和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>極道・刑事
著者プロフィール
剛 しいら(ごう しいら)
6月9日生まれ東京都出身。魚座・A型。趣味は映画・舞台・格闘技・F1鑑賞。プラチナ文庫、ルビー文庫、アズ・ノベルズなどで作品を多数発表。
6月9日生まれ東京都出身。魚座・A型。趣味は映画・舞台・格闘技・F1鑑賞。プラチナ文庫、ルビー文庫、アズ・ノベルズなどで作品を多数発表。
解説
刑事の真城は覚醒剤横流しの捜査中、凶弾に倒れた。 死の間際、密かに想い続けていた相棒の高瀬に何も告げていないと思った時、奇跡のような偶然で一命を取り留める。 だが、その時から真城は夜の住人になってしまった。 突然の真城の休職に、逆に疑いがかかってしまうが、高瀬は真城を信じ、単独捜査を始める。 事件に巻き込みたくない真城は……。死すら乗り越えるラブストーリー!
※イラストは含まれていません
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抄録
満月が見ている。
そう思えるのは、月に浮かぶ影が女の顔のように見えるからだ。
見ているのが月なら構わない。
他の誰かに見つかったらまずいのだが。
真城宣哉は、月明かりを避けた物陰に、拳銃を手にして潜んでいた。
大学を卒業後、警察官になって五年、現在は神奈川県警の刑事四課で暴力団、いわゆるヤクザと呼ばれる連中と戦っている。今夜も覚醒剤取引の情報を元に、大がかりな包囲網の一員として、犯人を逮捕するべく待機していた。
スーツの下には、防弾ベストを着用している。六月のこの時期、ベストは重く暑かった。
緊張感で手の中の銃がぬるつく。何度もズボンのポケットからハンカチを取りだして、掌を拭わないといけなかった。
打ち合わせの時点で指定された待機場所は、月明かりが当たり過ぎる。真城はそのために細かい移動を繰り返し、今は倉庫に置かれた荷物の影に隠れていた。
どの倉庫で取引が行われるのか。横浜港の一画に並んだ倉庫には、取引現場という目印があるわけではない。もたらされた情報がもっと詳細だったら、こんなに広範囲に捜査員が散らばる必要もなかっただろう。
真城は近くに潜んでいるだろう、同僚の高瀬諒二のことを考えた。
誰にでも優しくて、気のいい高瀬は真城より二年先輩だ。普段は物静かな大男だったが、怒り出したら止まらない。ヤクザ五人が相手でも、平気で素手で戦った。ヤクザも高瀬の蛮勇ぶりは知っていて、繁華街で出くわしてもすっと避けるくらいだ。
黙っていると、男らしい色男なのに、なぜか高瀬は女にもてない。何であんなにいいやつなのに、女達は高瀬でなく、自分のような優男にすりよってくるのかと、真城は思い出したくないことなのに数日前の夜を思い出してしまう。
先週の休み、たまたま飲みに行った店で、隣席になった若い女性の二人連れがいた。高瀬は気に入ったようだが、女性に対しては恥ずかしがり屋なので、お前から話しかけてくれよと真城にそれとなく頼んできた。
真城が話しかけると反応はとてもよくて、楽しい会話が弾んだが、帰りがけに二人がメールアドレスをこっそりと教えたのは、真城だけだった。どちらも真城狙いだったのだろう。
高瀬はそのことでひどく落ち込んだ。もてねぇなと嘆きつつ、まぁ、俺には真城がいるからいいやと笑って済ませたが、真城の心境は複雑だ。
同僚に惚れたらいけない。
いや、普通の意味でなら惚れてもいいのだ。男が男に惚れる。命を危険に曝して働く男たちが、同僚と助け合ううちに、相手の男心に惚れ込む話ならいくらでもある。
そんな惚れ方だったらいい。
なのに真城のは、もはや恋に近い。
いけないことだ。冷静になれと思っても、高瀬が軽く背中に触れただけで、言葉にならないときめきを感じてしまう。
元々男好きだったら、あいつは好みのタイプなんだよなと、単純に納得して行動に移せる。けれど真城には、男との恋愛経験は皆無だった。
どうしたらいいか分からない。想いばかり先行して、自分一人の苦しみが延々と続いている。どこかで終わりにしなければと焦る気持ちがあるけれど、行動に移す勇気がなかった。
高瀬が相棒である以上、常に行動を共にしなければいけなくなる。それは恋する者として喜びであり、また苦しみでもあった。 今夜も近くに高瀬がいる。屈強な男だが、間違って被弾したらと思うと不安になる。自分の身は心配しないのに、相手の身ばかり案じるのは、恋するものの愚かさゆえだ。
お前が好きだと告白したら、高瀬はどんな顔をするだろう。
俺も友達の中ではお前が一番好きだよと、何でもない様子で答えて、あっさりと真城の言葉をただの友情に置き換えてしまうかもしれない。
内心気が付いていても、高瀬は男同士の恋愛なんて認めはしないだろう。他人の問題だったら、理解のあるところを示すだろうが、自分の身に置き換えることは出来ない筈だ。
忙しいし、体がでかすぎて怖がられるせいかな。女もできねぇやと笑う高瀬に、おれなら一生、お前の側にいてやると言えたら、どんなに素晴らしいだろう。
寝食を共にするだけではなく、時には情欲も分かち合えたらいいのに。
そう告げる言葉は、いつまでも真城の心から出て行くことはない。
真城は左手に銃を持ち替え、何度目かの汗を拭う。
おかしい。
情報はガセだったのだろうか。本来なら車が到着し、倉庫の扉が開かれて、裏の取引が開始されないといけない時間だ。なのに周囲には怪しい人影も、車の往来もない。
情報屋に繋がっているのは真城だ。ガセネタを掴まされたとなったら、始末書ものだった。ガセでないとしたら、裏で情報が漏れているかだが、そうなったらもっと事件は複雑になってしまう。
「……まさか……」
一度なら失敗もありうる。けれど検挙のために大量動員をするのは、今夜が二度目だ。前回も事前に捜査情報が漏れたのか、何も動きのないまま翌朝を迎えた。だが実際は別の場所で取引は行われていて、警察は見事に裏をかかれたのだ。
今夜も同じ失敗をすることになるのか。
そう思って、上司に伺いをたてようと動き出した途端に、後頭部で何かが破裂した。
*この続きは製品版でお楽しみください。
そう思えるのは、月に浮かぶ影が女の顔のように見えるからだ。
見ているのが月なら構わない。
他の誰かに見つかったらまずいのだが。
真城宣哉は、月明かりを避けた物陰に、拳銃を手にして潜んでいた。
大学を卒業後、警察官になって五年、現在は神奈川県警の刑事四課で暴力団、いわゆるヤクザと呼ばれる連中と戦っている。今夜も覚醒剤取引の情報を元に、大がかりな包囲網の一員として、犯人を逮捕するべく待機していた。
スーツの下には、防弾ベストを着用している。六月のこの時期、ベストは重く暑かった。
緊張感で手の中の銃がぬるつく。何度もズボンのポケットからハンカチを取りだして、掌を拭わないといけなかった。
打ち合わせの時点で指定された待機場所は、月明かりが当たり過ぎる。真城はそのために細かい移動を繰り返し、今は倉庫に置かれた荷物の影に隠れていた。
どの倉庫で取引が行われるのか。横浜港の一画に並んだ倉庫には、取引現場という目印があるわけではない。もたらされた情報がもっと詳細だったら、こんなに広範囲に捜査員が散らばる必要もなかっただろう。
真城は近くに潜んでいるだろう、同僚の高瀬諒二のことを考えた。
誰にでも優しくて、気のいい高瀬は真城より二年先輩だ。普段は物静かな大男だったが、怒り出したら止まらない。ヤクザ五人が相手でも、平気で素手で戦った。ヤクザも高瀬の蛮勇ぶりは知っていて、繁華街で出くわしてもすっと避けるくらいだ。
黙っていると、男らしい色男なのに、なぜか高瀬は女にもてない。何であんなにいいやつなのに、女達は高瀬でなく、自分のような優男にすりよってくるのかと、真城は思い出したくないことなのに数日前の夜を思い出してしまう。
先週の休み、たまたま飲みに行った店で、隣席になった若い女性の二人連れがいた。高瀬は気に入ったようだが、女性に対しては恥ずかしがり屋なので、お前から話しかけてくれよと真城にそれとなく頼んできた。
真城が話しかけると反応はとてもよくて、楽しい会話が弾んだが、帰りがけに二人がメールアドレスをこっそりと教えたのは、真城だけだった。どちらも真城狙いだったのだろう。
高瀬はそのことでひどく落ち込んだ。もてねぇなと嘆きつつ、まぁ、俺には真城がいるからいいやと笑って済ませたが、真城の心境は複雑だ。
同僚に惚れたらいけない。
いや、普通の意味でなら惚れてもいいのだ。男が男に惚れる。命を危険に曝して働く男たちが、同僚と助け合ううちに、相手の男心に惚れ込む話ならいくらでもある。
そんな惚れ方だったらいい。
なのに真城のは、もはや恋に近い。
いけないことだ。冷静になれと思っても、高瀬が軽く背中に触れただけで、言葉にならないときめきを感じてしまう。
元々男好きだったら、あいつは好みのタイプなんだよなと、単純に納得して行動に移せる。けれど真城には、男との恋愛経験は皆無だった。
どうしたらいいか分からない。想いばかり先行して、自分一人の苦しみが延々と続いている。どこかで終わりにしなければと焦る気持ちがあるけれど、行動に移す勇気がなかった。
高瀬が相棒である以上、常に行動を共にしなければいけなくなる。それは恋する者として喜びであり、また苦しみでもあった。 今夜も近くに高瀬がいる。屈強な男だが、間違って被弾したらと思うと不安になる。自分の身は心配しないのに、相手の身ばかり案じるのは、恋するものの愚かさゆえだ。
お前が好きだと告白したら、高瀬はどんな顔をするだろう。
俺も友達の中ではお前が一番好きだよと、何でもない様子で答えて、あっさりと真城の言葉をただの友情に置き換えてしまうかもしれない。
内心気が付いていても、高瀬は男同士の恋愛なんて認めはしないだろう。他人の問題だったら、理解のあるところを示すだろうが、自分の身に置き換えることは出来ない筈だ。
忙しいし、体がでかすぎて怖がられるせいかな。女もできねぇやと笑う高瀬に、おれなら一生、お前の側にいてやると言えたら、どんなに素晴らしいだろう。
寝食を共にするだけではなく、時には情欲も分かち合えたらいいのに。
そう告げる言葉は、いつまでも真城の心から出て行くことはない。
真城は左手に銃を持ち替え、何度目かの汗を拭う。
おかしい。
情報はガセだったのだろうか。本来なら車が到着し、倉庫の扉が開かれて、裏の取引が開始されないといけない時間だ。なのに周囲には怪しい人影も、車の往来もない。
情報屋に繋がっているのは真城だ。ガセネタを掴まされたとなったら、始末書ものだった。ガセでないとしたら、裏で情報が漏れているかだが、そうなったらもっと事件は複雑になってしまう。
「……まさか……」
一度なら失敗もありうる。けれど検挙のために大量動員をするのは、今夜が二度目だ。前回も事前に捜査情報が漏れたのか、何も動きのないまま翌朝を迎えた。だが実際は別の場所で取引は行われていて、警察は見事に裏をかかれたのだ。
今夜も同じ失敗をすることになるのか。
そう思って、上司に伺いをたてようと動き出した途端に、後頭部で何かが破裂した。
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