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孔雀宮のロマンス【ハーレクイン文庫版】

孔雀宮のロマンス【ハーレクイン文庫版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★☆☆☆1
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著者プロフィール

 ヴァイオレット・ウィンズピア(Violet Winspear)
 ロマンスの草創期に活躍した英国人作家。第二次大戦中、十四歳の頃から労働を強いられ、苦しい生活の中から“現実が厳しければ厳しいほど人は美しい夢を見る”という確信を得て、ロマンス小説を書き始める。三十二歳で作家デビューを果たし、三十余年の作家人生で約七十作を上梓。生涯独身を通し、一九九八年に永眠するも、ロマンスの王道を貫く作風が今もファンに支持されている。

解説

5年ぶりに南の島で再会した婚約者には、すでに恋人がいた。帰るに帰れずテンプルは途方に暮れ、船着き場へと向かうが、船員に女は断ると言われ、男装して船に乗り込むのだった。2人用船室に待ち受けていたのは、物憂げな美しい男性リック。“孔雀宮の主”だと名乗る貴人は、皮肉めいた笑みを浮かべて、おどおどとした少年姿のテンプルをじっと見つめた――その夜、激しい船酔いに陥ったテンプルは、深い眠りのうちに男装をすべて解かれてしまう。翌朝、怯えるテンプルにリックは、悠然と微笑んだ。「女の子だって、最初からわかっていたよ」
*本書は、ハーレクイン・クラシックスプレミアムから既に配信されている作品のハーレクイン文庫版となります。ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

 テンプルは手すりにしがみつく。たちまち髪はしぶきに濡れ、波のしずくが背筋にまで流れこんだ。
 眼鏡はベッドにおいてきたので、せわしなくまばたきをくりかえしながら、大波にもてあそばれる船のゆれに身をまかすしかない。デッキの厚板はうめき声をあげ、東洋人のおびえたように低い話し声や、時おりまじる子どもの泣き声を圧するように、エンジンの音がひときわ大きくきこえてくる。
 デッキが押しあげられれば、テンプルも押しあげられる。デッキが沈めば、テンプルも沈みこむしかない。目も口も、顔じゅうが波のしぶきでずぶ濡れだった。いっそ、このまま、まるくなって死んでしまいたい、とテンプルは思う。海水に、みじめな涙がまじった。いままで、何度も孤独を味わったことはあった。誰ひとり頼る人もなかったから。けれども、このときほど強く、自分はひとりだと感じたこともなかった。
 無情な波にゆさぶられて、船全体がきしんでいる。テンプルは、近づいてくる足音に気づかなかった。ぼんやりと人影がにじみ、すぐそばで深い声がきこえた。
「ニート・レッケル・マネティエ?」
 何かたずねていることしかわからない。テンプルが目をあげたとき、稲妻が光り、その男の顔を照らしだす。きっと、昔は船乗りだったんだわ、とテンプルは心のなかで言う。海賊のように、あの『宝島』の海賊シルバーと同じに、片目にアイ・パッチをつけていたので。
「気分が悪いんだね?」こんどは、なまりのある英語でたずねる。「かなりの嵐だからな。船室におりたほうがいい」
「わたしは……ぼくはここにいたいんです」テンプルはあえぎながら言う。足もとがおぼつかなくて、はたして船室まで戻れるだろうか。心もとなかった。「わたし……ぼく、だいじょうぶですから」
「そうは思えんな」
 テンプルは抱きかかえられるようにして、海水ですべりやすくなっているデッキを進む。テンプルがよろめくと、その男はたくましい腕にテンプルを抱きあげて鉄梯子をおり、吹きつのる風のなかを、軽々とヘルデン氏の船室に運んでいく。男はドアを開け、肘で明かりをつける。明るい灰色の瞳。まっすぐ、二段ベッドに向かい、下段のベッドに寝かせる。
「ちがいます」
 テンプルはかぼそい声で言った。「ぼくのベッドじゃありません」
「静かにしてなさい、おちびさん」
 いまはただぐったりともの悲しく、テンプルには言い争う気力もなかった。目をまるくして、男がスーツケースを開け、銀の小びんをとりだすのを見つめるばかり。男は栓を開けて、むりやりブランデーをテンプルの口にふくませ、それから自分もひとくち飲んだ。
「そんなことしていいんですか?」テンプルは小さな声で言った。
「そんなことって?」
 黒い三角のアイ・パッチと灰色の片目の組み合わせは、奇妙に心を騒がせる。太陽と風になめされた褐色の顔。
「勝手に、ヘルデン氏のブランデーを飲むなんて……」
 男は灰色の目を細めてテンプルを観察していた。濡れて頭にはりついた髪を、枕の上の青ざめた顔を。とても背が高く、がっしりとした体格の男性だった。稲妻のせいで銀髪だと思っていたけれど、いま船室の明かりで見ると黄味を帯びた褐色の髪で、しぶきに濡れて広い額にかかっている。強い意志と決断力を思わせる高い鼻。何か、たぶん微笑が、灰色の目をかすめ、男は見たこともないお辞儀のしかたで頭をさげ、傲慢に言った。
「おん前に控えますのは、リック・ファン・ヘルデンです。ブランデーも、そのベッドも、わたくしのものです……きみが、相客になったという若いイギリス人だね?……おやおや、まぶたがさがってきたぞ。半分寝てるじゃないか。それじゃ、そのまま眠りたまえ」
「あなたが……あの……」
 テンプルは、あとを続けようと、体を起こそうとする。が、大きな手がテンプルの肩をつかまえて、枕に押し戻した。
「あまり頑丈な若者とはいえんな」
 ひやかすような微笑。テンプルはかすむ目で相手を見つめる。たくましく、恐ろしげな顔。アイ・パッチのせいで、なんだか悪漢めいた感じもする。この男がリック・ファン・ヘルデンで――この嵐の夜に船室を共にする相手なのだ。最後の気力をふりしぼって、テンプルは言いかえした。
「筋肉だけで男を判断するのはまちがいだと、ぼくは信じています」
 相手は濃い眉をぐいとあげてみせる。ゆれる船室の床に腕組みをして突っ立ったままだ。最後に覚えていることは、相手が自分のブレザーを脱がせ、ベッドの蚊帳を整えてくれたことだった。次の瞬間には、すべてがぼやけ、テンプルは眠っていた……。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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