マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ロマンス

忘れ去られた新妻

忘れ去られた新妻


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


著者プロフィール

 ナタリー・アンダーソン(Natalie Anderson)
 祖母の影響で十代のころからロマンス小説を愛し、ジョーゼット・ヘイヤーやアガサ・クリスティといった古典の間にミルズ・アンド・ブーン社の本をはさんでいた。ロンドンで働いた二年の間に夫と出会った。現在は故郷のニュージーランドに戻り、双子を含む四人の育児に追われながらも、ゴージャスな主人公たちが繰り広げるラブロマンスを夢想して過ごしている。

解説

どうか思い出して。つかの間とはいえ、わたしがあなたの妻だったことを。

事故の後遺症に苦しむトマスの面倒を見てほしい――知人に頼まれ、ザラは居ても立ってもいられず彼の屋敷を訪ねた。彼女にとって大富豪のトマスは恩人であり、憧れの存在だった。両親亡きあと、おじに使用人同然にこき使われて成長したザラを、トマスは偽装結婚を申しでて救いだし、解放してくれたのだ。あの日の夢のような誓いのキス……彼は覚えているかしら? だがそんな物思いは残酷に打ち砕かれる。トマスは記憶を失い、ザラの存在すら忘れてしまっていた。揺れる想いをひた隠し、家政婦として彼に尽くそうと心に決めたザラだったが……。

■たった2日間だけの便宜上の夫と妻が、再び運命的にめぐり逢い、激しい恋に落ちる──ハーレクイン・ディザイアでも活躍中の作家ナタリー・アンダーソンが情感たっぷりに描く、大人の恋物語です。

抄録

 トマスは目の前に立っている全身びしょ濡れの女性を見下ろした。この女性を送りこんできたジャスパーの思惑がわかる気がした。あの策略家は、ぼくに必要なのは美しい女性とのお楽しみだと、何カ月も言い続けている。そうしてリラックスすれば何もかもがうまくいくと言うのだが、大間違いだ。この女性を帰したら、すぐにジャスパーに電話して文句を言おう。
 だが、派手なモデルのような女性とは違うタイプの女性が現れ、少なからずトマスは驚いていた。雨降りの日にはまったく不向きなスニーカーにジーンズ、それに上着という軽装で、ひどく若そうに見える女性を前にして、なぜかトマスはいらだった。
 ドアを開けたとき、女性は頬を赤らめて、恥ずかしそうにほほ笑んでいた。つややかな肌についた雨粒が、露のようだった。茶色い髪を後ろにまとめ、ハート形の顔には大きな緑色の目が輝き、口元は薔薇の蕾のようだ。笑うとえくぼができる。無邪気な生の喜びを感じさせる女性だ。
 ぼくとは違う。ぼくにはありえなかったものだ。いまの彼女は憤慨しているようだが、それでもやはり魅力的なことに変わりはなく、トマスは彼女から視線を外せなかった。
 彼女を見たとき、トマスはすぐさま抱き寄せてキスをしたい衝動に駆られ、それで、‘そのために’彼女が来たものと、ばかげた思い違いをしてしまった。彼女の唇はふっくらとしていて柔らかそうだし、その体は彼の両腕で抱きしめるのにちょうどいい大きさのように見える。今でも、彼女を抱き寄せたくてたまらなかった。
 最後に女性にキスをしたのはいつだったか、覚えていない。あるいは、キスをしたいと思ったのは? いやそれを言うなら、何一つ覚えていなかった。
「きみは、ジャスパーとはどんな知り合いなんだ?」トマスは尋ねたが、その声はしわがれていた。この二日間、電話もせず、誰とも話していないのだから、無理もない。
 女性は見るからに気まずそうな様子になり、答えなかった。何か話したくない事情でもあるのだろうか? まさか、ジャスパーの恋人なのか? そう思うと、わけもなくトマスはいらだった。気持ちを静めて、事実を整理しようと試みる。この女性はジャスパーの好むタイプには見えない。
「しばらく前に、窮地を救ってもらったの。それより、夕食は食べた?」女性ははぐらかすように言った。
「きみに心配してもらうことじゃない」
 彼女のほうこそ何か温かい食べ物が必要だ、とトマスは思った。いったいどこから運転してきたんだ? そして、なんのために? こんなふうに心配している自分が、彼は気に入らなかった。
 女性は好奇心を隠そうともせずに、廊下を見まわした。「この家は暗くて寒いわね」
 トマスは思わず言い返した。「こういうのが性に合っているんだ」
「できるだけ、誰も来ないようにしておきたいの? もしかして対人恐怖症?」女性は冗談めかして言った。
「仕事が忙しいから、邪魔されたくない」
 トマスは女性の魅力に負けまいと、そして彼女に心を引き寄せられまいとした。だが彼女には圧倒的な魅力があった。トマスは男性として反応してしまう自分にいらだち、女性をにらみつけた。
「童顔のベビーシッターなどは必要ない。もう帰ってくれ」
 女性の顔から笑みが消え、困惑したような表情が浮かんで、緑色の目の輝きが失せた。トマスは彼女を落胆させたようだった。
「わたしはそれほど若くないのよ。結婚の経験もあるんだから」いきなり女性は顎を上げ、何かを決意したかのように言った。
 なぜかトマスは胸を刺されるような痛みに襲われ、息苦しくなった。
「今は違うのか?」彼は小声できいた。意味ありげな沈黙が続く。
 女性は目を伏せた。トマスと視線を合わせているのがつらいかのように。「ええ」
「残念だな」トマスはそっけなく言った。それでは、彼女はさほど無邪気ではないらしい。一度、傷ついている。彼女を傷つけた男がいると思うと、トマスの心はざわついた。
 トマスは玄関ドアへと歩み寄った。ドアを開けてみると、雹ではなくなったものの、激しい雨が降っていた。すっかり暗くなり、運転席から一メートル先も見えないかもしれない。こんな状態で、彼女を出ていかせるわけにはいかない。
「今夜は外に出ないほうがいい。ここにいろ」トマスはぶっきらぼうに言った。
 トマスはまた女性を見た。頭の中で、何かが揺れ動いた。今の言葉を、以前にも口にしたことがあった気がする。
 既視感だ、とトマスは顔をしかめた。単なる思い違いだ。
 トマスは既視感が嫌いだった。何か記憶があるような気がするものの、どうしても思い出せない。脈絡のないところから、突然現れる。トマスはじっと待ったが、案の定、何も思い浮かばなかった。
 彼は女性に近寄ってにらみつけた。すると、女性の笑みが消えた。「ぼくはきみのことを、知っているはずなのか?」トマスは半ば吐き出すようにして尋ねた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。