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追憶はほろ苦く

追憶はほろ苦く

著: モーリーン・チャイルド 翻訳: 渡辺千穂子
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ディザイア
価格:630円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 モーリーン・チャイルド(Maureen Child)
 旅行をこよなく愛する彼女は、機会さえあれば夫と連れだって研究旅行に出かける。ハッピーエンドが大好きで、六十冊を超える作品を書き、今でもこの職業を世界最高と自負している。現在は夫と子ども二人、それに誇大妄想気味のゴールデン・リトリーバーとともに南カリフォルニアに暮らす。ウォールデンブックスのベストセラーリストに登場歴を持つ。

解説

 いったい何が起きたのか理解できず、デビーは刑務所の中でひとりたたずんでいた。今日、デビーは四週間のすばらしい休暇を終え、カリブの高級リゾート〈ファンタジー〉をあとにする予定だった。だが空港でパスポートを見せたとたん、警備員に取り押さえられ、抵抗する間もなく島内の刑務所に連れてこられたのだ。デビーが不安に苛まれていると、刑務所の扉が開き、思わぬ人物が現れた。ゲイブ? なぜ彼がここにいるの? 十年ぶりに見る彼は相変わらず魅力的で、不穏な笑みを浮かべている。かつて心から愛した男性を前にして、デビーは驚きと困惑、そして甘い胸の痛みを感じずにいられなかった。
 ★婚約者に捨てられた女性三人のロマンスを描く〈失恋に乾杯!〉もついに最終話です。休暇先のリゾート地のオーナーが、十年前に別れた恋人だと知ったデビー。気づいたときには、彼がしかけた復讐の罠にはめられていて……。最後まで目が離せません。★

抄録

 事務室のドアがゆっくり開くと、デビーは深呼吸をした。決然とした態度をとって、島の所有者と話がしたいと主張しよう。この混乱を正して、わたしを解放するよう求めなくては。自分を哀れんでなどいられない。戦闘態勢に入るのだ。長年一人で頑張ってきたわ。今だって立ち向かえるはず。
 デビーは不測の事態に備えて覚悟を決めていた。少なくとも覚悟を決めていると思っていた。しかし、ドアから出てきた男に容赦ないグリーンの目で見つめられたとたん、平常心を失った。
 彼は黒いスラックスをはき、長袖《ながそで》の白いシャツの襟元を開けていた。日焼けしたブラウンの髪には濃淡ができている。彼がほほ笑むと、デビーはこの十年ほど感じたことがなかった熱い大きな衝撃を受けた。
「ゲイブ?」自分の目が信じられず、彼女はささやいた。「ガブリエル・ボーンなの?」
「やあ、デビー」デビーの記憶に残っているとおり、深みのある声だった。「久しぶりだな」
 デビーは目をぱちくりさせて、ゲイブが独房に向かって留置場の床を歩いてくるのを見守った。こんな状況にもかかわらず、体を熱いものが駆け抜け、かつて二人で分かち合った過去の記憶と映像に打ちのめされそうになる。彼の顔を見ただけで離れていた年月は消し去られ、彼に会った最後の夜が鮮やかすぎるほど詳細によみがえった。
 あの夜、ゲイブはわたしに結婚してくれと言った。
 そしてわたしは、ノーと答えて去った。
 ゲイブの足音がコンクリートの床に大きく響く。鉄格子の間から斜めに差す日の光が彼を縁取り、その顔を陰にしていた。「面倒なことになっているみたいだな、デビー」
「そうなの」デビーは認めた。ゲイブはそれ以上何も言わず、彼女を見つめるだけだ。二人の間に張りつめる沈黙に耐えられず、デビーはしゃべり続けた。「何もかも間違いなのよ、明らかに。わたしは不正なことなどしていないわ」
「本当に?」
「ええ」デビーはゲイブの口調が気に入らなかった。まるで、彼女がどんな犯罪を犯したのか考えているかのようだ。「パスポートに関して誤解があったみたいで、この島の所有者と話をするようここに連れてこられたの。でも彼は現れないし、わたしはもう二時間もここにいるの」
 ゲイブは独房の鉄格子に片手を置いて、彼女を見下ろした。その目は愉快そうに光っている。
「あなたはここで何をしているの、ゲイブ?」みぞおちに徐々に疑念が渦巻いてきて、デビーは尋ねた。
「この島で? それとも、この留置場で?」
「留置場よ。なぜここにいるの?」
「問題が起きたから、処理するよう呼ばれたんだ」そう言うと、ゲイブは鉄格子から離れ、再び独房の前を行ったり来たりし出した。
「そう」デビーは彼の動きを目で追った。ゲイブは留置場の端まで歩いては、向きを変えて戻ってくる。少しの焦りも感じていないような、ゆったりとした動作だ。もちろん彼は困りはしないだろう、独房に入っているわけじゃないのだから。いらだちがデビーの中によみがえってきた。「じゃあ、あなたは警察署長か何かなの?」
 ゲイブの口の片端がゆがんだ。「何か、のほうだよ」彼はデビーの真向かいで立ち止まり、彼女を見下ろした。「この島に警察はないんだ。あるのは警備部門だけだよ。もしも重犯罪者に遭遇したときは、バミューダ島へ船で護送するまでここに留置する。だが、軽犯罪の場合は我々で処理する」
「わたしはどちらなの?」デビーはきいた。「軽犯罪? それとも護送されるの?」
「それを今から判断しなければならない」
「ねえ、ゲイブ」デビーは早口で言った。「わたしがどんな人間か知っているでしょう? 犯罪者のはずがないわ。交通違反すらしないのよ」
 ゲイブの顔から笑みが消えた。彼は首を振った。「十年前なら、きみを知っていると言えただろうね。少なくとも知っていると思っていた……」
 沈黙が流れた。ゲイブは十年前の最後の夜を思い出しているのだと、デビーにはわかった。そして楽しげに回顧しているわけではないことも。心の底から愛していたのに、デビーは彼のプロポーズを断った。ゲイブとともにいたい、と彼女のすべてが切望していたのに、彼のもとを歩み去ったのだ。
「ゲイブ――」デビーはささやいた。
「でも、今は」彼女が何を言おうとしたにしても、ゲイブはすばやくさえぎった。「どうして知っていると言える? 長い年月がたったんだ、デビー。人は変わるものだ。きみも大泥棒になっているかもしれない」
「違うわ」
 ゲイブは肩をすくめた。「それとも密輸業者か」
「ゲイブ……」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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