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暗黒のファラオの花嫁

暗黒のファラオの花嫁


発行: キリック
シリーズ: 暗黒のファラオの花嫁
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

暗黒のファラオとして歴史上に悪名を轟かせているネフレン・カ。「真の盲目なる猿」という邪神を崇ていたその古代エジプト王は、人身御供の儀式を行ったばかりか、死体を犯し、死肉を食す、人の一線を越えた暴君だったことから、王名表からもその名を抹消された存在である。そんな忌まわしいファラオの墳墓が発掘されたのは一年前のこと。そして、そのミイラがエジプト展の目玉として日本へとやってくる運びとなった。都内の信用金庫で働く来栖美久《くるすみく》は、ネフレン・カの話を耳にして以来、言い知れぬ不安に駆られていた。幼少の頃から繰り返し何度も見てきた生々しい悪夢──それがネフレン・カのおぞましい儀式と思われるものだったからだ。自分の前世は暗黒のファラオの花嫁だったかもしれない。だが、それはあくまでも夢の話であり、現実では平穏なOL生活が続く……はずだった。最近、おかしくなった実の兄が自宅に押し入り、ネフレン・カについて語り出すまでは……。

古代エジプトの人倫に悖る暗黒の儀式が現代日本で再び……忌まわしい前世の因縁を人は断ち切ることができるのか!?

目次

第一部
第二部
第三部
第四部
第五部

抄録

 すっと血の気がひいていくのがわかった。
 まさか、本当にこちらの後をつけているのだろうか。
 次の曲がり角までいけば、交通事故防止用のミラーがある。そこで、相手の姿を確認しておこう。
 ミラーの前まできたところで、何気なく後ろの人影の姿を見た。
 悲鳴を、なんとか押し殺した。
 目の錯覚だと思いたかったが、間違いない。
 背後の男は、黒い犬のようなマスクをかぶっていたのだ。
 急速に心拍数が上がっていく。
 心音がやけに大きく、聞こえるような気がした。
 まさか本当に、こんなことがありうるのだろうか。
 頭がなかば、パニック状態に陥り始めていた。
 ネットの都市伝説が、現実になって現れている。
 体の震えが止まらなかった。
 いくらなんでも、偶然とは思えない。
 早足にすると、尾行者の速度も上がるのが足音でわかった。
 落ち着け、と自分に言い聞かせる。
 防犯用グッズなど、持っていない。こんなことなら、痴漢撃退用のスプレーでも買っておくべきだった。
 犬のマスクをかぶって夜の街を歩いているというだけで、すでに立派な不審者である。
 スマホを取り出して、一一〇番に電話するというのも一つの手だが、いまはそんな余裕もなかった。
 下手な動きをすれば、後ろの変質者がいきなり襲いかかってきそうな気がしてならない。
 地獄のような時間が続いた。
 もう少しでマンションにたどり着くはずなのだが、遅々として歩みが進まないように思える。
 頭のなかが恐怖で真っ白になってきた。
 物事が、まともに考えられなくなっていく。
 いったい、不審者の目的はなんなのだ。
 最悪の自体も、想定すべきだろうか。
 たとえば通り魔で、いきなり、刃物で刺してくるということもありうるのだ。あるいは性的な欲求を持っていることも。
 いずれにせよ、悪夢のような状況だ。
 その瞬間だった。
 ものすごい力で、手を握られた。
 悲鳴が出るかと思ったが、こうしたときには声すら出せなくなるものらしい。
 低い男の声が聞こえてきた。マスク越しのせいか、奇妙にくぐもっている。
「ネフレン・カの花嫁よ。まもなく、暗黒のファラオがやってくる。心せよ」
 腰の力が抜けた。
 ネフレン・カの花嫁、といま、男は言ったのだ。
「アヌビスの神官として、汝を祝福しよう」
 それきり、男は黙って去っていった。
 緊張と恐怖に耐え切れず、その場で少し嘔吐《おうと》した。まだ夕食をすまさせていなかったので、ほとんど胃液しか出てこなかったが。
 いまのは、なんだったのだ。
 なかなか足に力が入らない。
 しばらく努力して、生まれたての子鹿のように頼りない姿で美久は立ち上がった。
 目眩と、ひどい非現実感に襲われている。頭がまだ整理できていない。
 とにかく、自宅を目指した。
 マンションのエントランスに入ったときは、安堵のあまりまた力が抜けそうになった。
 エレベータで五階に向かい、自室の鍵を開けた。普通の鍵のほかに、チェーンロックもしっかりとかける。
 靴を脱いで床に上がり、ようやく現実感が戻ってきた。
 体が震えているのは寒さのためでは、むろんない。
 アヌビスの神官、と男は名乗っていた。
 どこかで聞き覚えのある声のような気もするし、初めて聞いたようにも思える。すべてが現実にあったことなのか、だんだん自信がなくなってきた。
 ひょっとすると、またたちの悪い幻覚に襲われたのではないだろうか。
 しかし、あまりにもリアルすぎる。
 窓の外で白いものがふわりと揺れているのを見てまた背筋に寒気がしたが、そういえば今日はベランダに洗濯物を干したままだった。
 機械にでもなったような気分で、洗濯物を取り込んだ。
 一度、洗面台に向かい、口の中をゆすいだ。鏡に映っている自分の顔が、まるで亡霊のように見えた。
 ひどく憔悴し、怯えている。当然といえば、当然なのだが。
 警察に電話するべきかどうか、悩んだ。あれが本当にあったことなのか、また自信がなくなってきたのだ。
 ひょっとすると、あれは兄の仕業なのではないか、という可能性に思い当たった。だが、兄の声とは違う気がする。
 いや、と考えなおした。
 別に、兄が直接、犬のマスクをかぶってあんなことをする必要はないのだ。たとえば誰かを金で雇い、ああした真似をさせた、ということもありうる。もし警察官に見つかれば確実に不審者扱いはされるが、あの犬の仮面の男は、特に犯罪行為らしいことはしていないのだ。
 ただ、アヌビスの神官と名乗り、ネフレン・カについて告げただけだ。
 考えれば考えるほど、兄の仕業の可能性が高いような気がした。だとすると、警察に電話をかけるのはまずい気がする。もし本当に兄が裏にいた場合、いろいろと面倒なことになるのだ。頭のおかしな兄がいると桂一に知られれば、これから先のつきあいもどうなるかわからなくなる。
 こんなときまで打算的なことを考えている自分に少し嫌悪の念を抱いた。
 しかし、人生は一度きりなのだ。どうせなら、幸せな一生を送りたいというのは、誰にでも共通する心理のはずだった。
 不安感が強まってくる。
 桂一の声が聞きたい、と思った。時間を考えれば、まだ職場にいるかもしれないが、いまはそんなことを気にしている余裕はない。
 スマホで電話をかけたが、すぐに繋がった。
『もしもし、どうした?』
「あ、桂一?」
 声を聞くだけで、ほっとしてくる。涙がこぼれそうになってきた。
『なんか……様子、変だぞ』
 わずかな会話で、すぐに桂一はこちらの異常を察したらしい。
「それが……今日、駅からの帰りに……」
 そこまで言ってから、美久は悩んだ。すべてを話すのは、さすがにまずいのではないか、という気がしたのだ。アヌビス神の神官やネフレン・カの花嫁うんぬんの話を聞いたら、桂一はどう思うだろう。
 熟慮した末に、美久は言った。
「帰り道で……変な男の人に追われたの。犬の仮面、かぶってて……」
『マジかよ』
 桂一の声が変わった。
『警察には連絡したのか?』
「してない……」
『通報したほうがよくないか、それ。どうみても危ない奴だろう。犬の仮面をかぶってるとか』
「そうだけど……」
 警察沙汰になるとこちらが困る。
「でも、別に脅されたとか、襲いかかってきたとか、そういうわけじゃないから。ただ、こっちの後をつけてきただけで」
『それにしてもな……心当たりとかは、ないのか』
 どきりとしたが、落ち着いて答えた。
「ないよ……」
『気づいていないだけで、ストーカーとかされているのかもしれないぞ。美久、綺麗だからな』
 少しうれしくなったが、いまは喜んでいる場合ではない。
「たぶん、それもないと思うけど……」
『不安だな。とりあえず今夜は、外に出ないほうがいい。あと、防犯グッズとかは』
「持ってない」
『ならば、明日、買ったほうがいいな。それと、警察にやっぱり通報すべきだよ』
「でも……警察がらみだと、いろいろと面倒なことにならない? 警察の人って、怖そうだし……」
『穏便にすませたいって気持ちはわかるが……ううん、そうだな……』
 回線の向こうから、自動車が行き交う音がかすかに聞こえてきた。
「いま、どこにいるの?」
『俺か? もう、家のすぐ前だな。やべえ、これ、歩きスマホだ』
 桂一が苦笑した。
「横断歩道を渡ればすぐだ。ほら、角にコンビニがある、あそこ」
 何度も桂一に家には行っているので、それでどこかはすぐにわかった。
『とにかく、用心にこしたことはないな。警察がいやなら、とりあえずマンションの管理人には伝えておいたほうがいいかもしれないぞ。あともうちょっとセキュリティの……』
 突如、金属と肉が打ち合うような、異様な音が電話の向こうから聞こえてきた。
『くそっ……マジかよ……』
 それきり、スマホが沈黙した。
 どうやら桂一の身に、なにか不測の事態が起きたらしい。

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