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獅子と醜いあひるの子

獅子と醜いあひるの子


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・イマージュ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

よってたかっての“職場いじめ”。路頭に迷った醜いあひるの子は……。

役員秘書として一流企業に入社したカーラは希望に満ちていた。順風満帆な暮らしはしかし、たったの3カ月で潰えてしまう。秘書室の同僚らに陰湿な嫌がらせをされ、退職を余儀なくされたのだ。さらには家主からも住み慣れた小さな家を追い出されそうになり、カーラは思わずにじんだ涙をぐっとこらえた。わたしを私立学校に入れるために大きな犠牲を払った田舎の両親には、こんな姿は見せられない――入社を誰よりも喜んでくれていたから。新たな職を求め、従姉に紹介された実業家マックスの豪邸を訪ねると、美しき獅子のような鋭い瞳の男性が現れ、カーラは震える声で懇願した。「今日1日無給でいいので、あなたの手足となるチャンスをください」

■マックスはカーラを秘書に雇ったとしても、せいぜい1カ月と心に決めています。一方、カーラは心ないいじめを受け、路上に放り出されそうになって身も心も限界なのに、なんとしても職を得ようとがんばります。けれども、ある日とうとう過労がたたって……。

抄録

 まったく、こうも躍起になって仕事に打ち込む女性を見たのは初めてだ。
 山積みになった書類を手際よくさばいて床に積み上げていくカーラの姿を視界の隅でとらえながら、マックスは思った。
 マグカップに視線を移して気づく。カーラはひと言も尋ねることなく、ブラックコーヒーをいれてくれている。
 これはうれしい誤算だ。これまで雇った秘書たちには、仕事を始めるときにいやというほど質問攻めにされていたが、この女性は自分の判断でどんどん仕事を進めるのが好きなタイプらしい。
 さっき玄関先で彼女の提案を承諾したときに予想した状況とは、多少違った展開になりそうだ。
 それにしても、ぼくに相談もなくいきなり秘書を送り込むとは、いかにもポピーらしいやり方だ。とはいえ、一カ月の試用期間を与えたのは、あくまで友人である彼女の顔を立ててのことだ。カーラには期間を終えたところで辞めてもらおう。ぼくはまだフルタイムで人を雇うつもりはない。部下に日々与えるほどの仕事量はないし、誰かにそばをうろうろされて気を散らされるのはごめんだ。
 マックスは革張りの回転椅子の背もたれに寄りかかり、両手のつけ根で目をこすってから、マグカップを取ってコーヒーをひと口飲んだ。
 経営コンサルタントの仕事も安定した基盤を得て、確かな手応えが感じられるようになってきた。たった一人で始めた事業がここまで来るのは長い道のりだったが、忙しさで気が紛れるのはありがたかった。ぼくはささやかな平穏を求めて仕事に打ち込んでいたのかもしれない。あの日から一年半が過ぎたが、そのあいだずっと、仕事はぼくにとって心の避難場所だった。ジェマイマがいなくなったあの日から。
 いや、彼女はいなくなったわけではない。亡くなったんだ。あまりにも突然に、あっけなく。愛する妻がいないがらんとした屋敷での独り暮らしには今でもなじめない。もともとジェマイマが大叔母から相続した家だ。子どもたちでいっぱいの家にしたいと彼女は望んでいたのに、まだその覚悟ができていないから待ってほしい、と先延ばしにしていたのはぼくだ。
 マックスは運命が奪っていったものに――美しく、思いやりのある妻と生まれていたはずの子どもたちに思いを馳せ、はらわたがねじれるような痛みを感じた。最近は夜ごとに悪夢にうなされ、冷たい汗をかいて夜中に目を覚ます。夢の中で彼は、真っ逆さまに落ちていく幼子の幻影を助けるために、あるいは炎の中にいる息子や娘の幻影を救おうとして、必死に手を伸ばしていた。悪夢を見たショックと苦痛は、しばしば翌日まで尾を引いた。
 疲れきっているのも不思議はないな。
 視界の片隅で何かが動き、物思いは中断した。カーラが右隣でキャビネットを開け、書類を手際よく仕分けしてマニラ紙のファイルにしまっている。
 こうしてあらためて見てみると、カーラはポピーとよく似たところがあって、血のつながりを感じさせた。つややかな黒髪がほっそりした肩にかかり、前髪はアーモンド形の明るいブルーの目の上で切りそろえられている。
 きれいだ。いや、かなりの美人だ。
 だからといって、カーラに恋心を抱いたわけではない。ただ観察の結果、感想を心でつぶやいただけだ。
 カーラが辺りを見まわして、彼の視線に気づいた。吟味するようなマックスのまなざしを受けて、彼女は頬を赤らめた。
 二人のあいだに流れた空気を感じてマックスは落ち着かなくなり、背筋を伸ばして腕組みをし、ビジネスライクな態度を示そうとした。「ところで、カーラ、ここに来る前の仕事のことを聞かせてくれないか? どうして辞めたんだ?」
 彼に見つめられたせいで薔薇色になっていた頬が急に青ざめたように見えた。カーラは咳払いをして視線をそらし、手元の書類をじっと見つめている。まるでぼくが気に入りそうな答えを考えているかのように。
 どういうことだ? マックスは違和感を覚え、眉根を寄せた。「辞めたのではなく、辞めさせられたのか?」
 カーラはぱっと目を上げて彼を見た。「いいえ、違います。自分から辞めたんです。というか、希望退職に応じたんです。会社が昨年、大きな損失を出してしまって、いちばんの新参者だったわたしからまず辞めるべきだろうと思って。同僚の中には扶養家族を抱えている人がたくさんいましたけれど、わたしは独り身ですし」
 カーラは声をうわずらせ、そわそわして、また頬を赤らめている。こんなふうに話すところを見ると、彼女の返答には真実からそれた部分があるようだ。だがそれが何か、マックスにはわからなかった。
 ひょっとすると、ただおびえているだけなんじゃないか? 自分がややもすると高圧的な印象を人に与えてしまいがちなのはわかっている。もっとも、そう思われてしまうのは、他人がぼくの気に入らないことをしたときに限ってなのだが。
 ばかなまねをする連中は容赦しない主義だ。
 だが、秘書として試しに雇ってほしいと談判するカーラの態度は立派なものだった。


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