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解説
“氷の伯爵”の異名をもつ独身主義者のダレンヴィル卿が、年頃の令嬢を集めてパーティーを催し、花嫁を探すと言い出した。会場の手伝いをすることになった家庭教師タレイア・ロビンソンは、招待者の条件とやらを漏れ聞いて、伯爵の高慢さに呆れ返った。血統が良く、歯が丈夫で腰の大きい、気性が穏やかな貴婦人? まるで繁殖用の雌馬を探しているかのような言い草だわ!だがパーティーが無事に終わったとき、伯爵は思いがけず、その条件をまるで満たさない女性を花嫁に指名した。「ミス・ロビンソン、式はできるだけ早く執り行いたい……」
抄録
「少しお時間をいただけませんか、ミス・ロビンソン。お話ししたいことがあります」伯爵は再びタリーの腕に触れた。さっきのようにぎゅっとつかむのではなく、軽く触れただけだった。
タリーは困惑して顔を上げた。伯爵の冷たい灰色の目に浮かんだ表情を見て、頭のなかでかすかに警報が鳴ったが、無視した。召使いに苦情があるか、レティシアに伝言があるに違いない。タリーは平静を装って再びソファに腰を下ろすと、膝の上で慎み深く手を組んで待った。
マグナスはタリーが手を組んでいるのに気づいた。実にしおらしい。彼はタリーの態度が気に入った。レティシアから花嫁に選ばれたことを聞かされたに違いない。できればまだ内密にしておいてほしかったが、彼女の反応を見るかぎり、わたしの選択は間違っていなかったようだ。彼女ははしゃいだり、媚《こ》びたりするような、はしたないまねもしなかった。実によろしい。マグナスは大きく息をつき、急にそわそわしだした自分に驚いた。
「レティシアと話したそうだが」
タリーは胃が縮み上がるのを感じた。彼女は黙ってうなずいた。
「彼女が黙っていられない性分だということをわかっておくべきだった」タリーの返事も待たずに、ダレンヴィル卿は説明し始めた。「式はできるだけ早く執り行いたい。結婚の公告には三週間かかる。この館で式を挙げ、ジョージが花嫁を新郎に引き渡す役を務める。内輪だけで式を挙げよう。レティシアとジョージと、もちろん、きみが招待したい友人や親類がいるなら……」
嘘よ、これはなにかの間違いだわ。伯爵がタレイア・ロビンソンと結婚するなどということはありえない!ろくに言葉を交わしたこともないのに。
だが、伯爵はいたって真剣だった。これは冗談でも、わたしをからかおうとしているのでもない。
でも、伯爵はわたしに彼と結婚する意思があるかどうかたずねようともしなかった!
タリーはショックが薄らぐと、怒りがふつふつとこみ上げてくるのを感じた。こんな屈辱的なことがあるだろうか?タリーは自分が結婚できる見込みがないことを知っていた。レティシアの無給の家庭教師として田舎に住んでいるので、若い独身の男性と知り合う機会もなく、取り立てて美しくもなければ、財産も持たないような娘に縁談の話はなかった。わたしは形だけの求婚をするにも値しないというのだろうか?わたしの気持ちなどどうでもいいというのだろうか?
タリーは怒りで真っ赤になって膝に目を落とし、唇を噛《か》んだ。伯爵の取り澄ました顔に平手打ちを食らわしたくて、手がわなわなと震えた。
ダレンヴィル卿は椅子から立ち上がり、タリーの前を行ったり来たりしながら式の段取りを説明した。彼は未来の花嫁が恥ずかしそうに頬を染めてうつむいているのを見て、自分の目に狂いはなかったと再び思った。彼女は甘やかされた娘ではない。おとなしく話に耳を傾けている。なんと従順なことか!
社交界の女性を子供の母親にと考えた自分はなんと愚かだったのだろう。レティシアの選んだ候補者は自尊心の強いわがままな娘ばかりだ。この慎《つつ》ましやかに目を伏せた娘のほうがどれだけましかしれない。タレイア・ロビンソンは彼の申し出に感謝しているだろう。彼女は気性も激しくないし、俗っぽい野心も持ち合わせていないはずだ。
マグナスは彼女の全身に目を走らせた。ぞっとするようなドレスの上からではなんとも言えないが、ふくよかで出産には十分に耐えられそうだ。そして、彼女には愛情がある。マグナスは愛情を求めていた。もちろん子供のためにだ。彼はこの娘がその手で幼いジョージーを優しく撫でていたのを思い出した。ぜひとも彼女でなくては。
*この続きは製品版でお楽しみください。
タリーは困惑して顔を上げた。伯爵の冷たい灰色の目に浮かんだ表情を見て、頭のなかでかすかに警報が鳴ったが、無視した。召使いに苦情があるか、レティシアに伝言があるに違いない。タリーは平静を装って再びソファに腰を下ろすと、膝の上で慎み深く手を組んで待った。
マグナスはタリーが手を組んでいるのに気づいた。実にしおらしい。彼はタリーの態度が気に入った。レティシアから花嫁に選ばれたことを聞かされたに違いない。できればまだ内密にしておいてほしかったが、彼女の反応を見るかぎり、わたしの選択は間違っていなかったようだ。彼女ははしゃいだり、媚《こ》びたりするような、はしたないまねもしなかった。実によろしい。マグナスは大きく息をつき、急にそわそわしだした自分に驚いた。
「レティシアと話したそうだが」
タリーは胃が縮み上がるのを感じた。彼女は黙ってうなずいた。
「彼女が黙っていられない性分だということをわかっておくべきだった」タリーの返事も待たずに、ダレンヴィル卿は説明し始めた。「式はできるだけ早く執り行いたい。結婚の公告には三週間かかる。この館で式を挙げ、ジョージが花嫁を新郎に引き渡す役を務める。内輪だけで式を挙げよう。レティシアとジョージと、もちろん、きみが招待したい友人や親類がいるなら……」
嘘よ、これはなにかの間違いだわ。伯爵がタレイア・ロビンソンと結婚するなどということはありえない!ろくに言葉を交わしたこともないのに。
だが、伯爵はいたって真剣だった。これは冗談でも、わたしをからかおうとしているのでもない。
でも、伯爵はわたしに彼と結婚する意思があるかどうかたずねようともしなかった!
タリーはショックが薄らぐと、怒りがふつふつとこみ上げてくるのを感じた。こんな屈辱的なことがあるだろうか?タリーは自分が結婚できる見込みがないことを知っていた。レティシアの無給の家庭教師として田舎に住んでいるので、若い独身の男性と知り合う機会もなく、取り立てて美しくもなければ、財産も持たないような娘に縁談の話はなかった。わたしは形だけの求婚をするにも値しないというのだろうか?わたしの気持ちなどどうでもいいというのだろうか?
タリーは怒りで真っ赤になって膝に目を落とし、唇を噛《か》んだ。伯爵の取り澄ました顔に平手打ちを食らわしたくて、手がわなわなと震えた。
ダレンヴィル卿は椅子から立ち上がり、タリーの前を行ったり来たりしながら式の段取りを説明した。彼は未来の花嫁が恥ずかしそうに頬を染めてうつむいているのを見て、自分の目に狂いはなかったと再び思った。彼女は甘やかされた娘ではない。おとなしく話に耳を傾けている。なんと従順なことか!
社交界の女性を子供の母親にと考えた自分はなんと愚かだったのだろう。レティシアの選んだ候補者は自尊心の強いわがままな娘ばかりだ。この慎《つつ》ましやかに目を伏せた娘のほうがどれだけましかしれない。タレイア・ロビンソンは彼の申し出に感謝しているだろう。彼女は気性も激しくないし、俗っぽい野心も持ち合わせていないはずだ。
マグナスは彼女の全身に目を走らせた。ぞっとするようなドレスの上からではなんとも言えないが、ふくよかで出産には十分に耐えられそうだ。そして、彼女には愛情がある。マグナスは愛情を求めていた。もちろん子供のためにだ。彼はこの娘がその手で幼いジョージーを優しく撫でていたのを思い出した。ぜひとも彼女でなくては。
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