マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン文庫

クレタの聖像

クレタの聖像


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


著者プロフィール

 シャーロット・ラム(Charlotte Lamb)
 第二次大戦中にロンドンで生まれ、結婚後はマン島で暮らす。大の子供好きで、五人の子供を育てた。ジャーナリストだった夫の強いすすめによって執筆活動に入り、百作以上の作品を著す。二〇〇〇年秋、多くのファンに惜しまれつつこの世を去った。

解説

「名門の僕は君とは結婚できない。だから愛人になってほしい」
ある出来事がもとで、心に傷を抱えていたソフィだったが、ギリシアのクレタ島で働くことになった。
周囲にもなじみ、自分の居場所を見つけたが、唯一彼女の心を悩ませるのが、プレイボーイな社長アレックスの、傍若無人なこの誘惑。類まれな美貌の彼は、平然と女性を弄ぶという悪い噂があったし、そもそもいまのソフィでは、到底そんな気持ちになれない――そう断ると突然、唇を絡ませてきた。ソフィは知る由もないが、社長の目には、まぎれもない本気の火がちらついていた。

抄録

「それで僕を抱き込んだつもりかい?」彼は背筋を伸ばした。「こんな重大な問題を、僕が君なんかに任せるとでも思っているのか、え?」
 平然と見返すソフィに、アレックス・レフカスは白い歯を見せて、吐き捨てるように言った。
「すぐ荷物をまとめたまえ、ミス・ブライアント。次の便でイギリスに帰ってもらう」
 受話器を取り上げようとするソフィの手に、大きな、厚みのある手が覆いかぶさった。「何をする?」
「お母様に、お別れのご挨拶を」ソフィは愛想よく答えた。
 アレックスはソフィに背を向けた。体中を怒りが駆け巡っているのがわかるほど、すらりとした体が硬直している。
 しかしそれも一瞬で、くるりと向き直った顔には、激昂の跡もなかった。目だけが、冷たく不気味だ。
「覚えてろ!」ばたんとドアが閉まった。
 小一時間ほどして、マダムがオフィスに入ってきた。うれしそうに瞳が輝いている。「かわいそうなアレックス坊や。ニューヨークに着くまで消化不良で大変よ、きっと。あんなに荒れたの、何年ぶりかしら」
「怒らせすぎでなければいいんですけど」
 マダムは緑色の目をのぞき込んだ。「気にしてなんかいないくせに!」
 ソフィはちょっと戸惑ったが、悪戯っぽく笑った。「まあ、そうですわね」
「その意気込み、忘れないで。アレックスは、またすぐ戻ってくるわ」
 マダムの予想に反して、アレックス・レフカスが二人の前に現れたのは、それから三カ月も後のことだった。いつの間にか丘が鮮やかな緑の絨毯を敷きつめたようになり、道端にまで花の咲き乱れる春が訪れていた。
 春は、頂上に雪を頂いた山々と、黒い地平線の彼方から、急にやってきて、谷間の牧場を花と緑で埋め尽くした。甘い香りの漂う澄んだ空気。抜けるように青い空。ヘクトルまでが、うきうきと庭仕事に精出している。
 温水プールの、ガラス天窓も開け放されて、水しぶきをあげるソフィに、陽光が躍りかかった。彼女は、朝日の昇る前に起きて、冷たい水の感触を満喫した。
 いつものように、のんびりと仰向けに浮かんでいたソフィは、プールサイドの足音にはっとした。じっとソフィを見ていたアレックス・レフカスが、ばねのように弾んで、飛び込んできた。引き締まった長身の体が、水しぶきをあげて通り過ぎる。ソフィは、反射的にプールサイドに向かっていた。水から上がろうとしたところを、いきなり足首をつかまれて、ソフィは水中にもんどり打った。そしてやっと顔を上げると、あきれ返ったようにアレックスを見つめた。
「どこへ逃げようっていうの?」笑顔がまぶしい。
「朝ごはんに」
「急ぐことないさ」
 彼の目が、ソフィの平凡な水着に注がれている。家のプールで、大胆に肌を見せる水着は、みんなを刺激するからと、マダムに言われて買ったものだ。“ヘクトルが腰を抜かすと、気の毒だから”とマダムは笑っていた。
 硬い乳房と、細くくびれた腰をぴったりと包む黄色い水着は、まるで第二の皮膚のようだ。すらりと伸びた脚も、冬の名残で、白く、クリームのようにすべすべしている。
「チャーミングだ」ソフィの目をのぞき込んでにっこりすると、アレックスは、小さくつぶやいた。彼が初めて見せる親しみのこもった目に、ソフィはぎくりとした。
 ‘作戦その二’が始まったようだ。ソフィは、用心深く彼を見守った。
「クレタの住み心地は?」
「すてきです」
「母の相手ばかりで寂しくないかい?」
「全然」
「きれいな女の子には、静かすぎると思うけどね。ロンドンが恋しくないの?」
「いいえ」とんでもない。都会を忘れて、せいせいしているのに。静かなマダムとソフィの部屋も、口喧嘩や笑い声の絶えないにぎやかな使用人たちの部屋も、大好きだ。こんなに快適な暮らしはない。
「僕がいる間に、最高のクレタ料理をごちそうするよ。ヘラクリオンまで行くと、本物のコックがいるんだ」
 ソフィは顔色一つ変えない。「マダムがお喜びだわ。お食事に出かけるのが大好きですもの」
 灰色の目に鋭い陰りが走った。沈黙を破るように、アレックスは、ソフィの腕から肘に長い指を滑らせた。目が愉快そうに笑っている。「母はいいんだ、ミス・ブライアント。二人だけで行こう。僕たちはお互いをもっとよく知る必要がある」
 ソフィは、さりげなく身を引いた。「気を遣ってくださってるのね。でも、めったにいらっしゃらないんですから、たとえ一時間でも、親子水入らずの時間を取り上げるわけにはいきませんわ」
 くるりと背を向けて、ソフィは、ローブを取りに行った。後ろで、アレックスが勢いよく水を蹴って上がってくる音がする。ソフィがぎゅっとベルトを締めて歩き出すと、アレックス・レフカスが立ちはだかった。さっきの親しげな笑顔は、どこへ消えてしまったのだろう?
「一つ忠告しておく、ミス・ブライアント。僕を目の敵にするのはやめなさい。敵に回すと損をするよ。僕たちは、友達になれるはずだ。君が利口な人間なら、わかると思うがね」
「目の敵だなんて思い違いですわ、レフカスさん。私は仕事に口出しされたくないだけです。私、お母様が大好きなんです。ですから、どんなことをしてでも、守ってさしあげるつもりです。任せてください」
 アレックスは、穴のあくほどソフィを見つめた。彼女は黙ってまぶしい春の日射しの中を歩き出した。これでいいんだ。アレックス・レフカスと喧嘩などしたくない。二人に同時に忠誠を誓うなんて芸当はできないのだ。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。