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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・イマージュ

聖女は涙をふいて

聖女は涙をふいて


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・イマージュ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ケイト・ヒューイット(Kate Hewitt)
 アメリカ、ペンシルバニア州で育つ。大学で演劇を学び、劇場での仕事に就こうと移ったニューヨークで兄の幼なじみと出会い結婚した。その後、イギリスに渡り六年間を過ごす。雑誌に短編を書いたのがきっかけで執筆を始め、長編や連載小説も手がけている。読書、旅行、編みものが趣味。現在はコネチカット州に夫と三人の子供と住む。

解説

優しいかと思うと冷たく突き放す。北風と太陽で私を翻弄する彼……。

アレグラは疎遠だった父の葬儀のためにローマへ飛んだ。15年前に、娘を捨て去った父。そんな父の愛に飢えていたのか、参列者のラファエルと名乗る男性に誘われて惹かれるまま、悲しみとやるせなさを癒やすように熱い一夜を分かち合った。だが、夢から覚めるのは早かった。彼女の父が誰なのかを知るなり、ラファエルは態度を一変させ、非情にもベッドから追い出したのだ!悲劇はそれにとどまらず、彼が父を破産させた実業家だとわかる。あまりにショックで放心するアレグラに向かって、ラファエルはすかさず名刺を差し出し、冷たく命じた。「もし妊娠していたら、必ずぼくに知らせるんだ」

■恋に落ちた富豪の冷酷な横顔を知ったアレグラは、彼の子を宿したことが判明すると、一人で育てる決意を固めます。ところが、今度はお腹の子に手術を要する病が発覚し……。巧みな筆致で心の機微を描き出すケイト・ヒューイットによる、シークレットベビー物語。

抄録

「会社を経営している」
 アレグラは眉を上げた。「どういう種類の会社?」
「不動産だ。主にホテルやリゾートなどの商業施設を扱っている」
 とても裕福な男性なのだ。自信に満ちた物腰や立ち姿からだけでも推測できたはずだった。彼のつけているサフランのコロンでさえ、いかにも高級品といった香りがする。恵まれた境遇にいるのだろう。わたしもかつては恵まれた境遇にいた。けれども、両親が離婚して、状況は一変した。
 離婚後、アレグラの母ジェニファーは扶養料すら受け取れないことに苦い怒りをつのらせ、愚痴ばかり言うようになった。生活のためには、手元に残ったわずかな宝石類を質に入れるしかなかった。だが、娘のアレグラはそういうことにはほとんど無関心だった。確かに、イタリアの壮麗なヴィラからニューヨークの狭いアパートメントへ移ったときには、あまりの落差に戸惑った。母親の男友達の厚意に甘えて、当座の生活をしのがなければならないこともしばしばだった。
 母親はそうした惨めさに憤り、かつての夫を恨んだが、アレグラにとっては、実の父親の愛情を失った悲しみのほうが痛切だった。そして、彼女は悲しむと同時に、他人の愛を当てにしない覚悟を固めた。人を当てにすると、失望させられる。とりわけ身近な人に愛を求めると、手ひどく裏切られることになる。
「仕事は楽しい?」アレグラはきいた。あからさまな意図が垣間見えるラファエルのまなざしをとりあえず避けるためには、おしゃべりを続けなくてはならない。
「ああ、仕事はぼくの生きがいだ」ラファエルがシャンパンのグラスをテーブルに置き、大理石の暖炉のかたわらにある音響装置に近づいた。「きみが好きだと言った曲を聴こう。ショスタコーヴィチのチェロソナタだったね?」
「ええ……でも、ここにはCDはないでしょう?」
 ラファエルが低く笑った。「ああ、CDはない。だが、この機械はインターネットにつながっているんだ」
「ああ、そうよね」アレグラは恥ずかしそうに笑った。「言ったでしょう、わたしは機械にまるっきり弱いって」
「その方面はぼくにまかせてくれればいい」それからほんの数秒で、メランコリックなチェロの旋律が部屋に流れだした。ラファエルが彼女を振り返り、さっきと同じように手を差し出した。「ここへおいで」
 旋律はすでにアレグラの心に忍びこみ、柔らかい音色で胸を締めつけていた。音楽は彼女の友であり、恋人同然の存在だった。人との親密な関わりをあきらめる代わりに、音楽と深いところで結ばれていた。
 アレグラは差し出された手を取った。物悲しいチェロの旋律が胸の奥に響き渡る。ラファエルは彼女の手を引いて、豪華な革張りのソファに座らせると、華奢な肩に腕を回した。
 男性とこんなにも体を密着させるのは生まれて初めてだ。ところが不思議なことに、ラファエルとの親密な触れ合いにはなんの戸惑いも感じない。二人は黙って肩を寄せ合い、チェロの音色の高まりに身をゆだねた。
 ラファエルにさらに抱き寄せられると、頬が固い胸に当たった。アレグラは目を閉じた。音楽の高まりとかたわらの男性の体温が感覚を圧倒する。このまま感情の波にさらわれて、その行き着く先を見てみたくなった。
 アレグラの頬の下で、ラファエルの胸が呼吸につれてゆったりと上下している。そして、彼の指はアレグラの腕をやさしくなぞっていた。まるで心を交わした恋人同士のようだ。このままいつまでもこうしていられたらいいのに。
 すすり泣くように悲しげな旋律が最後にクレッシェンドし、やがて徐々に消えていった。たった八分程度の楽章なのに、一生分の時間が流れ去ったように感じられる。音がとだえたあとの沈黙の中で、二人はどちらも動かなかった。
 しばらくしてアレグラはささやくように言った。「チェロの音は楽器の中でいちばん人間の声に近いんですって。だから、こんなにも心を揺さぶられるのかもしれないわ」頬を伝う涙を気にして、震えるような笑い声をもらした。
「心に響く音楽だ」ラファエルが静かに言い、アレグラの頬の涙を親指でぬぐった。「何かに焦がれているような、あるいは、深い悲しみにもだえているような、そんな曲だな」
「ええ……」率直で感受性豊かなラファエルの感想に、アレグラは胸を貫かれる思いだった。こういう共感こそ、これまで求めていたものだ。彼女は思わずたくましい腕の中で身をよじり、ラファエルを見あげた。すると、燃えるようなまなざしとぶつかった。彼の情熱に呼応して、小波のような興奮が体を駆け抜けた。
 ラファエルが頭を下げると、アレグラは息を詰めた。世界のすべてが期待に満ちて動きを止める。そして、男らしい唇が彼女の唇をおおった。一瞬にして体が息づきはじめた。
 アレグラは両手でラファエルのシャツを握りしめた。彼の唇はやさしく、だがためらいなくアレグラを探った。キスがこんなにも官能的な行為だとは、これまで知らなかった。彼の唇は、まるで体の芯にまで触れようとしているかのようだった。
 突然、二人の抱擁がさらに親密度を増した。ラファエルが流れるように自然な動きでアレグラをソファの上に横たえたのだ。宝石のように輝く瞳が上から彼女を見おろした。
「きみは美しい」ラファエルがやさしい手つきでアレグラの乱れた巻き毛を顔から払った。彼女はまぶたを閉じた。うやうやしく触れる彼の手に、胸がうずく。


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