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百光年ハネムーン

百光年ハネムーン

著: 梶尾真治
発行: 出版芸術社
レーベル: ふしぎ文学館
価格:840円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 梶尾 真治(かじお しんじ)
 1947〜
 熊本に生れる。福岡大学経済学部卒。小学生のころからSFが好きで、中学二年のときにSF同人誌「宇宙塵」に参加、自らもSFファングループ「てんたくるす」を結成し、熱心なファン活動を続けていた。71年、「宇宙塵」に発表した短篇『美亜へ贈る真珠』が「SFマガジン」3月号に転載され商業誌デビュー。その後、家業の石油販売会社を継ぐために数年間の沈黙を余儀なくされるが、78年『フランケンシュタインの方程式』(SFマガジン4月号)を発表して作家活動を再開した。以後、センチメンタルSFからナンセンスなドタバタまで、オールマイティともいうべき高水準の作品を次々と発表し、「SF短篇の名手」の名をほしいままにしていたが、90年に刊行された千三百枚の大作『サラマンダー殲滅』では長編にも腕のさえを発揮、第12回日本SF大賞を受賞した。現在も社長業のかたわらコンスタントにSFを書き続けており、近作に『スカーレット・スターの耀奈』『クロノス・ジョウンターの伝説』などがある。

解説

 ハードにソフト、シリアスにユーモア、リリカルにブラック。梶尾さんの作風は多彩をきわめるが、この本にはとくに透明度と抒情性の高い作品群が収められている。晴れわたった冬の夕暮、澄みきった空が深い蒼みをおびて、それが次第に黒へと変化し、音もなく星々がきらめきはじめる。そんな時間を切りとって、結晶化させ、一冊の本に変化させるとこの作品集になるかもしれない。読者は、自分が宇宙の一部であることを実感できるだろう。(田中 芳樹)


 平凡な生活に疲れ学生時代を懐かしく思う清太郎は、往時の行きつけのスナックに足を向けた。しかし、まさかそこで昭和四十二年の世界に紛れこんでしまおうとは! ノスタルジアに満ちた『一九六七空間』をはじめ、『おもいでエマノン』『梨湖という虚像』など、SF短篇の娯しみを満喫させる全12篇! 発表と同時に古典となった、まさに珠玉のデビュー作『美亜へ贈る真珠』から、単行本未収録の最新作『トランファマドールを遠く離れて』まで、梶尾SFの粋を初めて集大成した、リリカルロマンの傑作集!

目次

美亜へ贈る真珠
もう一人のチャーリイ・ゴードン
玲子の箱宇宙
ファース・オブ・フローズン・ピクルス
夢の閃光・刹那の夏
ムーンライト・ラブコール
トラルファマドールを遠く離れて
一九六七空間
梨湖という虚像
おもいでエマノン
ヴェールマンの末裔たち
百光年ハネムーン

初出一覧
あとがき
著書リスト

抄録

 突然、美少女はぼくの話を遮ったのだ。
 「じゃあ、あなたは、どんな突飛な話を聞かされても、それを受け止めるだけの思考の柔軟性は持っているわけね」
 「他の人よりはね。分析までできるかどうかはわからないけれど、突飛な話を受入れる素地はあるつもりだ」
 少女の問いかけに、やや挑戦的なものを感じて、たじろいだ返事になってしまった。
 「だけど、エマノン。何で急に」
 すなおにぼくの口から、彼女の名前がでたのだ。美少女は自分の長い髪を一回、大きく振り払った。
 「私の話を聞いてみない。信じるか、信じないかは、別として……」
 そこで美少女は一つ、大きく息を吸いこんだ。そして、ぼくの答も待たず話し始めたのだ。
 「私が生まれたのは、昭和二十五年。だから、今十七歳。だけど、これは私の肉体的年齢にすぎないの。私の精神年齢は……たぶん三十億歳くらいになるらしいの」
 「…………」
 「見た眼には十七歳なんだけれどね」
 エマノンは独りごとのように、もう一度呟(つぶや)いた。
 「だと、すると、君はギルガメシュ伝説のように、何度も若返って不死を保ってきたというのかい」
 ギルガメシュというのは古代バビロニアの叙事詩に登場する英雄だ。彼はウタナビシュティムから不死の秘法を授けられたのだ。
 「そんなんじゃないの。不死という表現は誤解を招くわ」
 首を振ってエマノンは否定した。
 「だとすると、長寿ということかな。メトセラの話は知ってるかい。創世記に出てくるメトセラは九百六十九歳まで生きたそうだし、あっ、そうだ。日本でも、そんな伝説があるんだ。若狭に伝わる話で、不思議な異人にもらった人魚の肉を食べた少女が、少しも歳(とし)をとらず八百歳まで生きたそうだ。千歳まで生きられるはずだったらしいけど、あと二百年の寿命をその国の領主に譲ったんだって。八百歳まで少女の姿でいられたというので、その後、八百姫(やおひめ)明神とか白比丘尼(しらびくに)、八百比丘尼と祭られたそうだ。そんな伝説が参考になる気がするけれど」
 自分でその話をしながら、何だかエマノンが白比丘尼であるように気がしはじめていたのだ。白比丘尼の伝説では「著聞集(ちょもんじゅう)」にしろ「若狭国志」「和漢三才図会」「播磨鏡(はりまかがみ)」でも十五歳から十八歳の年齢にしか見えないと描写されているからだ。
 美少女は困ったように眉を寄せた。
 「早っとちりしないで。それは事実、白比丘尼だったこともあるけれど、人魚の肉を食べたこともなかったし、歳をとらないってことはなかったわ。よく聞いて。
 私・は・地・球・に・生・命・が・発・生・し・て・か・ら・現・在・ま・で・の・こ・と・を・総・て・記・憶・し・て・い・る・の・よ・」(「おもいでエマノン」より)


*この続きは製品版でお楽しみください。

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