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愛の雪解け

愛の雪解け


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

ある日、ローラのもとに、祖父の会社の次期後継者ダンが現れる。心臓病で余命わずかな祖父は、会社の安泰のために、ローラと祖父の信任厚いダンとの結婚を望んでいるのだという。ダンは魅力的だが、無慈悲で目的のためには手段を選ばない。なかば強引に、指に青いサファイヤの宝石をはめさせられて、祖父の前で、ローラはダンとの結婚の誓いをさせられる。一目で心を引かれた……けれど私に愛など微塵もないこの人と? しかも彼はローラの体を値踏みしながら、端整な顔を歪めたのだ。「跡取りをこしらえてくれたらいい。これは会社のための結婚だ」

抄録

 二人は夜が明けて間もなく出発した。太陽はまだ昇りきっておらず、砂の道には青い影がはい、空気は快く冷たかった。開けっ放しの車窓から入る風は髪を散らし、ダンのシャツを帆のようにふくらませた。今日の彼はネクタイなしのオープンシャツだった。日に焼けたたくましい喉が、白いシャツによく映った。
 ローラは彼の横に座って砂と岩との光景に見入った。アテネの向こうの丘のうねりは紫色にかすんでいたが、そこは今しがた朝食に食べたおいしい蜂蜜のもと、有名なヒブロス蜂の産地だった。
「あの上には僧院がある」とダンは教えた。「時間さえあれば上まで行って見せてあげるんですがね。太陽の光を通さないようにすごく厚い壁でね」
「どうしてギリシアにそんなにお詳しいの?」
「夏に何回かここで過ごしたから。学生時代にいささか発掘をやったことがあってね。考古学者を志したこともあるんです。その後転向しましたが」
 ローラは鼻にしわをよせた。「会計をなさるよりはそのほうがよかったんじゃないかしら」
 道は広いハイウェイになった。両側に、未完成のビルや鉄線の囲いや近代的な工場が荒涼と続いている。古代の眺めが追い払われて現代のガラクタが現出したのだ。
「これはエレフシスへの聖なる道です」工場の列を見やりながらダンは言った。「エレフシスの秘儀にあずかろうとする参拝者はこの道を歩いたわけです」
「どんなご利益があったんでしょうね?」茶化すような調子で言うとダンはちょっと微笑した。
「エレフシスは豊穣信仰の中心地だったんですよ。知らなかった? デーメーテールはギリシア神話の母なる神でね。みんなにパンの作り方を教えたとされている。彼女のシンボルの一つは大麦の種です」
「そこに神殿があるんですか?」
「昔はありました。今じゃアテネの郊外でね、市の工業団地だ」
 車はメガラまで来た。背後の山の影が町の上に青く落ちていた。「昔はここに鶴がいっぱいいました」ダンは山を見はるかして言った。
「今ではみんなどこかに行っちゃったんですか?」
「そう。残念だけどね」彼はコリントス運河のほとりで一度車を止めてローラに崖下に輝く青い水をのぞきこませ、それから山道にかかった。日はようやく高くなって、ほのかなかすみが煙のようにたなびいていた。その向こう、宝石のように輝く海の中ほどに、エギナ島が浮かんでいる。
 山の森を縫って光る道からは、左手はるか下に海が見えた。路面はでこぼこで、見上げるとくねくねした松が青い空をバックに生えている。タイムの香りのするスロープの上に、ローラはちらと、羊の群れを従えた牧童たちを認めた。群れがあちこちするたびに、首につけた鈴が聞こえてくる。紺碧の空には一片の雲もなかったが、さして暑くはない。松の影が落ちて道に黒い縞を作り、海の反射があらゆるものを信じられないほど輝かせていた。
 ダンは道の広くなったところで車を止め、「海を見たい?」と言うと、ローラの答えも待たずに外へ出た。ローラも彼の後ろについて崖の縁まで行った。青い海のすばらしい輝きに胸が高鳴り、波間に躍る光に目がちかちかする。ローラは笑いながら振り向いて、ダンを見ようとした。
 太陽にくらんだ目でもうろうとした視界に彼の姿を探したとき、いきなり、じっと自分に見入っているダンが目に入った。ローラはわけのわからぬ目まいに襲われた。彼は体をかがめて顔をゆっくりと近づけて来たが、動くことができなかった。
 固い冷たい口が彼女の唇に押しつけられ、ローラの全身を戦慄が駆けぬけた。ダンの両手は彼女の肩をつかんで引き寄せ、その口はすごい力で彼女の唇を開かせた。ローラは目が見えなくなり、手足がなえて抵抗する力を失った。それは久しい前からわかっていたことだった。もしも彼に愛されたりしたら、一ぺんに夢中になってしまうだろうと、予感はしていたのだ。そして今、彼の口が激しく熱く彼女をむさぼるのに、彼女は何を考えることもできず、その手にますますきつく抱きしめられて、彼にぴったり寄り添ったままキスを返しているのだった。
 一台の車が、冷やかすようにクラクションを鳴らして通りすぎたので、ローラは顔を真っ赤にして彼から体を離した。走るようにして車に戻ると、ダンもあとから乗り込んで、一言も口をきかずに発進させた。ローラはふるえながら、ひたすら外の風景を見続けた。この岩だらけの土地にわずかの足場を見つけて生えている小さな雑草までが、今では彼女の目をひいた。夏の太陽はここに生育するあらゆるものを焼いていた。オリーブや月桂樹の木陰だけが、植物が生きてゆける避難所だった。それらを眺めながらローラはダンのことを考えた。この硬い岩だらけの丘こそ、彼の性格そのものだ。わたしは何週間も前から、遅かれ早かれ彼がわたしに手を触れるだろうこと、そのときわたしには抵抗する力がないだろうことを考えて恐れていた。その恐れが今現実になった。わたしは反抗もしなければ逃げようともしなかった。彼は当然の権利のようにキスを奪い、わたしはまるで奴隷のように彼の望むままを許したのだ。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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