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白蛇の山

白蛇の山


発行: キリック
シリーズ: 白蛇の山
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

怪奇幻想小説家を志し、執筆活動に専念するために地方の集落へと移住してきた宗一《そういち》。彼が越してきた「香賀池」と呼ばれる集落は一見するとごく普通の田舎だった。──ただ一つ異様なまでに蛇が多いということを除いて。
ある日宗一は、純白の肌に銀色の髪、そして真紅に輝く瞳を持つアルビノの少年──白水《はくすい》に出会う。宗一が彼によって聞かされたのはこの地域で信仰される「白蛇さん」という蛇神の存在だった。古より続く蛇神信仰に、美しいアルビノの少年……まるで怪奇幻想小説が現実になったかのような状況に宗一は興奮するが、一方でその頃から蛇神の生贄にされるという恐ろしい悪夢に悩まされるようになる。さらに宗一は年端もいかぬ少年であるはずの白水の妖艶な魅力に誘われ、彼と一線を越えてしまう。自らの犯した行為に苦悩しながらも、白水との倒錯した愛に溺れていく宗一。やがて彼は気づくのだった。それは同時に白水を通して「白蛇さん」と交わるということだと──。
そんな最中、「香賀池」の集落で遺跡の発掘を試みる考古学者・北村が現れる。宗一は「白蛇さん」に奉仕する者として、「香賀池」の平穏を脅かす存在である北村を消すことに決めるが……

美しき少年の淫靡な誘惑に呑みこまれ、運命の歯車が狂い始める……奇才・梅津裕一が放つ、耽美と幻想のオカルティック・ホラー!

目次

第一部
第二部
第三部
第四部
第五部
終章

抄録

 目を覚ますと全身がすさまじい量の汗に濡れていた。
 しばらくの間、今見たのが夢だと信じられなかったほどだ。
 異様なほどの真に迫った悪夢に、宗一は何度も深呼吸をした。
 布団から体を起こす。
 怪奇幻想の世界を夢のなかで経験できたのだ。
 そう思えば創作の女神が自分に霊感を与えてくれたのだと思いたかったが、とてもそんな気持ちにはなれなかった。
改めて周囲を見渡したが、やはり気味の悪い部屋だった。
 八畳の寝室は徹底的に掃除はすませているとはいえ、厭な気のようなものが篭っている。
 初めのうちはむしろその古色蒼然とした幽霊屋敷めいた雰囲気が良かったのだが、何日もこの家で暮らしているうちにしだいに神経がおかしな具合に昂ぶっていた。
 それにしても、と思う。
 あの夢で見た神の姿はなんだったのか。
 人面蛇神の神は実のところ、そう珍しいものではない。
「蛇神、か……」
 つい、言葉が漏れた。
 少し外の空気を吸って頭を落ち着けたほうがいいかもしれない。
 そう思い、書斎の古びた窓を開けた。
「おあっ」
 自分でも意味不明の声をあげてしまった。
 樹々に蔦のように絡みつく何十匹という蛇は、一匹残らず、宗一のほうを凝視していたのだ。
「嘘だろ……」
 脂汗がとめどなく溢れてくる。
 やはりこの土地はおかしい。
 怪奇幻想小説を書くための雰囲気づくりにはぴったり、といったレベルをとうに超えている。
 これではこの香賀池が、怪奇幻想小説の舞台そのものではないか。
 精神を病みつつあるのかもしれない。
 ときおり、頭がはっきりとするたびにそんなことを考える。
 もう何日も睡眠不足だった。
「しっかりしろ」
 自分に言い聞かせるようにした。
 とりあえずなにか食べようと思い、今日もそうめんにすることにした。
 湯を沸かしてそうめんを茹ではじめたとき、いきなり携帯が鳴った。
 慌てて出ると「白水」と画面に表示されていた。
 しばし考えたあげく、電話に出た。
『今から、そちらに伺ってもよろしいですか』
「構わないけど……」
『良かった。駄目だったらどうしよう、と思っていたんです』
 すぐに玄関からチャイムが鳴らされた。
 どうやら白水は家のすぐ近くから電話をかけてきたらしい。
 妙な胸の高鳴りを感じながら、宗一は鍋の火を止めると玄関へと向かった。
 こちらを見た途端、少年がびっくりしたように目を丸くした。
「鴻上さんっ! どうしたんですか。なんかすごい、やつれてますよ」
「ちゃんとご飯とか食べてるんですか」
「うーん……あんまり」
「まだ鴻上さんはお若いんですから、ちゃんと食べないと」
 育ち盛りの少年にそんなことを言われると、思わず苦笑が漏れた。
「そういえば、話題は変わるが……北村先生、発掘をはじめるって話、どうなったんだ」
「ああ、それですか」
 白水が暗い顔になった。
「本気みたいですね。集落のみんなは絶対に許さないって大騒ぎです。まあ、ここじゃあ『白蛇さん』は絶対的な存在ですからね」
「白蛇さん……」
「神社のご祭神です。僕も詳しくは知りませんけど」
 一瞬、白水がこちらの顔色を窺うようにしたのが少し気になった。
「それよりも……蛇、殺したりしてませんよね」
 改めて確認するように白水が尋ねてきた。
「もちろんだ。そんな恐ろしいこと……」
 微妙に白水が表情を変えた。
「意外ですね。鴻上さんは祟りとか気にするほうなんですか? それとも最近、『蛇が怖くなった』とか……?」
 やはりおかしい。
 白水はこちらに探りを入れているようにしか思えないのだ。
 相手をただの中学生だと思って侮《あなど》っていると、危険かもしれない。
 むしろこのかなりの閉鎖環境で育てられた白水は「白蛇さん」の熱狂的な信徒かもしれないのだ。
 それでも、気がつくと宗一はぽつり、ぽつりと先日見た、あの樹々に絡みつく無数の蛇の話をはじめた。
 あのときの話をするだけで、自然と体が震えてくる。
「なるほど……そんなことがあったんですか。ならば、確かに不気味ですね」
 白水はそう言ったが、どこか感情がこもっていないようにも感じられた。
「ここの家に住んでいた人間、どうなったか知っているか?」
「さあ。僕がまだ幼い頃には誰か住んでいたらしいですけど、いなくなったみたいです。たぶん引っ越したんじゃないでしょうか」
 本当にそうだろうか。
 白蛇さんを信仰する集落の人間に、神への生け贄に捧げられたとしたら?
「でも『白蛇さん』がいるとしたら、どんな生け贄を求めるんでしょうね」
 白水が微笑した。
 今までとは違い、どこか歪んだ笑みだ。
「うーん……神であれば、女や子供を要求することが多いな。あとは三輪山の神は、夜中にひそかに女のもとに通うこともある。記紀にもそんな話が残っている」
「なるほど。じゃあ、もし本当にここが生け贄が住むところなら、そのうち白蛇さんが来てもおかしくないですね」
「俺みたいなおっさんのもとに神様が通ってくるなんて、白蛇さんとやらも怒るだろうよ。これがもっと美人の女だってんなら話は別だろうが……」
「まだお若いですよ、鴻上さんは。それにハンサムだし、頭もいいし。僕の憧れなんですからね」
 ふと目眩のようなものを覚えた。
 まるで白水が少年というよりは、少女のように見えたのだ。
 しかも自分の美しさを知り、相手を誘惑するような、驕慢《きょうまん》でいながらどこかで怯えている少女のように。
 落ち着け、と自分に言い聞かせた。
 蛇神のおかげでおかしな話を妄想をしているだけだ。
 相手は男の子だ、と。
 やがて激しく雨が振りはじめた。
 しだいに部屋のなかが暗くなっていく。
「そういえば鴻上さん、ちょっと目をつぶってもらえますか?」
「いきなりなんだ?」
「ちょっとしたゲームですよ」
 仕方なく宗一が目を瞑ると何かがそっと近づいてきて、いきなり唇が柔らかなものに触れた。

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