和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>執事
著者プロフィール
榎田 尤利(えだ ゆうり)
蟹座でO型。心が広いようで、実は根に持つタイプなのだそうです。でも記憶力が悪いので、なにを根に持っていたのか忘れてしまいます。それはそれで、平和。
蟹座でO型。心が広いようで、実は根に持つタイプなのだそうです。でも記憶力が悪いので、なにを根に持っていたのか忘れてしまいます。それはそれで、平和。
解説
「この仕事に必要なものは忍耐と経験、幅広い知識、そして寛容と自己犠牲です」
業界大手の及木坂製薬の営業職の面接に出向いた仁は、なぜか27人目の特別秘書候補として、執事である富益の執事教育を受けながら、及木坂製薬経営企画室本部別室室長であり、創始者の孫である乙矢の住む屋敷で暮らすことになっていた。眠っているときの乙矢は美貌の貴公子さながらだが、現実は人に影を踏まれるのも嫌いな潔癖症で人間嫌いで毒舌家でわがままでひとりよがりで神経質な男で、仁はまるでバイ菌扱いを受けるはめに! バトラー・ラブ登場!!
業界大手の及木坂製薬の営業職の面接に出向いた仁は、なぜか27人目の特別秘書候補として、執事である富益の執事教育を受けながら、及木坂製薬経営企画室本部別室室長であり、創始者の孫である乙矢の住む屋敷で暮らすことになっていた。眠っているときの乙矢は美貌の貴公子さながらだが、現実は人に影を踏まれるのも嫌いな潔癖症で人間嫌いで毒舌家でわがままでひとりよがりで神経質な男で、仁はまるでバイ菌扱いを受けるはめに! バトラー・ラブ登場!!
抄録
「そこをどけ」
「どきません」
乙矢が、追いつめられた獲物に見える。
だが、追いつめられているのは仁も同じことだった。言ってしまえばもうあとには引けない。言葉は口に戻せないのだ。
……それがどうしたというのだ?
どのみち、このひとりよがりな上司は仁を切ろうとしているではないか。仁にはもう、失うものなどなにもない。
「結婚はしません」
「原……」
「恋人も、作らない」
大きく見開かれた目が、仁を見上げる。
「――人生のすべてを捧げれば、あなたの執事にしていただけるんですね?」
手袋をしたまま、指の背で滑らかな頬を辿る。
乙矢は放心したような顔でされるままだ。仁を見つめる視線は外れない。自分の姿が乙矢の瞳の中に見えるような気がして、覗き込む。自然に顔が近づいた。
「私を……捨てないと、誓うか」
乙矢が問う。
不安でたまらない、子供の声だった。
思い切り抱きしめたいのに、怖くてそれができない。乙矢の許容範囲がよくわからないのだ。細い背中に手のひらを当て、優しく撫でながら「はい」と答える。
「……ずっとそばにいるか?」
「はい。ずっとあなたのおそばに」
「私がおまえに癇癪を起こしても……呆れたり見限ったりしないか?」
「いたしません」
「私が、き……汚くても、嫌わないか?」
俯いてしまう顔にそっと手を当てて上げさせた。
「何度でも申し上げます。あなたは汚くない」
「……自分では、わからない。目に見えない汚れがついているような気がするんだ」
「気のせいです。……魔女の呪いは解けますよ」
「どうやって?」
「呪いを解くのは王子のキスと相場は決まっています」
「王子なんかどこにいるんだ。なりのでかい体育会系な執事しかここにはいない」
「ずいぶんなお言葉ですね」
わざと落胆声を出すと、乙矢がクスリと小さく笑った。澄ましていても美しいが、笑顔はいっそう胸を打つ。
唇が触れ合う。
ごく軽い、まるで花びらでも落ちたかのようなキスだ。それでも乙矢が怖がったら、すぐに仁は離れるつもりでいた。
乙矢は甘い吐息をひとつ漏らしただけで、嫌がることも怒ることもない。もう一度、今度は少し長いキスをする。そのまま唇を滑らせ、頬から閉じられた瞼を辿る。ふ、と短い吐息が漏れて乙矢の腕が仁の上着を掴んだ。
……まずい。
身体の奥から、音が聞こえる。理性にひびが入る音だ。
口づけだけで、充分なはずだ。最初は指一本触らせてもらえなかったのだから、進歩というより飛躍である。触れることができる。執事としてそばにいることができる。これ以上を今の乙矢に望むのは強欲というものだ。それでなくとも、乙矢はあんなひどい目に遭ったばかりだというのに。
*この続きは製品版でお楽しみください。
「どきません」
乙矢が、追いつめられた獲物に見える。
だが、追いつめられているのは仁も同じことだった。言ってしまえばもうあとには引けない。言葉は口に戻せないのだ。
……それがどうしたというのだ?
どのみち、このひとりよがりな上司は仁を切ろうとしているではないか。仁にはもう、失うものなどなにもない。
「結婚はしません」
「原……」
「恋人も、作らない」
大きく見開かれた目が、仁を見上げる。
「――人生のすべてを捧げれば、あなたの執事にしていただけるんですね?」
手袋をしたまま、指の背で滑らかな頬を辿る。
乙矢は放心したような顔でされるままだ。仁を見つめる視線は外れない。自分の姿が乙矢の瞳の中に見えるような気がして、覗き込む。自然に顔が近づいた。
「私を……捨てないと、誓うか」
乙矢が問う。
不安でたまらない、子供の声だった。
思い切り抱きしめたいのに、怖くてそれができない。乙矢の許容範囲がよくわからないのだ。細い背中に手のひらを当て、優しく撫でながら「はい」と答える。
「……ずっとそばにいるか?」
「はい。ずっとあなたのおそばに」
「私がおまえに癇癪を起こしても……呆れたり見限ったりしないか?」
「いたしません」
「私が、き……汚くても、嫌わないか?」
俯いてしまう顔にそっと手を当てて上げさせた。
「何度でも申し上げます。あなたは汚くない」
「……自分では、わからない。目に見えない汚れがついているような気がするんだ」
「気のせいです。……魔女の呪いは解けますよ」
「どうやって?」
「呪いを解くのは王子のキスと相場は決まっています」
「王子なんかどこにいるんだ。なりのでかい体育会系な執事しかここにはいない」
「ずいぶんなお言葉ですね」
わざと落胆声を出すと、乙矢がクスリと小さく笑った。澄ましていても美しいが、笑顔はいっそう胸を打つ。
唇が触れ合う。
ごく軽い、まるで花びらでも落ちたかのようなキスだ。それでも乙矢が怖がったら、すぐに仁は離れるつもりでいた。
乙矢は甘い吐息をひとつ漏らしただけで、嫌がることも怒ることもない。もう一度、今度は少し長いキスをする。そのまま唇を滑らせ、頬から閉じられた瞼を辿る。ふ、と短い吐息が漏れて乙矢の腕が仁の上着を掴んだ。
……まずい。
身体の奥から、音が聞こえる。理性にひびが入る音だ。
口づけだけで、充分なはずだ。最初は指一本触らせてもらえなかったのだから、進歩というより飛躍である。触れることができる。執事としてそばにいることができる。これ以上を今の乙矢に望むのは強欲というものだ。それでなくとも、乙矢はあんなひどい目に遭ったばかりだというのに。
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
形式
【MEDUSA形式】MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存さされているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。
詳細はMEDUSA形式のご利用方法をご覧下さい。
































