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解説
「俺、やっとわかった。お前が好きなんだ」17歳の高校生・嶋中圭一は、毎朝、従兄弟の徹平とともに登校する。最近はクラスメイトで生徒会長の高坂則和と電車で一緒になることも多かった。その朝も、圭一はいつものように高坂と一緒になった。ただ、一週間前のある出来事以来、圭一は高坂のことを強く意識するようになっていた。密着する身体をこのままでいたいと想ったり、離れたいと願ったり……。だが、平穏なはずの一日は不穏な何かに包まれ……!?
抄録
(嫌だな…一番苦手な寝方だ)
意識しないようにと高坂から目を逸らし、懸命に眠ろうと努力した。中々上手くいかない。眠り方を忘れてしまったみたいに目が冴えていく。
部屋に置いてあった時計の秒針の鳴る音が響いた。同じ部屋に二人で寝ていると思えないほど、室内は静かだ。布団を頭まで被り、圭一はせめて自分以外の人間が部屋にいるのを忘れようと考えた。
少しうつらうつらとした時だ。誰かに足を引っ張られたような気がして、圭一はびくっとして目を覚ました。
室内はまだ暗く、自分の息遣いだけが聞こえる。
不安になって、圭一はまた高坂を見下ろした。高坂は最初と同じ体勢で、目を閉じたままだ。
こいつ、本当に生きてるのかな。
そう考えてしまったら、急にたまらない気持ちになって、圭一は高坂の寝息を聞きとろうとした。けれどまったくと言っていいほど聞こえてこない。心臓が早鐘のように鳴りだした。手のひらに汗が滲み出てくる。
怖くなって、圭一はベッドの上から高坂の顔に手を近づけた。息をしているかどうか確かめたかったのだ。鼻の近くに手を当てればわかるかもしれないと思い、上半身を伸ばす。
「……っ」
顔の近くで止めるつもりだったのに、手のひらが高坂の唇に触れてしまった。びくりとして高坂が目を覚まし、寝ぼけた顔で身じろぎする。
「…何? 今…何した?」
焦った顔で呟く高坂には悪いが、生きているとわかって安堵が全身に広がった。高坂が身体をねじってこちらを見上げてくる。
「ごめん、息してるか確かめてた」
申し訳なく思って圭一が謝ると、何だという顔で高坂が腕を投げ出す。
「手か、俺てっきり…。え? 俺、具合でも悪そうだった?」
再び身体を曲げてこちらを見上げてくる高坂に、圭一は慌てて首を振った。
「いや、そうじゃない。そうじゃないけど……」
圭一は躊躇《ちゅうちょ》して高坂に理由を話すかどうか迷った。高坂は不思議そうな顔でじっと圭一の顔を見ている。その顔を見ていたら、理由を知っても高坂なら馬鹿にしないと確信が生まれて口を開いた。
「あのさ、高坂。……前に、わがまま言ってもいいって言ったよな」
切り出しにくい話だったので、探るように言いだした。高坂は「ああ」と即答して上半身を起こした。
「何? 言ってくれんの、お前が。珍しい。子守唄歌えとかそういうの?」
暗くて表情がよくわからないといっても、高坂が楽しげな顔をしているのはわかった。その様子につられて、苦笑して告げる。
「すごくおかしな頼みだけど…、俺より先に寝ないでほしいんだ」
圭一の言葉はひどく意外だったようで、高坂が瞬きをして見つめてきた。
「変な話なんだけど…静かに寝ている人がいると、怖くなるんだ。徹平はイビキ掻くし寝相悪いから平気なんだけど、高坂って静かすぎて怖くなる」
暗闇だったことも相まって、素直に言葉が出てきた。日高の家に引き取られ、徹平と同じ部屋で眠るようになったある夜、この病気のせいで叫び声を上げて徹平を起こしてしまったことがあった。動かない人を見ると、両親の死を思い出してパニックになるのだ。徹平は優しい奴だったから、根気よく自分につきあってくれた。だいぶマシになったのは徹平のおかげだ。
「わかった、お前が寝たのを確認して寝ればいいんだな?」
絶対に何か聞かれると思ったが、高坂は軽く頷いて笑ってくれた。高坂の優しさに感謝して、圭一はごめんと小声で謝った。
再び目を閉じて、眠ろうとした。さっきは神経が張り詰めていたのだろう、もう時計の音は耳に響かなくなっていた。安堵して徐々に眠気が訪れてくる。
「…横になってると、うとうとしてくる」
五分も経った頃、急に高坂が布団から起き上がって、ベッドのふちに軽く腰を下ろしてきた。眠りかけていた圭一がびっくりして顔を向けると、高坂は安心させるように笑いかけてくる。
「圭一の初めてのわがまま、可愛いな」
囁くように呟いて、高坂の手が頭をそっと撫でていった。普段であればそんなことをするなと撥《は》ね除《の》けるところだが、その夜はそれがなぜか嬉しくて、高坂の大きな手を感じながら目を閉じた。
高坂は甘えさせるのが上手だと思う。そうでなければ甘えるのが苦手な圭一が、こんなふうに身を委ねることなどできない。
少しずつ眠りに引きずり込まれる。
完全に意識が途切れる前に、高坂が何か呟いたような気がしたが、よく聞き取れなかった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
意識しないようにと高坂から目を逸らし、懸命に眠ろうと努力した。中々上手くいかない。眠り方を忘れてしまったみたいに目が冴えていく。
部屋に置いてあった時計の秒針の鳴る音が響いた。同じ部屋に二人で寝ていると思えないほど、室内は静かだ。布団を頭まで被り、圭一はせめて自分以外の人間が部屋にいるのを忘れようと考えた。
少しうつらうつらとした時だ。誰かに足を引っ張られたような気がして、圭一はびくっとして目を覚ました。
室内はまだ暗く、自分の息遣いだけが聞こえる。
不安になって、圭一はまた高坂を見下ろした。高坂は最初と同じ体勢で、目を閉じたままだ。
こいつ、本当に生きてるのかな。
そう考えてしまったら、急にたまらない気持ちになって、圭一は高坂の寝息を聞きとろうとした。けれどまったくと言っていいほど聞こえてこない。心臓が早鐘のように鳴りだした。手のひらに汗が滲み出てくる。
怖くなって、圭一はベッドの上から高坂の顔に手を近づけた。息をしているかどうか確かめたかったのだ。鼻の近くに手を当てればわかるかもしれないと思い、上半身を伸ばす。
「……っ」
顔の近くで止めるつもりだったのに、手のひらが高坂の唇に触れてしまった。びくりとして高坂が目を覚まし、寝ぼけた顔で身じろぎする。
「…何? 今…何した?」
焦った顔で呟く高坂には悪いが、生きているとわかって安堵が全身に広がった。高坂が身体をねじってこちらを見上げてくる。
「ごめん、息してるか確かめてた」
申し訳なく思って圭一が謝ると、何だという顔で高坂が腕を投げ出す。
「手か、俺てっきり…。え? 俺、具合でも悪そうだった?」
再び身体を曲げてこちらを見上げてくる高坂に、圭一は慌てて首を振った。
「いや、そうじゃない。そうじゃないけど……」
圭一は躊躇《ちゅうちょ》して高坂に理由を話すかどうか迷った。高坂は不思議そうな顔でじっと圭一の顔を見ている。その顔を見ていたら、理由を知っても高坂なら馬鹿にしないと確信が生まれて口を開いた。
「あのさ、高坂。……前に、わがまま言ってもいいって言ったよな」
切り出しにくい話だったので、探るように言いだした。高坂は「ああ」と即答して上半身を起こした。
「何? 言ってくれんの、お前が。珍しい。子守唄歌えとかそういうの?」
暗くて表情がよくわからないといっても、高坂が楽しげな顔をしているのはわかった。その様子につられて、苦笑して告げる。
「すごくおかしな頼みだけど…、俺より先に寝ないでほしいんだ」
圭一の言葉はひどく意外だったようで、高坂が瞬きをして見つめてきた。
「変な話なんだけど…静かに寝ている人がいると、怖くなるんだ。徹平はイビキ掻くし寝相悪いから平気なんだけど、高坂って静かすぎて怖くなる」
暗闇だったことも相まって、素直に言葉が出てきた。日高の家に引き取られ、徹平と同じ部屋で眠るようになったある夜、この病気のせいで叫び声を上げて徹平を起こしてしまったことがあった。動かない人を見ると、両親の死を思い出してパニックになるのだ。徹平は優しい奴だったから、根気よく自分につきあってくれた。だいぶマシになったのは徹平のおかげだ。
「わかった、お前が寝たのを確認して寝ればいいんだな?」
絶対に何か聞かれると思ったが、高坂は軽く頷いて笑ってくれた。高坂の優しさに感謝して、圭一はごめんと小声で謝った。
再び目を閉じて、眠ろうとした。さっきは神経が張り詰めていたのだろう、もう時計の音は耳に響かなくなっていた。安堵して徐々に眠気が訪れてくる。
「…横になってると、うとうとしてくる」
五分も経った頃、急に高坂が布団から起き上がって、ベッドのふちに軽く腰を下ろしてきた。眠りかけていた圭一がびっくりして顔を向けると、高坂は安心させるように笑いかけてくる。
「圭一の初めてのわがまま、可愛いな」
囁くように呟いて、高坂の手が頭をそっと撫でていった。普段であればそんなことをするなと撥《は》ね除《の》けるところだが、その夜はそれがなぜか嬉しくて、高坂の大きな手を感じながら目を閉じた。
高坂は甘えさせるのが上手だと思う。そうでなければ甘えるのが苦手な圭一が、こんなふうに身を委ねることなどできない。
少しずつ眠りに引きずり込まれる。
完全に意識が途切れる前に、高坂が何か呟いたような気がしたが、よく聞き取れなかった。
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