和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>若者
解説
しっとりとした花のような色香を持つ水端佑季の恋は、初めて訪れた異国の地、上海で終わりを告げた。男の狡さに気付きながら、嘘を信じていた佑季は突然の別れに傷付き、旅先で出会った男、滝乃と体を重ねてしまう。滝乃の包み込むような優しさに、つかの間の関係だとわかっていても、心惹かれることを止められない佑季だったが……。
抄録
宿泊階でエレベーターを降りる時、滝乃はドアに手を突き、青年の手を引いた。
水端が驚いたように振り返る。
そして、手を捉(とら)えられたままわずかに足許に視線を落としたあと、少し笑ってみせた。
笑ってみせた…、まさにそんな形容がふさわしいほどに痛々しい、朱家角で気持ち悪くないのかと尋ねた時のような、懸命に取り繕(つくろ)った笑みに見えた。
口元がかすかに引きつったように笑いの形に動き、唇の横にある小さなほくろがぴくりと攣(つ)れた。
その表情で、たがが外れた。
エレベーターの旧式のドアが、前触れもなく乱暴に閉まりかけ、性急に二回ほど、強引に扉を押しとどめている滝乃の腕にぶつかった。
水端はその派手な音に、自分が腕をぶつけたかのように眉をひそめ、滝乃が押しとどめたままの分厚いドアを見た。
「痣(あざ)になりますよ」
それ以上は答えずに、滝乃は水端の身体を捉え、エレベーターの中へと引き戻した。
細く見えたが、意外にしっかりとした質感があった。
体温も低いのではないかと勝手に連想していたが、青年を捉えた腕にはシャツ越しに柔らかなしっとりとした熱が感じられ、それに滝乃は欲情した。
滝乃によって無理矢理開けられていたドアが、ようやく目的を果たしたように、ガシャガシャと派手な音を立てて閉まる。
滝乃は抱えた水端の身体を壁との間に挟むようにして、その額に口づけた。
じっと息を潜め、身を固くしていた水端の身体が、腕の中で小さく跳ねた。
二人の間で滝乃を押しとどめていた腕が、ゆっくりと下におろされた。
「…人が来ます」
小さな水端の声に、滝乃はエレベーターの扉を開け、青年の手首を握ったまま、そのエレベーターを降りた。
水端は抗わなかった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
水端が驚いたように振り返る。
そして、手を捉(とら)えられたままわずかに足許に視線を落としたあと、少し笑ってみせた。
笑ってみせた…、まさにそんな形容がふさわしいほどに痛々しい、朱家角で気持ち悪くないのかと尋ねた時のような、懸命に取り繕(つくろ)った笑みに見えた。
口元がかすかに引きつったように笑いの形に動き、唇の横にある小さなほくろがぴくりと攣(つ)れた。
その表情で、たがが外れた。
エレベーターの旧式のドアが、前触れもなく乱暴に閉まりかけ、性急に二回ほど、強引に扉を押しとどめている滝乃の腕にぶつかった。
水端はその派手な音に、自分が腕をぶつけたかのように眉をひそめ、滝乃が押しとどめたままの分厚いドアを見た。
「痣(あざ)になりますよ」
それ以上は答えずに、滝乃は水端の身体を捉え、エレベーターの中へと引き戻した。
細く見えたが、意外にしっかりとした質感があった。
体温も低いのではないかと勝手に連想していたが、青年を捉えた腕にはシャツ越しに柔らかなしっとりとした熱が感じられ、それに滝乃は欲情した。
滝乃によって無理矢理開けられていたドアが、ようやく目的を果たしたように、ガシャガシャと派手な音を立てて閉まる。
滝乃は抱えた水端の身体を壁との間に挟むようにして、その額に口づけた。
じっと息を潜め、身を固くしていた水端の身体が、腕の中で小さく跳ねた。
二人の間で滝乃を押しとどめていた腕が、ゆっくりと下におろされた。
「…人が来ます」
小さな水端の声に、滝乃はエレベーターの扉を開け、青年の手首を握ったまま、そのエレベーターを降りた。
水端は抗わなかった。
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