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著者プロフィール
名倉 和希(なくら わき)
1998年ビブロスからデビュー。6月25日生まれのかに座。A型。愛知県出身、長野県安曇野あたりに在住。趣味はボーイズラブを読むこと。
1998年ビブロスからデビュー。6月25日生まれのかに座。A型。愛知県出身、長野県安曇野あたりに在住。趣味はボーイズラブを読むこと。
解説
社内でもデキル男として有名な高村圭輔が率いるチームに配属された新人商社マンの前嶋由耶。 長身で精悍な印象、優秀なうえに人望もある高村に由耶は心酔している。 だが、3ヶ月後に高村が海外転勤すると知ったとき、由耶は高村への恋を自覚する。 意を決して告白した由耶に、高村は転勤までの条件つきで、好きなときに抱かせるならつきあってもいいと答える。 その日から期間限定の恋人となった由耶だが……。
※ イラストは含まれていません。
※ イラストは含まれていません。
目次
期間限定の恋人
あとがき
あとがき
抄録
「高村チーフ」
「なんだ?」
由耶はペットボトルをぎゅっと握りしめ、短い言葉に想いをのせた。
「僕、チーフのことが好き…です」
語尾が震えた。高村の反応が怖くて手元のペットボトルを凝視する。息さえ止めていた由耶だが、しばらく待ってもなにも返ってこないのでそっと視線を上げた。高村は眉間に皺を寄せ、不審げな顔をしていた。
「…さっきからなにを言っているんだ? 酔っているにしてもおふざけが過ぎるぞ」
「酔ってはいますが、こんなことふざけて言いません」
「なに?」
「チーフのことが好きなんです。その…恋愛感情として…」
ドン、と大きな音をたてて高村の手の中のペットボトルがテーブルに置かれた。高村は目を眇すがめ、由耶をきつく睨んでいる。怒っている。不愉快を通りこして、あきらかに腹をたてていた。由耶はサーッと頭から血の気が引いていくのを感じた。
嫌われた。やっぱり軽蔑された。もうおしまいだ。
「おまえが、俺を、好きだって? そんなことあるわけがないだろう。からかっているのか」
「…すみません…。あの、男同士だっていうのは、よくわかっています。気色が悪いと思われたかもしれませんが、僕は真剣で…からかってなんか…」
たぶん真っ青になっているだろう。由耶はなんの助けにもならないペットボトルにすがりつくようにして、震える指で握りしめていた。
「俺が知らないと思って、いいかげんなことを言うんじゃない。おまえにはつきあっているやつがいるだろう」
「えっ? いません。つきあっている人なんか…」
「いるはずだ。嘘をつくな」
「嘘じゃありません。本当にいないんです。僕は、いままでまともにだれかとつきあったことなんかないです」
ただ拒絶されるだけならまだしも、恋人が別にいながら告白してきたなどと誤解されるのはいやだった。つきあっている人がいるなんて、由耶はオフィスのだれにも言ったことがない。いったい高村はなにをもってそう思い込んでいるのだろう。
由耶は必死で言い募る。
「チーフのことが好きなんです。ずっと前から憧れていました。チームに入れてとてもうれしかった。少しでもチーフの助けになれたらと思って、配属されてからの数ヶ月間、チームのために頑張ってきました。でも北京への転勤の話を聞いて、自分の気持ちがわかったんです。いつのまにか、ただの憧れじゃなくなっていました。好きなんです。本当に、心から、チーフのことが好きなんです。好きなのはチーフだけです。それだけは信じてください」
高村はペットボトルをぐしゃっと片手でつぶし、壁際のダストボックスへ投げ入れた。
「……俺をからかっているんじゃないのか」
「違います。どうして僕がそんなことをしなくちゃいけないんですか」
「本当に…俺が好きだと言うのか?」
「はい」
由耶は精一杯の気持ちをこめて高村の目を見つめた。高村はまだ信用しきってはいない表情だった。どうしてこんなに疑われるのか、由耶にはわからない。男同士だからか、部下に告白されて困惑しているからか、冷静さを欠いているように思える。
いつも落ち着いて、誰に対しても公明正大であろうとしている高村には似つかわしくないように思えたが、それほど由耶の告白が突拍子もないことだったのかもしれない。
高村は両手で髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、低く唸った。こんな高村は見たことがなくて、由耶は自分の告白が上司に与えた衝撃の大きさに落ち込む。由耶の想いは、高村をこんなに困惑させる迷惑なものだったのだ。
「あの…すみませんでした。帰ります」
由耶は居たたまれなくて立ち上がった。
「お疲れのところ、貴重なお時間をこんな…僕の話でつぶしてしまって申し訳ありませんでした。もう帰りますから…」
やはり告白するだけ無駄だったのだ。言わないほうがよかった。言わなければ、あと二ヶ月の間、部下として可愛がってもらえただろう。
ぺこりと頭を下げ、テーブルの前を通り過ぎようとした由耶は、しかし高村に手を掴まれて動けなくなった。がっしりとした大きな手が、由耶の華奢な手首を掴んでいる。
「待て。言うだけ言ってさっさと帰るのか」
「でも…」
じゃあどうすればいいのだろう。このまま由耶がそばにいても、高村の困惑は深まるだけだろうに。
「…………本当に、本気で言ったのか………?」
「はい?」
「その、俺のことを………好き、だと……」
「本気です」
「いまつきあっているやつはどうする? もう別れたのか、これから別れるのか」
「だから、つきあっている人はいません。別れるもなにも…」
「嘘を言うな!」
いきなり怒鳴られて、由耶は腕を掴まれたまま竦みあがった。
「俺に好きだと言っておきながら、本気だと言っておきながら、なんだその中途半端な態度は!」
わけがわからないまま責めたてられて、由耶はとうとう泣きだした。耐えようとしても、ぽろぽろと涙がこぼれてしまう。片手を高村に掴まれたままだったので、自由なほうの手だけであふれる涙をぬぐった。
「ごめ、ごめんなさい…。すみません…。あ、謝ります…から…怒らないで…」
高村に怒鳴られるのは辛い。体が芯から凍りつきそうな恐怖だ。嫌われて、怒られるなんて、最悪だった。もう顔も見れない。
「泣くなよ」
高村がチッと下品に舌打ちをしたのが聞こえた。
「おまえ、告白してどうするつもりだったんだ」
「どう…って…」
「俺とつきあいたいのか。それとも言うだけで満足なのか」
高村とつきあうなんて、そんな畏れ多いことは考えていなかった。
「いままで男とつきあったことはないが、前嶋ならできそうだ。条件つきでならいいぞ」
高村はいきなりそんなことを言い、掴んでいた由耶の手をぐいっと引っ張った。不意を突かれた由耶は高村の膝によろよろと倒れこんでしまう。至近距離に傲慢さの滲む冷笑を浮かべた高村の顔があった。それでも、やはり魅力的だった。
「俺は二ヶ月後に転勤する。それでもいいのか」
「え?」
「やらせろ」
*この続きは製品版でお楽しみください。
「なんだ?」
由耶はペットボトルをぎゅっと握りしめ、短い言葉に想いをのせた。
「僕、チーフのことが好き…です」
語尾が震えた。高村の反応が怖くて手元のペットボトルを凝視する。息さえ止めていた由耶だが、しばらく待ってもなにも返ってこないのでそっと視線を上げた。高村は眉間に皺を寄せ、不審げな顔をしていた。
「…さっきからなにを言っているんだ? 酔っているにしてもおふざけが過ぎるぞ」
「酔ってはいますが、こんなことふざけて言いません」
「なに?」
「チーフのことが好きなんです。その…恋愛感情として…」
ドン、と大きな音をたてて高村の手の中のペットボトルがテーブルに置かれた。高村は目を眇すがめ、由耶をきつく睨んでいる。怒っている。不愉快を通りこして、あきらかに腹をたてていた。由耶はサーッと頭から血の気が引いていくのを感じた。
嫌われた。やっぱり軽蔑された。もうおしまいだ。
「おまえが、俺を、好きだって? そんなことあるわけがないだろう。からかっているのか」
「…すみません…。あの、男同士だっていうのは、よくわかっています。気色が悪いと思われたかもしれませんが、僕は真剣で…からかってなんか…」
たぶん真っ青になっているだろう。由耶はなんの助けにもならないペットボトルにすがりつくようにして、震える指で握りしめていた。
「俺が知らないと思って、いいかげんなことを言うんじゃない。おまえにはつきあっているやつがいるだろう」
「えっ? いません。つきあっている人なんか…」
「いるはずだ。嘘をつくな」
「嘘じゃありません。本当にいないんです。僕は、いままでまともにだれかとつきあったことなんかないです」
ただ拒絶されるだけならまだしも、恋人が別にいながら告白してきたなどと誤解されるのはいやだった。つきあっている人がいるなんて、由耶はオフィスのだれにも言ったことがない。いったい高村はなにをもってそう思い込んでいるのだろう。
由耶は必死で言い募る。
「チーフのことが好きなんです。ずっと前から憧れていました。チームに入れてとてもうれしかった。少しでもチーフの助けになれたらと思って、配属されてからの数ヶ月間、チームのために頑張ってきました。でも北京への転勤の話を聞いて、自分の気持ちがわかったんです。いつのまにか、ただの憧れじゃなくなっていました。好きなんです。本当に、心から、チーフのことが好きなんです。好きなのはチーフだけです。それだけは信じてください」
高村はペットボトルをぐしゃっと片手でつぶし、壁際のダストボックスへ投げ入れた。
「……俺をからかっているんじゃないのか」
「違います。どうして僕がそんなことをしなくちゃいけないんですか」
「本当に…俺が好きだと言うのか?」
「はい」
由耶は精一杯の気持ちをこめて高村の目を見つめた。高村はまだ信用しきってはいない表情だった。どうしてこんなに疑われるのか、由耶にはわからない。男同士だからか、部下に告白されて困惑しているからか、冷静さを欠いているように思える。
いつも落ち着いて、誰に対しても公明正大であろうとしている高村には似つかわしくないように思えたが、それほど由耶の告白が突拍子もないことだったのかもしれない。
高村は両手で髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、低く唸った。こんな高村は見たことがなくて、由耶は自分の告白が上司に与えた衝撃の大きさに落ち込む。由耶の想いは、高村をこんなに困惑させる迷惑なものだったのだ。
「あの…すみませんでした。帰ります」
由耶は居たたまれなくて立ち上がった。
「お疲れのところ、貴重なお時間をこんな…僕の話でつぶしてしまって申し訳ありませんでした。もう帰りますから…」
やはり告白するだけ無駄だったのだ。言わないほうがよかった。言わなければ、あと二ヶ月の間、部下として可愛がってもらえただろう。
ぺこりと頭を下げ、テーブルの前を通り過ぎようとした由耶は、しかし高村に手を掴まれて動けなくなった。がっしりとした大きな手が、由耶の華奢な手首を掴んでいる。
「待て。言うだけ言ってさっさと帰るのか」
「でも…」
じゃあどうすればいいのだろう。このまま由耶がそばにいても、高村の困惑は深まるだけだろうに。
「…………本当に、本気で言ったのか………?」
「はい?」
「その、俺のことを………好き、だと……」
「本気です」
「いまつきあっているやつはどうする? もう別れたのか、これから別れるのか」
「だから、つきあっている人はいません。別れるもなにも…」
「嘘を言うな!」
いきなり怒鳴られて、由耶は腕を掴まれたまま竦みあがった。
「俺に好きだと言っておきながら、本気だと言っておきながら、なんだその中途半端な態度は!」
わけがわからないまま責めたてられて、由耶はとうとう泣きだした。耐えようとしても、ぽろぽろと涙がこぼれてしまう。片手を高村に掴まれたままだったので、自由なほうの手だけであふれる涙をぬぐった。
「ごめ、ごめんなさい…。すみません…。あ、謝ります…から…怒らないで…」
高村に怒鳴られるのは辛い。体が芯から凍りつきそうな恐怖だ。嫌われて、怒られるなんて、最悪だった。もう顔も見れない。
「泣くなよ」
高村がチッと下品に舌打ちをしたのが聞こえた。
「おまえ、告白してどうするつもりだったんだ」
「どう…って…」
「俺とつきあいたいのか。それとも言うだけで満足なのか」
高村とつきあうなんて、そんな畏れ多いことは考えていなかった。
「いままで男とつきあったことはないが、前嶋ならできそうだ。条件つきでならいいぞ」
高村はいきなりそんなことを言い、掴んでいた由耶の手をぐいっと引っ張った。不意を突かれた由耶は高村の膝によろよろと倒れこんでしまう。至近距離に傲慢さの滲む冷笑を浮かべた高村の顔があった。それでも、やはり魅力的だった。
「俺は二ヶ月後に転勤する。それでもいいのか」
「え?」
「やらせろ」
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