜びが全身を駆け抜ける。思えばこの瞬間をどれだけ夢見てきたか。いや、もはやこれだけでは満足できない。
 衝動に駆られ、ジェームズはクロエの背中を塔の壁に押しつけてキスを深めた。彼女の香りを胸いっぱいに吸いこむ。カモミールとレモンの香りに五感が刺激された。その瞬間、クロエが何かつぶやいた。唇が少し開いたのをいいことに、ジェームズは舌を差し入れ、彼女を味わいはじめた。
 なんて甘やかなんだろう。まるで花の蜜だ。それにクロエの体つきときたら! 華奢でほっそりとしている。それなのに今、ぼくの硬い筋肉の下に感じられるのは、弾むような柔らかさだ。なんという心地よさ。彼女の柔肌に深く癒され、ジェームズはさらに体を押しつけた。クロエを完全に動けない状態にし、さらにキスを深める。
 クロエが両腕をジェームズの首に巻きつけてきたものの、もどかしいほどゆっくりとした動きだ。思った以上にためらいが感じられる。そのとき、ジェームズは自分のまちがいに気づいた。急かさないでほしい。それがクロエの望みだった。時間をかけてゆっくり関係を深めていきたいと言われたのだ。それなのに、どうだ。今、ぼくは彼女の唇をむさぼっている。それも本来なら、紳士がレディとふたりきりでいることなど許されないソーンクリフの屋上で。クロエが求めているのはこういったことではないはずだ。欲望にまかせてこのまま突き進めば、彼女を自分のものにできるだろう。だけどそうなれば、今生まれたばかりの、ふたりのあいだのか細い信頼関係は崩れ去ってしまう。
 ジェームズは体を引き、数回大きく息を吸いこんだ。“キスをもっと続けろ”そんな悪魔のささやきを必死で無視する。クロエは一歩あとずさりすると、緊張した面持ちでこちらを見つめて口を開いた。「何か……?」言いよどんで頭を振ったきり、こちらを見つめている。瞳に浮かんでいるのは心配そうな色だ。
「想像していたとおり、きみは完璧だ」ジェームズは安心させるように言った。「でも、少し先を急ぎすぎたらしい。きみが心配していたとおり」
「今のはただのキスなのに?」
「ああ。だが歯止めがきかなくなったら、キス以上の振る舞いに及んでしまいそうだ。きみのことをもっと大切にしたい。それにきみからの尊敬を失いたくないからね」
 ふたりのあいだに沈黙が落ちる。一瞬、抵抗するかに見えたものの、結局クロエはうなずいた。「一緒にいるところを誰かに見つからないうちに、下へおりたほうがいいわね」
「きみが先におりてほしい。廊下で誰かにでくわすかもしれない」
 クロエはうなずいてドレスのしわを伸ばすと、狭い扉の前へ進み、振り返った。「わたしたち、これからどうなるの?」
「自然な流れにまかせるのがいちばんだろう。ただ、一度はじめたことだ。ぼくはこれからも続けていきたいと思っている」
 クロエはふたたびうなずいて頬を染めると、階段をおりていった。
 彼女を見送りつつ、ジェームズは心の中でひとりごちた。われながら信じられない。今さっきの態度はなんだ? あんなに自制心がきかなくなるとは情けないにもほどがある。だがクロエが相手だと、どうしても全身の血がたぎってしまう! 懐中時計を取り出して、時間を確かめてみる。四時三十分。ディナーまであと約三時間ある。今夜、例の任務に取りかかるつもりなら、波立つ心を静めたほうがいい。クロエの寝室へ最短でたどり着くための方法をあれこれ考えるよりもずっと賢明だ。ジェームズは部屋へ戻ってタオルを引っつかみ、馬屋を目ざした。そして馬を駆って三十分後、イギリス海峡にたどり着いた。激しく打ち寄せる波を見つめているうちに自然と心が落ち着き、冷静さを取り戻していた。


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