和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>オレ様
著者プロフィール
水瀬 結月(みなせ ゆづき)
兵庫県出身/天秤座/血液型 A型/誕生日 10月23日/趣味:ふかふか布団で昼寝です!
リーフ出版、オークラ出版、ビブロスなどより作品を多数発表。
兵庫県出身/天秤座/血液型 A型/誕生日 10月23日/趣味:ふかふか布団で昼寝です!
リーフ出版、オークラ出版、ビブロスなどより作品を多数発表。
解説
骨董商の会社員、凌は……実は香港の資産家・塔眞家の三男、貴砺の花嫁。様々な事件を経て今、屋敷で一緒に暮らしはじめた二人の愛は日増しに熟れて……。そんな新婚のある日、凌は貴砺から塔眞家のどこかにあるという伝説の魔鏡を探してほしいと頼まれる。見つからねば、貴砺の冷徹にして有能なる秘書、王が窮地に陥ると知り……。初めて暴かれる王の過去……彼の恋人とは!? 甘露滴るウェディング・ミステリー第3弾
イラスト 一馬友巳
イラスト 一馬友巳
抄録
「五時間ぶりだな、凌。ただいまのキスはどうした?」
革張りのソファでノートパソコンを操っていた貴砺が、手を止めて凌をからかう。
驚いたのは、その傍らに屋敷の警備隊長である石動(いするぎ)が控えていたことだ。
彼がこんなふうにして屋敷を離れるのは、とても珍しい。
柔道などの寝技に持ち込んだら絶対に負けないだろうと思わされる大柄な躰と、接近戦でも右に出る者がいないほど強い腕っ節に、さらに俊敏な動きをあわせ持つ、まるで最強の格闘家のような男だ。
短く切り揃えられた黒髪は硬そうで、そのがっしりとした顔立ちとともに、彼の実直な性格を表しているようだった。
ただ、石動の眼は、ふとした瞬間に優しい。普段は敏腕刑事よろしく鋭い目つきをしているが、凌にまっすぐ向けられる時は、安心させてくれるような懐の深さを感じるのだ。人を守る仕事が天職のような男だと凌は思う。
塔眞邸に監禁されていた当初、警備隊員の中で石動のことを一番に覚えたのは、隊長だからというわけではなく、人柄が垣間見(かいまみ)えるそのまなざしのせいだったのかもしれない。
「キスはどうした。石動が気になるのか?」
「石動さんだけじゃなくて、他の人がいるところですることではないと、いつも言ってるじゃないですか」
思わず本気で言い返すと、クッと笑われた。
「わかった。花嫁がそう望むのならば、仕方がない。王、石動、呼ぶまで別室で待機だ」
「貴砺さん! そんな意味ではありません」
慌てて制止するが、聞いてくれる相手ではなかった。
「御意」
王も石動もまったく動じていないことに、よけいに羞恥(しゅうち)を感じる。
二人が退室すると同時に、貴砺はパソコンをテーブルに置き、すっと手を伸ばしてきた。
「凌、キスを」
傲慢な笑みを浮かべる帝王に、凌は微苦笑する。困った人だ、と思いながらも、愛しいと感じてしまう。
「ただいま、貴砺さん」
節のしっかりとした手を取り、腰をかがめた。形のいい唇に、そっと自分のそれを重ねる。
こうして甘やかすからいけないのだろうか。けれど凌だって、キスしたくないわけではないのだ。二人きりで触れ合う時間を持てるなら、それはうれしい。
「まさか、これで終わりではないだろうな」
「終わりです。それよりも、どうして香港に行くのかを教えてください」
「もっとちゃんとキスをするなら、教えてやらないこともないが?」
ふん、と意地悪に片頬を上げる様子から、緊迫した事情でないことだけは察することができた。一族の儀式のようなものに列席するのだろうか。
いや、それなら長期出張にはならないはずだ。
「わかりました。貴砺さんは、動かないでください」
そして凌は、ふたたび腰を折った。貴砺の頬に右手を添え、左手はつないだまま。
漆黒の眼を至近距離で見つめると、それだけで胸がきゅっとなる。こんな関係になって、もう一年になろうというのに。
想いが通じ合ったばかりの頃よりも、もっと貴砺を好きになっているような気がする。
貴砺はどうなのだろう。凌を愛していることは、その独占欲の強さからもよくわかるが、それはずっと同じ気持ちなのだろうか。
凌のために、貴砺が自分を変えようと努力してくれていることは知っている。事実、貴砺は変わった。凌を支配するのではなく、理解しようとしてくれていることが、言動の端々から感じ取れるようになった。
しかし凌が、日を重ねるごとにまた新たな発見をして貴砺に惹(ひ)かれ続けているのと同じように、貴砺が凌を想っているのかはわからなかった。
以前のように縛りつけられなくなったのは──凌を信頼してくれているからだと、喜ぶべきことなのに。ふとした瞬間に違和感を覚えるのは、なぜだろう。
凌は自分の考えを振り払うように、貴砺の唇に自分のそれを押し当てた。
薄い唇を吸い上げると、軽く開いてくれる。貴砺の吐息を感じると、穏やかだった鼓動が少しずつ速度を増してゆく。
「ん…」
顔を傾けて、舌を差し出す。するりと唇の隙間(すきま)を通り、貴砺の口腔(こうこう)に侵入した。一瞬触れた貴砺の舌を追いかけるように、凌は身を乗り出した。
ぐいっと腰を抱き寄せられる。貴砺の膝(ひざ)に乗り上げる形になり、くちづけが深くなった。左手は今もつないでいる。指の間を愛撫され、ぞくっとした。こんなところも感じるなんて、貴砺に出逢(であ)うまで知らなかった。
貴砺の口腔を探っていた舌を強引に吸われ、背筋に痺(しび)れが走る。そのキスに、凌は弱い。わかっていて貴砺はそうするのだ。 何度も深いくちづけを重ね、息が上がったころにようやく解放される。凌は、くったりと肩に凭(もた)れかかった。
「そんな色っぽい姿を見せて…。誘ってるのか?」
*この続きは製品版でお楽しみください。
革張りのソファでノートパソコンを操っていた貴砺が、手を止めて凌をからかう。
驚いたのは、その傍らに屋敷の警備隊長である石動(いするぎ)が控えていたことだ。
彼がこんなふうにして屋敷を離れるのは、とても珍しい。
柔道などの寝技に持ち込んだら絶対に負けないだろうと思わされる大柄な躰と、接近戦でも右に出る者がいないほど強い腕っ節に、さらに俊敏な動きをあわせ持つ、まるで最強の格闘家のような男だ。
短く切り揃えられた黒髪は硬そうで、そのがっしりとした顔立ちとともに、彼の実直な性格を表しているようだった。
ただ、石動の眼は、ふとした瞬間に優しい。普段は敏腕刑事よろしく鋭い目つきをしているが、凌にまっすぐ向けられる時は、安心させてくれるような懐の深さを感じるのだ。人を守る仕事が天職のような男だと凌は思う。
塔眞邸に監禁されていた当初、警備隊員の中で石動のことを一番に覚えたのは、隊長だからというわけではなく、人柄が垣間見(かいまみ)えるそのまなざしのせいだったのかもしれない。
「キスはどうした。石動が気になるのか?」
「石動さんだけじゃなくて、他の人がいるところですることではないと、いつも言ってるじゃないですか」
思わず本気で言い返すと、クッと笑われた。
「わかった。花嫁がそう望むのならば、仕方がない。王、石動、呼ぶまで別室で待機だ」
「貴砺さん! そんな意味ではありません」
慌てて制止するが、聞いてくれる相手ではなかった。
「御意」
王も石動もまったく動じていないことに、よけいに羞恥(しゅうち)を感じる。
二人が退室すると同時に、貴砺はパソコンをテーブルに置き、すっと手を伸ばしてきた。
「凌、キスを」
傲慢な笑みを浮かべる帝王に、凌は微苦笑する。困った人だ、と思いながらも、愛しいと感じてしまう。
「ただいま、貴砺さん」
節のしっかりとした手を取り、腰をかがめた。形のいい唇に、そっと自分のそれを重ねる。
こうして甘やかすからいけないのだろうか。けれど凌だって、キスしたくないわけではないのだ。二人きりで触れ合う時間を持てるなら、それはうれしい。
「まさか、これで終わりではないだろうな」
「終わりです。それよりも、どうして香港に行くのかを教えてください」
「もっとちゃんとキスをするなら、教えてやらないこともないが?」
ふん、と意地悪に片頬を上げる様子から、緊迫した事情でないことだけは察することができた。一族の儀式のようなものに列席するのだろうか。
いや、それなら長期出張にはならないはずだ。
「わかりました。貴砺さんは、動かないでください」
そして凌は、ふたたび腰を折った。貴砺の頬に右手を添え、左手はつないだまま。
漆黒の眼を至近距離で見つめると、それだけで胸がきゅっとなる。こんな関係になって、もう一年になろうというのに。
想いが通じ合ったばかりの頃よりも、もっと貴砺を好きになっているような気がする。
貴砺はどうなのだろう。凌を愛していることは、その独占欲の強さからもよくわかるが、それはずっと同じ気持ちなのだろうか。
凌のために、貴砺が自分を変えようと努力してくれていることは知っている。事実、貴砺は変わった。凌を支配するのではなく、理解しようとしてくれていることが、言動の端々から感じ取れるようになった。
しかし凌が、日を重ねるごとにまた新たな発見をして貴砺に惹(ひ)かれ続けているのと同じように、貴砺が凌を想っているのかはわからなかった。
以前のように縛りつけられなくなったのは──凌を信頼してくれているからだと、喜ぶべきことなのに。ふとした瞬間に違和感を覚えるのは、なぜだろう。
凌は自分の考えを振り払うように、貴砺の唇に自分のそれを押し当てた。
薄い唇を吸い上げると、軽く開いてくれる。貴砺の吐息を感じると、穏やかだった鼓動が少しずつ速度を増してゆく。
「ん…」
顔を傾けて、舌を差し出す。するりと唇の隙間(すきま)を通り、貴砺の口腔(こうこう)に侵入した。一瞬触れた貴砺の舌を追いかけるように、凌は身を乗り出した。
ぐいっと腰を抱き寄せられる。貴砺の膝(ひざ)に乗り上げる形になり、くちづけが深くなった。左手は今もつないでいる。指の間を愛撫され、ぞくっとした。こんなところも感じるなんて、貴砺に出逢(であ)うまで知らなかった。
貴砺の口腔を探っていた舌を強引に吸われ、背筋に痺(しび)れが走る。そのキスに、凌は弱い。わかっていて貴砺はそうするのだ。 何度も深いくちづけを重ね、息が上がったころにようやく解放される。凌は、くったりと肩に凭(もた)れかかった。
「そんな色っぽい姿を見せて…。誘ってるのか?」
*この続きは製品版でお楽しみください。
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