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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル

誇り高き愛人

誇り高き愛人


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆3
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著者プロフィール

 エリザベス・ロールズ(Elizabeth Rolls)
 イギリスのケント生まれ。父の都合で幼少期を過ごしたオーストラリアのメルボルン、パプア・ニューギニアの生活が執筆に興味を抱くきっかけとなった。ニューサウス・ウェールズ大学では音楽学を専攻し、音楽教師も経験。現在はメルボルンで夫と共に、犬や猫に囲まれて暮らしている。

解説

 ヴェリティが十五歳のとき、父は自殺した。その後、叔父の屋敷での召使い同然の扱いに耐え続けている。唯一の心の支えは、記憶の中の紳士の面影。父の墓前で優しくしてくれた伯爵、マックスだった。歳月は流れ、ヴェリティは可憐な娘に成長した。ある日マックスが、叔父の屋敷を訪問する。だが悲しいことに、彼はヴェリティに気づかない。それでも、温かいまなざしは変わっておらず、冷遇される彼女に同情し、いとこの執拗な誘惑からも救ってくれた。しかも、思いもよらない提案を持ちかけてきた。彼の愛人にならないかというのだ。
 ★悲運に耐える心優しい娘に惹かれた伯爵が、恩人の娘とは気づかず、愛人契約を持ちかけます。豪華なドレスと宝石で身を飾り、瀟洒な邸宅で生活する――はたして、それは真の幸せなのでしょうか?★

抄録

 セリーナを口説くつもりだ。やさしく。そして、望みはなんでもかなえてやろう。たぶん彼女が望まないこともいくつか教えると思うと、体がうずいた。
「セリーナ、どこへ行くつもりだ?」
 灰色の瞳が不思議そうに彼を見た。「行く?なんのお話ですか?」
 マックスは根気よく言った。「追い出されたときにだよ。あの女主人ではろくな紹介状を書いてくれないだろう。行く当てはあるのか?」
「行く当て?」ヴェリティはつばをのんだ。
「ああ。つまり――」
「解雇はされません」
 マックスは唖然《あぜん》とした。「えっ?」
「わたしは解雇されません」
 彼女の言葉が信じられず、マックスはさらに続けた。「セリーナ、ふざけている場合じゃない。きみは別の勤め口を考えたことがあるか?何かほかの……」幅広のタイ《クラバット》で息がつまりそうだ。いまいましい!彼女に決定権のある申し入れをするのに、なぜこれほど苦労するのだ?
「いいえ。紹介状がありませんから」
 マックスは笑いをかみ殺した。紹介状?そんなものが必要だとは思わなかった。彼女が軽やかに室内を歩きまわって羽根ペンや本や古ぼけた地球儀を片づける姿を見られれば充分だ。彼は穏やかにきいた。「スイートハート、きみの望みは?」
 彼女は目を見開いた。「なぜそのような呼び方を?」
 マックスにもわからなかった。女性にスイートハートと呼びかけたのははじめてだ。しかし、ごく自然な気がする。「きみは何を望んでいるのだ?」彼は質問をくり返し、いっそう不審に思われたのに気づいて言い足した。「つまり、その……人生に」どこからそんな言葉が出たのだろう?女性のほしがるものは知れている。美しいドレス、宝石、馬車、男性の関心、すべてありふれた……。
「家族です」
「えっ?」
 ヴェリティは赤くなって目をそらした。「笑わないでください。無理なのはわかっています。でも、質問されたから……」彼女の声がとぎれた。マックスは動揺した。
「子どもがほしいのか?」今までの愛人たちはみな、どうにかしてその災難を避けようとした。子どもをほしがる愛人?彼は緊張感を覚えた。
 彼女は黙って棚のほこりを払い始めた。マックスは眉をひそめた。もうその仕事もしなくていいのだ。
「セリーナ?」
 ついに彼女は答えた。「子どもがいるのも楽しいでしょう。でも、わたしは……自分の居場所がほしい。家族の一員になりたいんです。ひとりぼっちではなく」
 マックスの心はまた揺れた。「家族はいないのか?手紙を書く相手も?」
「身内と思える人はいません」声が硬くなった。「プレゼントをあげる相手もです。でも、かえってよかったわ。あげるものが何もないのだから」
 マックスは有利になったと感じながらも、胸を痛めた。家族がいない。これから選ぶかもしれない生き方に失望したり恥じたりする人もいないのだ。セリーナの立場はいっそう弱くなる、とささやく声を無視してマックスは彼女に近づき、はたきを奪って床に落とした。
 指が触れ合い、ヴェリティはびくっとした。マックスが彼女の手を握り、荒れた肌を親指でなでた。彼女は緊張し、震えた。いったい何をするつもりなの?視線を彼に戻したのは間違いだった。
「何もない?」マックスはにこっと笑った。目の輝きがまぶしい。骨まで溶かしそうなほど情熱的だ。
 彼女は頼りなげにうなずいた。「ええ」
「きみはぼくのほしいものを持っている」
 彼は甘い声で言い、さらに近づいた。コロンの香りがヴェリティの鼻をくすぐった。
「別の勤め先を考えてみてはどうだ、セリーナ?」
 彼女には考えることなどできなかった。すぐそばにマックスがいるだけで、胸がいっぱいになった。それでも首を振り、なんとか気持ちを集中した。ファリンドン夫妻が許すはずはない。でも彼には言えなかった。正体を悟られるような話はしたくない。「紹介状がなければ……勤め口を見つけたところで、どうにもなりません」それも真実だったが、理由のすべてではない。ほつれ髪が目にかかった。耳の後ろへ押し込んだが、すぐに落ちてきた。また払いのけようとして上げた手が、止まった。
 彼が払ってくれたのだ。そして、やけに親密な仕草で彼女の髪をなで、親指で円を描くようにこめかみに触れたあと、頬からあご、のどへとゆっくりなで下ろした。
 ヴェリティの顔はほてり、胸やおなかのあたりに奇妙なうずきを覚えた。胸がどきどきする。呆然《ぼうぜん》と見つめるのが精いっぱいだ。彼女はかすれた声で言った。「あの……どういうことなのか……」
「では説明するしかないな」マックスはつぶやいた。
 ヴェリティは息をのんだ。男性の声がこれほど深く胸に響いたのははじめてだった。いや、抱きすくめられたり、耳もとでささやかれたこともない。快感に襲われながらも、徐々に事情がのみ込めてきた。何を彼が望んでいるのかがわかる。
 マックスの指がそっとあごを持ち上げた。
 ヴェリティはぞくぞくした。琥珀《こはく》色の瞳が間近で見つめている。ひげそり用の石鹸《せっけん》と男っぽいほのかな香りのとりこになった。思わず手をのばし、ほんの少しひげののびた彼のあごをなでて、ざらついた感触を確かめた。
 こんなことをしてはいけない。マックスの望みはわかっている。手を引っ込めるべきだったが、彼の目にまどわされた。誘惑に負けそうになった。自分自身の欲望に負けてはいけない。呼吸が震え、自分がそれを欲しているのがわかった。鼓動が速いのは怖いからではない。彼がさらに迫った。吐息が唇にかかるほどだ。慎み深さや礼儀についての教訓や良識がいっせいに警告を発した。逃げなさい!
 唇に一瞬、温かな唇が触れた。まるで羽のように軽いキス。ヴェリティは喜びに震えた。彼のぬくもりに包まれながら、ひそやかなため息をもらし、口を開いたとたん情熱的なキスをされ、何も考えられなくなった。そして、それが現実かどうかを理解する間もなくマックスが唇を離した。
 ヴェリティはまばたきして目を開けた。閉じていたことさえ気づかなかった。彼はなおもそばにいた。のどの血管が見えるほど近くに。
 穏やかな低い声がした。「これではっきりしただろう」
 彼女はうなずいただけだった。息がつまって声を出せそうになかったからだ。わたしはなぜさも理解したようにうなずいたのだろう。これほど困惑したことはないのに。彼が平静に話せるのが不思議だ。わたしはこんなに頭がくらくらしているのに。レディ・モンクリーフを思い出し、いやな気分になった。マックスは美しい女性を大勢知っている。さまざまな方法で男性を喜ばせる女たちを……。あの程度で動揺するはずがないでしょう?なぜキスをしたの?わたしを望んでもいないのに。
「セリーナ、もうわかってもらえたかな?」
 わかりすぎるほどわかった。彼女はやさしい声に背を向けて部屋を出ようとした。言われている意味は理解した。でも無理強いはされないだろう。
 マックスがいきなり彼女の手首をつかんだ。
 ヴェリティはびくっとして立ち止まった。恐怖が込み上げた。それを押し隠して彼女は懸命に冷静さを装った。「なんでしょう?」
「待ちたまえ、セリーナ」
 有無を言わさぬ口調だった。手首を強く握られ、彼女は怯《おび》えた。やめて。そんな人ではないと思っていたのに。わたしの誤解だったの?ヴェリティは緊張して彼と向き合った。
 マックスは思いつめた目で彼女の顔を、それから手首を見た。「すまない」手を放した。ヴェリティは体の一部をもぎ取られたような喪失感を覚えた。
 手首を頬に押し当てたい衝動をこらえるうちに、恐怖がいくぶん和らいだ。
「紹介状のいらない勤め先もあるぞ、セリーナ。それに、ぼくは間違いなくゴッドフリーよりはやさしい恋人になれるだろう」
 ヴェリティはまた緊張した。今にも捕まって、抱きすくめられそうな気がする。男性が誘うことはない。実際は奪うのだ。
「わたし……もう行かなければ。失礼します」明るい琥珀色の目が大きな猫のように見つめている。ヴェリティも見つめ返したままドアまであとずさり、すばやく部屋を出ていった。

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