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嫌われ伯爵の溺愛花嫁

嫌われ伯爵の溺愛花嫁


発行: ヴァニラ文庫
シリーズ: ヴァニラ文庫
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

おまえは俺の腕のなかにいる時が一番可愛い
親の借金のため美しくも恐ろしい黒伯爵の妻にさせられて!?

借金を肩代わりしてもらうため無慈悲だと恐れられる黒伯爵リカルドの妻になろうとするルチア。しかし彼の妻になるには試練を受けねばならない。「つつましいが楽しませてくれそうだ」思いがけず優しく触れられて知る初めての快感。身の震えるような甘い愛撫を与えながらも難題を課してくるリカルドに、本当に彼の妻になれるのか戸惑いが募って!?

※こちらの作品にはイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

抄録

 ルチアは食堂を出て行こうとして、足を止めた。ためらいつつも揺り椅子の伯爵を振り返る。家のため父のため自分のためにも、ここまで来たらやるしかない。そう強く言い聞かせ、新しい試練に挑む決意を固めたルチアは、今、この瞬間、認めてしまっていた。自分が伯爵の要求に抗えない心の裏に、どうしても振り切れない彼への想いがあることを。
 まるで未知の知識に出会った時のようだった。リカルド・ファウラーに惹かれ揺らされる気持ちは、もはや見て見ぬふりをすることさえ難しい。たった十日の間に大きく変わってしまった自分の心が、この先、どうなっていくのか? 見極めずにはいられないルチアがいた。だから──。
「伯爵様、お身体は大丈夫なのですか?」
 ルチアは思い切って自分から一歩、彼に近づくことにした。借金とかしきたりとか、二人を縛っている事情を挟まずに、純粋に彼との距離を縮めたいと思った。
 膝の上の本に戻っていた伯爵の目が、扉の傍らに立つルチアに再び向いた。
「よく出かけられるあなたが外でどんなにお忙しくしていらっしゃるのか、私にはわかりません。ただ、いつもとても疲れているように見えます。それなのに、お食事にもそう気を使われてはいらっしゃらないみたいだし」
 食事と言っても、極めて質素だ。買ってきたパンに葡萄酒、ほかには肉や野菜を煮たスープがあるだけ。日によっては食べることさえ億劫になるのか、酒で胃袋を満たして終わる時もあるようだった。
「伯爵様?」
 伯爵がルチアを見つめている。何かとても強い感情のこもった眼差しだった。
「余計なお節介でしょうか……」
 だんだん胸が苦しくなってきたルチアは、思わず目を伏せていた。
「でも、一緒に住んでいれば顔色の善し悪しは気になりますし、具合が悪そうだと思えば心配もします」
「心配?」
 揺り椅子が大きく揺れ、伯爵が立ち上がった。見たこともない何かを見つけてしまい、一刻も早くその正体を確かめたいという足どりで、ルチアの前までやってくる。
 伯爵はズボンのポケットを探った。
「手を出せ」
「はい?」
「手のひらを上に」
 戸惑いつつも言われた通りにしたルチアの手にちょこんと載せられたのは、子供たちが大好きなものだった。蜂蜜を練り込んで焼いた、小さくて丸いお菓子。ちょっと歯ごたえはあるが、ほんのり甘い。
「……あの?」
 伯爵のポケットからそんなものが出てきたことが、ルチアにはまず驚きだった。
「心配されるのに慣れていない」
「え?」
「悪いな。今はこんなものしかない」
「ひょっとして……心配したお礼ですか?」
 恐る恐る尋ねたルチアは、どうやら彼が冗談を言っているわけではないとわかって、またびっくりした。
「気に入らない?」
「いえ……」
 とっさに言葉が出なかったのは、自分でも戸惑うほどに嬉しかったからだ。彼の方からも一歩近づいてくれたようで、幸せな気分がルチアの胸に広がる。
「こんなものでも喜ぶ女はいるんだが、確かに子供っぽくはあるな」
 ルチアはいきなり腰に手を回され抱き寄せられる。危うく心臓が口から飛び出しそうになった。
「大人らしい礼の仕方というのもあるが……」
 伯爵のあの甘い香りがルチアを包んだ。うなじに熱いものが這い上がってくる。この館に連れて来られた夜に知った彼のたくましい腕を、胸を、ルチアは忘れていない。
「ルチア……」
 うなじの熱が伝染った耳に、彼が囁く。
「館の門はいつでも開いている。でも、お前は出て行こうとしない。さらってきた夜もそうだ。もし、お前が逃げたなら、追いかけるつもりはなかったんだ」
 だが、ルチアはそうしなかった。
「逃げるどころか、お前は俺にくっついていただろう?」
 彼のマントを幼子のように握りしめ離れなかった自分の姿が蘇ってくる。恥ずかしさが込み上げてきた。あの時は感じなかった、胸を苦しくさせる甘い疼きと一緒に……。
「俺が誰かを知る女は近づいてもこないのに」
 ──知る女は、そうでしょう。でも、知らない女たちは? あなたの名前を隠したら、きっと反対なのでしょう? 皆、先を争って近づいてくるのしょう?
 男らしく端正な顔立ち。思わず抱きしめて守ってほしくなる、たくましい肉体。落ち着いた物腰。口を開けば知識が零れ落ちてくる。
 美しい羽を広げ、良い声で鳴き雌を誘惑する雄鳥のように、伯爵は女を惹きつけてやまない。彼女たちは、彼がくれるものならたとえ子供が喜ぶような品であっても欲しい。小さな焼き菓子ひとつ分だけでもほかの女たちに勝る存在になりたい、伯爵の特別な相手でありたいと焦がれるに違いない。
 ──私もです。私も、もしあなたがあの黒伯爵だと知らなければ……。
 出会ってわずか十日で、すっかり心を奪われていたことだろう。
 ──だって、どんな人間かを知っていてさえ、こうしてあなたのそばを離れがたい気持ちを振り切れないのですから。
 たとえるなら、重たい冬の雲間から零れる一条の陽差しだった。彼がほんの時々覗かせる優しい横顔が、ルチアの心を捕らえて離さない。伯爵に求婚された時、即座に嫌だと拒んだあの頃の気持ちが、もはやルチアには遠かった。
「当然、俺を心配する奇特な女もいない」
 囁く唇をこめかみに押し当てられ、ルチアは身を固くした。
「やはり礼をしなくてはな」
「伯爵様……」
「まずは俺を名前で呼ぶことを許そう。それから……」

本の情報

形式

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