和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>異世界ファンタジー
著者プロフィール
花田 一三六(はなだ いさむ)
1971〜
福岡県在住。大阪の調理師学校卒業後、ホテルに入社するも1ヶ月でリタイア。小説家を目指してアルバイト生活を続ける。1994年角川書店の雑誌「ザ・スニーカー」において短編「八の弓、死鳥の矢」でデビュー。その後は思い出したように本を出しながら、現在に至る。
1971〜
福岡県在住。大阪の調理師学校卒業後、ホテルに入社するも1ヶ月でリタイア。小説家を目指してアルバイト生活を続ける。1994年角川書店の雑誌「ザ・スニーカー」において短編「八の弓、死鳥の矢」でデビュー。その後は思い出したように本を出しながら、現在に至る。
解説
時の支配者に村を略奪され、すべてを失った男は、自ら村に火を放ち、狩人から暗殺者へその身を転じる。八人がかりでようやく弦を張ったという強弓を携えて。帝国の参謀、貴族院の筆頭を次々射抜いた彼は、最後の標的を「皇帝」と定め、漆黒の闇に包まれた城に潜入する……。
表題作「八の弓、死鳥の矢」の暗殺者を始め、「戦場の主」と畏れられた老傭兵、主君にその命を狙われる若く孤独な伝令兵など、戦乱の世を強(したた)かに駆け抜けた男たちの生き様を、花田一三六が卓越した筆致であますところなく活写した珠玉の短編集。戦塵外史シリーズとしての復刊にあたり、特別に書き下ろされた「策士の弟子」も収録!
表題作「八の弓、死鳥の矢」の暗殺者を始め、「戦場の主」と畏れられた老傭兵、主君にその命を狙われる若く孤独な伝令兵など、戦乱の世を強(したた)かに駆け抜けた男たちの生き様を、花田一三六が卓越した筆致であますところなく活写した珠玉の短編集。戦塵外史シリーズとしての復刊にあたり、特別に書き下ろされた「策士の弟子」も収録!
目次
・八の弓、死鳥の矢
・ルクソール退却戦
・架橋
・いちばん長い夜
・ジェラルスタンの策士
・策士の弟子
・ルクソール退却戦
・架橋
・いちばん長い夜
・ジェラルスタンの策士
・策士の弟子
抄録
ガゼルーン帝国歴四五年というから、いまから千年近くも前の出来事である。
男がいた。
名は残されていない。
文字に盲く、当然、学もなかった。狩りと百まで数えることだけが、男の全能力であった。
特に、狩りには天与の才があったという。
弓が得意だった。
強弓である。一般に使用されている弓を、「二」という。「二人がかりで弦を張りました」といった意味がある。弓兵のものは三から四。伝説に名高い、勇将サヴァールの愛用した弓が五。
男は八である。
すさまじい膂力であった。この弓を引き絞り、岩のごとき熊も一撃でしとめた。
その男が生涯を過ごした時期の大半は、いわゆる群雄が旗を飜す時代である。 侵略戦争が日常茶飯事であり、大陸統一という大義名分のもとに略奪が行われた。男の住んでいた寒村も例外ではない。
略奪を生み出す破滅の連鎖は、まず、飢饉から端を発した。
飢饉というのは、山の木々にも影響する。木々が朽ちれば、そこに棲む動物たちも出て行く。
そう言った時期である。支配者の権力が、男の住む村を冒したのは。
もちろん反抗した。したものは死体となった。男の両親もそうだった。
女たちは凌辱をうけた。これも、屍となった。
他殺と自殺と。
いったい、幾つの亡骸を弔ったのであろう。男の数えられる限界は、とうに越えていた。
ふと、まわりを見れば、村人とは男のことを意味していた。
その夜、村は焼けた。男がみずから、火を放ったのである。火は炎となる。炎は木に移り、林に飛び、森を包んだ。
学がなくとも、経験はある。男は村に火をつけた時点で、結果を理解していた。
野兎や、鹿はいない。そんな森に、男は何の未練もなかったのだ。
そして、山に不慣れな支配者たちが、水を求めて川に来ることもわかっていた。日々の糧としてきた動物よりも、単純な行動パターンであった。
かくして、ガゼルーン帝国南面軍補給部隊隊長の一生は、二行の報告書としてのみ、歴史に残るのである。「……一本の矢が、小川で休憩中の隊長に当たる。矢は額から後頭部に抜け、後方の大木に刺さる。鏃には一の文字。隊長即死」
男が捕まったという記述は、ない。
夏。闇はなお幽く、奥には夢魔が潜んでいるかのようだった。
この日、後に言う「アラース会戦」の戦場でガゼルーン帝国の大将軍が死んだ。戦死ではない。
公式では、戦場で死亡したのだから戦死と記載されるが、そうでないことは、誰の眼にも明らかだった。「死鳥の矢」
そう呼ばれている。矢の尻に、鴉の羽がついていた。鏃には「九十九」の文字が彫られている。
帝国の参謀が射抜かれたとき、「九十八」の鏃を装着した矢であった。その前は九十七で、貴族院の筆頭。九十六は財政庁の長官。
帝国の要職にある人物が、次々と死んでいる。「その腕を見込んで、もう一人、殺ってほしい人物がいる」
夜の底に、声が這う。姿は見えない。とはいえ、声の主は慎重だった。 自分は、相手の姿を認めない。しかし、相手が自分を見ることができないと、決めつけることはできないのだ。
相手は、希代の暗殺者なのだから。
噂では、眼をあわせただけで心臓を止めるという。
慎重になって、当然だった。暗闇を選んだ理由の一つは、そのせいでもある。
もっとも、相手にとっては関係のないことのようだった。白昼ならば人に溶け、闇があればそこに染み入る人間である。「獲物は誰だ」
暗夜の深奥から、問いがあった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
男がいた。
名は残されていない。
文字に盲く、当然、学もなかった。狩りと百まで数えることだけが、男の全能力であった。
特に、狩りには天与の才があったという。
弓が得意だった。
強弓である。一般に使用されている弓を、「二」という。「二人がかりで弦を張りました」といった意味がある。弓兵のものは三から四。伝説に名高い、勇将サヴァールの愛用した弓が五。
男は八である。
すさまじい膂力であった。この弓を引き絞り、岩のごとき熊も一撃でしとめた。
その男が生涯を過ごした時期の大半は、いわゆる群雄が旗を飜す時代である。 侵略戦争が日常茶飯事であり、大陸統一という大義名分のもとに略奪が行われた。男の住んでいた寒村も例外ではない。
略奪を生み出す破滅の連鎖は、まず、飢饉から端を発した。
飢饉というのは、山の木々にも影響する。木々が朽ちれば、そこに棲む動物たちも出て行く。
そう言った時期である。支配者の権力が、男の住む村を冒したのは。
もちろん反抗した。したものは死体となった。男の両親もそうだった。
女たちは凌辱をうけた。これも、屍となった。
他殺と自殺と。
いったい、幾つの亡骸を弔ったのであろう。男の数えられる限界は、とうに越えていた。
ふと、まわりを見れば、村人とは男のことを意味していた。
その夜、村は焼けた。男がみずから、火を放ったのである。火は炎となる。炎は木に移り、林に飛び、森を包んだ。
学がなくとも、経験はある。男は村に火をつけた時点で、結果を理解していた。
野兎や、鹿はいない。そんな森に、男は何の未練もなかったのだ。
そして、山に不慣れな支配者たちが、水を求めて川に来ることもわかっていた。日々の糧としてきた動物よりも、単純な行動パターンであった。
かくして、ガゼルーン帝国南面軍補給部隊隊長の一生は、二行の報告書としてのみ、歴史に残るのである。「……一本の矢が、小川で休憩中の隊長に当たる。矢は額から後頭部に抜け、後方の大木に刺さる。鏃には一の文字。隊長即死」
男が捕まったという記述は、ない。
夏。闇はなお幽く、奥には夢魔が潜んでいるかのようだった。
この日、後に言う「アラース会戦」の戦場でガゼルーン帝国の大将軍が死んだ。戦死ではない。
公式では、戦場で死亡したのだから戦死と記載されるが、そうでないことは、誰の眼にも明らかだった。「死鳥の矢」
そう呼ばれている。矢の尻に、鴉の羽がついていた。鏃には「九十九」の文字が彫られている。
帝国の参謀が射抜かれたとき、「九十八」の鏃を装着した矢であった。その前は九十七で、貴族院の筆頭。九十六は財政庁の長官。
帝国の要職にある人物が、次々と死んでいる。「その腕を見込んで、もう一人、殺ってほしい人物がいる」
夜の底に、声が這う。姿は見えない。とはいえ、声の主は慎重だった。 自分は、相手の姿を認めない。しかし、相手が自分を見ることができないと、決めつけることはできないのだ。
相手は、希代の暗殺者なのだから。
噂では、眼をあわせただけで心臓を止めるという。
慎重になって、当然だった。暗闇を選んだ理由の一つは、そのせいでもある。
もっとも、相手にとっては関係のないことのようだった。白昼ならば人に溶け、闇があればそこに染み入る人間である。「獲物は誰だ」
暗夜の深奥から、問いがあった。
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