和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>三角関係
著者プロフィール
剛 しいら(ごう しいら)
6月9日生まれ東京都出身。魚座・A型。趣味は映画・舞台・格闘技・F1鑑賞。プラチナ文庫、ルビー文庫、アズ・ノベルズなどで作品を多数発表。
6月9日生まれ東京都出身。魚座・A型。趣味は映画・舞台・格闘技・F1鑑賞。プラチナ文庫、ルビー文庫、アズ・ノベルズなどで作品を多数発表。
解説
江戸時代より将軍家の御殿医として色道を極めてきた東埜クリニック。後継者である長男の至道は、京都で薬学を学ぶ美しい弟、早瀬を、異常なまでに溺愛していた。そんな早瀬が恋をした。相手は同じ大学の研究生、一色。由緒ある薬師の家系、百人一首を愛し、媚薬の研究に没頭する男……。その昔、失われたという一対の秘伝書『色道指南書』が呼び寄せる、運命の出会いと三つ巴の愛憎劇。禁断のエロティックラブ♪
イラスト 櫻井しゅしゅしゅ
イラスト 櫻井しゅしゅしゅ
抄録
何を考えているのだろう。
一色は早瀬を見ようとはせず、顔を反対側に向けてしまった。
何かを言い淀んでいるようだ。
早瀬は黙って次の言葉を待つしかない。
「色道って言葉…知ってる?」
「しきどう? 武道の一種ですか」
「……知らない?」
「はい」
一色の話には一貫性が欠けている。なんの話をしたいのか、早瀬にはどうあっても要領が掴(つか)めなかった。
「そうか…知らないんだ」
勝手に納得すると、一色はいきなり立ち上がった。
自分がおかしな受け答えをしたせいで、一色は帰るのだろうか。早瀬は原因が分からず、おどおどしながら玄関に向かう一色についていった。
「何か一色さんを怒らせるようなこと言ったでしょうか?」
靴を履こうとしていた一色は、早瀬を振り返り、いやとだけ短く言った。
「ならいいけど…せっかくいらしてくれたのに、もう…帰っちゃうんですね」
またも一色は何かを考える顔になっていたが、早瀬の腕を軽く握り、思いつめたように言った。
「早瀬…。一分後に君のするべきことはどっちかだ。俺にさよならって言うか…そのまま続きを望むか」
どうして一分後なのか。考えろということなのか。
早瀬はさよならなんて言葉より、続きの方がいいと伝えようとしたが、その唇は一瞬にして一色によって塞がれてしまった。
「……」
優しいキスだった。
初めてのキスとしては理想的だろう。穏やかで、静かなキスだ。
ただ唇を重ねるだけで、強く吸われることもない。
時計を見ているわけではなかった。だからこの一分が本当に一分なのか、またはもっと短いのか長いのか、早瀬には判断のしようがない。
だが一分後に言うべき答えだけは分かる。
さよならなんて、決して言えそうになかった。
唇が離れた瞬間、一色は哀しげに早瀬を見つめる。いきなり非礼な行動に出たのだ。さよならと告げられる覚悟をしていたのかもしれない。
早瀬は薄く唇を開いて、顔を上げたまま目を閉じた。
キスを待っている顔だった。
「……そうか……」
頬から顎(あご)にかけて、軽く一色の手が添えられる。
続けて再び唇が重なってきた。
最初の穏やかさが続いたのは、ほんの十秒もなかっただろう。すぐに一色の舌は早瀬の中に押し入ってきて、口中の探索を開始した。
「…ん…」
体は壁に押しつけられた。逃げようもない状況で、早瀬は一色の舌でさんざん味わわれていた。
人は不思議な生き物だ。
食べること、呼吸すること、そして話して相手に意志を伝えるという、大切な役目を担う口に、もう一つ別の役目を与えている。
言葉を発するために舌を使うのではなく、愛欲を交歓するために舌を使い、生命を維持するのに必要な水を吸うように、相手を吸い込んでいく。
「…んん…んっ…」
早瀬の唇からは吐息が漏れる。
*この続きは製品版でお楽しみください。
一色は早瀬を見ようとはせず、顔を反対側に向けてしまった。
何かを言い淀んでいるようだ。
早瀬は黙って次の言葉を待つしかない。
「色道って言葉…知ってる?」
「しきどう? 武道の一種ですか」
「……知らない?」
「はい」
一色の話には一貫性が欠けている。なんの話をしたいのか、早瀬にはどうあっても要領が掴(つか)めなかった。
「そうか…知らないんだ」
勝手に納得すると、一色はいきなり立ち上がった。
自分がおかしな受け答えをしたせいで、一色は帰るのだろうか。早瀬は原因が分からず、おどおどしながら玄関に向かう一色についていった。
「何か一色さんを怒らせるようなこと言ったでしょうか?」
靴を履こうとしていた一色は、早瀬を振り返り、いやとだけ短く言った。
「ならいいけど…せっかくいらしてくれたのに、もう…帰っちゃうんですね」
またも一色は何かを考える顔になっていたが、早瀬の腕を軽く握り、思いつめたように言った。
「早瀬…。一分後に君のするべきことはどっちかだ。俺にさよならって言うか…そのまま続きを望むか」
どうして一分後なのか。考えろということなのか。
早瀬はさよならなんて言葉より、続きの方がいいと伝えようとしたが、その唇は一瞬にして一色によって塞がれてしまった。
「……」
優しいキスだった。
初めてのキスとしては理想的だろう。穏やかで、静かなキスだ。
ただ唇を重ねるだけで、強く吸われることもない。
時計を見ているわけではなかった。だからこの一分が本当に一分なのか、またはもっと短いのか長いのか、早瀬には判断のしようがない。
だが一分後に言うべき答えだけは分かる。
さよならなんて、決して言えそうになかった。
唇が離れた瞬間、一色は哀しげに早瀬を見つめる。いきなり非礼な行動に出たのだ。さよならと告げられる覚悟をしていたのかもしれない。
早瀬は薄く唇を開いて、顔を上げたまま目を閉じた。
キスを待っている顔だった。
「……そうか……」
頬から顎(あご)にかけて、軽く一色の手が添えられる。
続けて再び唇が重なってきた。
最初の穏やかさが続いたのは、ほんの十秒もなかっただろう。すぐに一色の舌は早瀬の中に押し入ってきて、口中の探索を開始した。
「…ん…」
体は壁に押しつけられた。逃げようもない状況で、早瀬は一色の舌でさんざん味わわれていた。
人は不思議な生き物だ。
食べること、呼吸すること、そして話して相手に意志を伝えるという、大切な役目を担う口に、もう一つ別の役目を与えている。
言葉を発するために舌を使うのではなく、愛欲を交歓するために舌を使い、生命を維持するのに必要な水を吸うように、相手を吸い込んでいく。
「…んん…んっ…」
早瀬の唇からは吐息が漏れる。
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