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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル

銀の匙を落とした幼姫

銀の匙を落とした幼姫


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ヘレン・ディクソン(Helen Dickson)
 イングランド北東部サウス・ヨークシャーの緑豊かな土地に、30年以上連れ添う夫とともに住む。自然をこよなく愛し、読書や映画鑑賞、音楽鑑賞が趣味で、とりわけオペラに目がない。調査のために図書館で何時間も過ごすこともあるが、想像と史実の絶妙なバランスがいい物語を生み出すと語る。

解説

氏素性も知れない私は、わずらわしいお荷物……。

生後すぐに母を亡くした幼い姫君は、貴族として生まれながら、父方の血筋を忌む祖母の命により、人知れず遠くの森に捨てられた。身元不詳の赤ん坊を拾った少年、名門家の次男マーカスは、彼女をロウェナと名づけ、面倒見のよい家令夫妻に育てさせた。月日は流れ、育ての親と死に別れた19歳のロウェナは、マーカスの異母兄の屋敷でキッチンメイドとして雇われる。だが、主人から下心たっぷりの誘惑を執拗に受けて困り果てていると、ある男性が颯爽と現れ、彼女を救った――ああ、マーカスさま!長く英国を離れていた彼がようやく帰ってきた。まさに夢のようだわ。大好きな彼の懐かしい姿に、涙をにじませるロウェナだったが……。

■幼いときから密かに一途な想いを寄せてきたマーカスとの再会は、ロウェナにとっては無上の喜びでした。それなのに、ほどなくして彼女は、信じていたマーカスが自分を追い払うつもりだと語っているのを漏れ聞いてしまい、失意のどん底に突き落とされて……。

抄録

 ロウェナは彼の前で立ち止まると、入り江からのぼってきたせいで息をかすかにはずませたまま、顔をしゃんと上げた。マーカスの胸にどんな想いが去来しているのか、ロウェナには知りようがなかった。彼はただそこに立ち、彼女を見おろしている。表情は硬いが、口元にはかすかな笑みの気配もあった。この崖の上からではわたしとエドワードの会話は聞こえなかったはずだけれど、きっとわたしから誘い出したと思っているにちがいない。いったいどんな女だと思われているのかしら? 胸がきりきりと痛んだ。
「仕事をサボったわけじゃないんです」ロウェナは探るように彼の顔を見た。「レディ・アリスが明日から仕事を始めるから、今日は骨休めしなさいと言ってくださったんです」
「サボったなんて思っていないよ。きみが入り江に来た理由を知りたいだけだ」
 ロウェナはマーカスの目が自分を見すえ、観察し、感情や思考のかすかな変化まで見分けようとしているのを感じ、急に恥ずかしくなった。ロウェナの中には少女時代の名残が色濃く残っており、日に日に育ちつつある大人の女性とせめぎ合っている。マーカスは大人のロウェナを表面に引き出すこつを心得ているようだった。
「どうしてそんなふうにわたしを見るんですか?」
「きみが浜辺にいるときから見ていたよ。エドワードと一緒だったね?」マーカスはロウェナの顔をのぞき込みながらたずねた。
 わずかだが唇が赤く腫れている――やわらかで傷つきやすい肌になんの配慮もしない、自分本位な男がつけた痕跡だ。
 マーカスの胸に、兄に対する激しい怒りがこみ上げた。「痛い目に遭わされたのか?」
 ロウェナは首を左右にふった。「ちがいます」エドワードのことは話したくない。ロウェナは目をそらした。「レディ・アリスは喜ばれるでしょうね。どんなにか安心されることでしょう。とうとうあなたがお帰りになったんですもの」
「母は喜んでくれている」
 マーカスの視線はロウェナの脚にまとわりついた濡れた服に落ちた。ロウェナはその視線に気づき、自分も下を見て、ため息をついた。
「波に洗われてしまって。靴まで濡れてしまいました」
「水遊びするつもりなら靴を脱いだほうがよかったんじゃないか」
「水遊びなんかしません。これは、あの……エドワードさまが来たので……」
 マーカスは気遣うように彼女を見た。「本当に大丈夫だったのか?」
 ロウェナは今さらながら自分の行為の大胆さに思い当たり、下唇を噛んだ。「ええ……でも、あなたのお兄さまを――エドワードさまを、平手打ちする寸前までいってしまいました。あんまり腹が立ったので。あんなこと、しなければよかった。でも、エドワードさまは、わたしがいやがっているのに無理強いして、とても失礼だったんです」
 マーカスは眉をひそめて彼女を見おろした。「一人歩きしないほうがよかったんじゃないか、ロウェナ」
 ロウェナの顔がこわばった。「わたしはこの入り江にはしょっちゅう来ています。独りになりたいときに来るんです。あなたのお兄さまは紳士を名乗るつもりなら、こそこそ人のあとをつけたりせずに放っておいてくださるべきでしたわ。わたし、かっとなって平手打ちしかけたんです。エドワードさまはすごい剣幕で怒りました。きっと仕返しするつもりでいるでしょう」
「兄に脅されたのか?」
「あの、はい……せいぜい用心しろと言われました」ロウェナは小声で答え、エドワードが弟に対して口にした脅し文句のことはおそろしすぎて言えなかった。
「ちょっかいを出されるのは迷惑だと、はっきり伝えたのか?」
「ええ。伝わったかどうかはわかりませんが、伝えようとしました」
「きみならしただろうね。エドワードは自分の子供でもおかしくないような年の娘に好意を押し売りするべきじゃないな」
「わたしは子供なんかじゃ……」ロウェナは悔しさのあまり途中で声をつまらせた。
 明るい太陽のおかげで、マーカスには、顔をきっと上げたロウェナの挑戦的な態度の裏にあるものが見えた。自分をまっすぐ見すえた目の縁に涙がたまってきらきらと輝いている。なんという美しさだ。離れて過ごした時間は魅力を増す魔法なのだろうか。ロウェナは年を重ね、成長した――少女から大人の女へと。
 ロウェナの言葉はマーカスの口元をほころばせた。「大丈夫だよ、ロウェナ、言いたいことはわかった。きみは素直だね。長いこと会わなくても、きみの考えていることなら手に取るようにわかる」
 マーカスはじっと彼女を見つめ、その純粋さに打たれた。ロウェナにはマーカスの琴線に触れる優しい女らしさがある。森の中に置き去りにされた彼女を見つけたときの、守りたいという気持ちが再びこみ上げてきた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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