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エーゲ海にとらわれて【ハーレクイン・セレクト版】

エーゲ海にとらわれて【ハーレクイン・セレクト版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・セレクト
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ミシェル・リード(Michelle Reid)
 1997年の日本デビュー以来たちまち人気を博し、ハーレクイン・ロマンスを代表する作家になる。五人きょうだいの末っ子として、マンチェスターで育った。現在は、仕事に忙しい夫と成人した二人の娘とともにチェシャーに住んでいる。読書とバレエが好きで、機会があればテニスも楽しむ。執筆を始めると、家族のことも忘れるほど熱中してしまうという。

解説

両親が事故死し、ゾーイはまだ赤ん坊の弟とともに遺された。だが悲しみに暮れる間もなく、驚くべき事実が明らかになる。ゾーイは、さるギリシアの大富豪の正統な孫だったのだ。突如として見ず知らずの老富豪の遺産相続人となった彼女は、一躍、時の人となり、自宅は大勢のマスコミに囲まれた。そんなときゾーイを訪ねてきたハンサムなギリシア人実業家アントン・パリスは、ゾーイの祖父の後継者とされる人物だという。まさか弟を奪いに来たの……?ゾーイが問いを口にするより早く、アントンはマスコミの前で彼女に熱く口づけると、弟もろとも、さらうように自家用ジェットで飛び立った。

■ハーレクイン・ロマンスの大御所作家ミシェル・リードが贈るギリシア人大富豪とのロマンス。貧しい育ちのヒロインが実は名家の血を引く令嬢で、傲慢な富豪ヒーローが未来の妻を迎えに来る――ドラマティックなシンデレラ・ストーリーです!
*本書は、ハーレクイン・ロマンスから既に配信されている作品のハーレクイン・セレクト版となります。ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

「あなたなんて大嫌い」こらえきれずにつぶやいたあとで、赤ん坊のために落ち着こうとゾーイは深く息を吸った。
「僕が正しいとわかっているからだ。ここに住むのは無理で、家賃の安い家に引っ越さなければならないこともわかっている。みじめで貧乏な暮らしへまっしぐらだ。そんな道を進む必要はないんだよ」
 アントンの携帯電話が鳴った。軽くののしりながら、彼はキッチンのほうへ歩いて電話に出た。警備主任のコスタスからで、外の騒ぎが手に負えなくなっているという。
「近所の者が怒って押しかけています。この家のせいで生活がめちゃくちゃだ、なんとかしてくれと」
 別の電話が鳴った。アントンが振り返ると、ゾーイが立ちあがって受話器を取った。彼女の顔がみるみる青ざめ、重い荷物を背負わされたように肩を落とすのがわかった。
「わかったわ、スージー」ゾーイはぼそぼそとつぶやいた。「教えてくれてありがとう」
「何日もこんな調子だったのよ、ゾーイ。自分の家の前に車も止められなかった。玄関のチャイムは鳴りっ放し。家の外に出ればレポーターが群がってくる。今日もお昼に家に入るときにもみくちゃにされて、ルーシーが泣いてしまって」
 赤ん坊がゾーイの肩で息をついた。無力感に脚が震え、目も心もひりひりする。スージーを安心させたくても何も言えない。アントンに受話器を取りあげられたとき、心ならずもゾーイはほっとしていた。
「座って」アントンが静かに声をかけた。
 立っているのさえやっとだったゾーイは抵抗しなかった。彼女はソファに丸くなり、トビーを抱いて背後で話すアントンの低い声に耳を傾けた。やはり父の声に似ている。その口調はいかにもやり手のビジネスマンらしく、冷静かつ穏やかだ。
 ゾーイの目から涙がこぼれた。今度はこらえようと思わなかった。これほどの孤独感を覚えたのは生まれて初めてだ。父と母に会いたい。近くの自動車修理工場から帰って油まみれの作業服を脱ぐ父の姿がなつかしい。どんなに疲れていても、父はすてきな笑みを浮かべていた。穏やかで優しく、ケーキづくりが大好きな母は、キッチンから飛びだしてきて、父の胸に飛びこんだものだ。あの笑いとぬくもりに満ちた団欒が恋しい。三人でソファにぎゅうぎゅうづめで丸まって、素人が技を競うテレビ番組を見て、誰が勝つかよく議論を闘わせた。
 家族の愛。この質素な、いつも少し散らかった小さな家で私たちを包みこんでいた大きな愛が恋しくてたまらない。
 その愛をトビーはもう知ることはないのだ。
 ソファの横に座ったアントンがゾーイの肩を抱いて引き寄せた。トビーはぐっすり眠っている。
「いいかい、ゾーイ」彼は真剣に語りかけた。「ここにいられないのは承知しているはずだ。周囲の人たちみんなに迷惑をかけている」
「だったら、マスコミを追っ払ってちょうだい」ゾーイは彼の肩でしゃくりあげた。
「そうしたいが、僕にそういう権限はない」
「あなたが来たからますますひどくなったのよ」
「それなら解決策を提示しよう。高い塀を巡らせた警備の厳重な家がある。きみがイエスと言えば、一時間以内にきみたちをそこへ向かわせる手配ができる。交換条件はない」ゾーイが体を離し、涙に濡れた顔を伏せると、アントンは言い添えた。「一時的な避難だと思えばいい。そこで気持ちを落ち着かせ、気力が回復したら、交渉を再開しよう」
 ゾーイは彼の言葉に耳を傾けているように見えた。赤ん坊に覆いかぶさる肩が震えている。涙をこらえているのだろう。
「考えてみてくれ」アントンはポケットからハンカチを取り、ゾーイに差しだした。彼女が受け取ると軽い喜びを覚えた。「テオは関係ない。今のきみに必要だと僕が判断した。快適な|避難場所《サンクチユアリ》と思えばいい。僕はその家を使わないことにしよう。もともと数週間の海外出張の予定があり、きみたちだけで過ごせるよ」
 アントンはすべて正直に話しているわけではないことを自覚していた。ゾーイが弱気になった瞬間に天賦の才を発揮して、その場の主導権を握っていた。
 彼の申し出を拒否するよう、ゾーイは必死に自分を説得していた。アントン・パリスの前で泣くなんて。彼は生まれながらの獰猛な鮫で、獲物に接近するタイミングを心得ている。“交換条件はない”という言葉にだまされたりしない。心配そうなそぶりも見せかけで、じわじわと自分に有利なように事を運ぼうとしているに違いない。
 とはいえ、マスコミの取材が過熱している間はここに住めないのは事実だ。幼いルーシーが、彼らを怖がって泣いたと思うだけで、胸が痛くなる。ゾーイはハンカチで目をぬぐいながら言った。「いっさいプレッシャーをかけないと約束してもらうわ」
「請け合うよ」
「それに、私の居場所を祖父には教えないで」
“祖父”という禁句を使ったことにゾーイは気づいただろうか? 「かなり難しいが、努力する」
「もうひとつ、私が家に戻る気になったときは、無条件で帰して」
「心から誓う」アントンは言った。
 その言葉に驚き、ゾーイはアントンを見あげた。疑わしそうな光を放つブルーの目を見て、彼は片方の眉を上げてみせた。すると、ゾーイはかすれた声で笑った。
 アントンはいつの間にかゾーイ・ケネリスに好感をいだいていた。これほどの逆境に立ち向かおうとする彼女の勇気はすばらしい。ほかにも気に入った点はあるが、こんなときに挙げるのは不謹慎だ。
 それでもアントンは、彼女の頬にかかる後れ毛を払わずにいられなかった。意外にもゾーイは彼の手を拒まず、二人はしばし見つめ合った。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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