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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・イマージュ

愛のため夜を駆けて

愛のため夜を駆けて


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・イマージュ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ジョージー・メトカーフ(Josie Metcalfe)
 大家族のなかで育ち、子供のころから本が友だちだった。書くほうに回った現在も同様で、物語の終わりにさよならを言いたくなくなるという。コーンウォールで“我慢強い”夫とともに暮らしている。四人の子供がいる。

解説

彼と赤ちゃんと一緒に生きていきたい。でもそれは、願うのも愚かな夢物語……。

小さな小さな天使さん、お願い、早くパパを安心させて。看護師ナディアは、生死の境をさまよう早産の双子に語りかけた。双子の父親で医師のギデオンは、不眠不休の看護でもはや倒れる寸前だ。今回の代理母出産を望んだ妻とは、すでに離婚が成立したらしい。複雑な事情を抱えた彼を案じつつ、赤ちゃんたちの世話を焼くうち、ナディアは3人を愛し始め、ずっとそばにいたいと願うようになる。けれども彼女は、人に話したくないつらい過去を心に秘めていた。十代のころ、実の父親によって悪党に売り飛ばされたのち、そこでの生活に耐えかねて逃げ出し、今なお忍び暮らしているのだ。父子との絆が深まるほど、身を引くべきだという切ない思いが増し……。

■愛と切なさで読み手の胸を揺さぶるジョージー・メトカーフ。本作では、壮絶な人生を歩むナディアを主人公に、すべてを乗り越えた愛は何よりも強いと感じさせてくれる珠玉のロマンスを描きました。

抄録

「どんな気分?」
 めまいはおさまり、脈拍ももうほとんど正常だ。どれくらい集まったのかわからない同業者たちの前で床に倒れている事実を別にすれば、特に問題はない。「情けないよ」ギデオンはひと言で返し、そのみじめな姿をいったい何人が見ているのか、はっきり知ろうと思いきって目を上げた。
 見下ろしているのはナディアの薄茶色の瞳だけだった。あれほどいらだった声で話していながら、そのまなざしには心配そうな色しか見えない。
「でしょうね」彼女は冷ややかに返し、立ち上がるのを助けようと手を差し出した。
 認めたくはなかったが、間違いなく体の安定を欠いていたようで、彼女の細い手を握りながら安堵している自分がいた。
 彼女の指を握り締めたとたん全身に緊張が走り、そうか、とギデオンは気づいた。使い捨ての手袋をせず直接肌に触れるのはこれが初めてなのだ。ナディアのほうもギデオンを立たせるなり手を引っこめ、ナース服のポケットに突っこんだ。やはり似たような感覚に襲われたのだろう。
「どこに行くんだい?」ナディアは廊下を新生児室とは反対の方向に歩きだしていた。
「あなたのために飲みものと食べものを調達しに」彼女の足運びには、わずかの迷いも見られなかった。
「待ってくれ……赤ん坊はどうなる?」階段を二段飛ばしで駆け上がる原因となった焦燥感が、再び彼を雪崩のように襲った。「離れないでくれ。放っておかないでくれ。あの子たちはあんなに――」
「放っておいたりしません」ナディアはぴしゃりと言い、腕をぴんと伸ばしてスタッフルームのドアを押し開けた。「今は私の休憩時間なの。赤ちゃんのそばにはローラがいるわ」
「しかし――」
「入って、ギデオン。いつまでもそこにいるなら、ドクター・ウェザビーに頼んで、あなたのこの階への出入りを禁止してもらうわ」
 ドア口から彼女が命じたが、葛藤に苦しむギデオンは廊下のまん中で動けずにいた。
「禁止だって!」信じられない。「おかしいだろう。僕は父親だ。子供のそばで見守る権利がある」
「ええ、子供たちに危険が及ぶと判断されないかぎりはね」ナディアは負けじと反論した。「失神して倒れれば、モニターのコードを引っかけたり、酸素供給を遮断させたり……最悪の場合、保育器を倒して赤ちゃんを頭から床に落とす羽目になる。間違いなく危険なのよ」
「僕は失神して倒れたわけじゃない! ただ……階段を駆け上がって息が切れていただけだ」
「そういうことにしておきましょうか」ナディアは淡々と応じ、冷蔵庫からプラスチックの四角い容器を取り出した。「ひとつ忠告させて。早く座らないと、その脚の震えのせいで倒れるわよ……さっきみたいに」
 頭には綿が詰まったような感じが残っているし、指摘された脚の震えも確かにあった。しかし、ギデオンが忠告に従った最大の理由は、ナディアが見せた新しい面に純粋に好奇心を刺激されたからだ。
 ギデオンは近くのカウチの端に腰を下ろした。いや、くずおれるように座ったと言ったほうが正しいだろう。膝から力が抜けたのは、座面に尻がつくより前だった。
「飲んで」水の入った背の高いコップが彼の前に差し出された。「たぶん脱水状態の一歩手前でしょうね。最大の問題はたぶんそれ。赤ちゃんがいる場所は室温の設定が高めだから、自分でよく考えて計画的に水分を取らないと」
 コップを持っているナディアの細い手に目をやると、コップの水滴が流れて柔らかい肌の上で玉を作っていた。体がどれほど冷たい飲みものを求めていたのか、ギデオンはこのときはたと気づいた。「ありがとう」ぼそりと言ってコップを受け取る。今度は手と手が触れ合わないように注意した。
 ただの冷たい水道水だというのに、喉を流れ落ちる感触のすばらしさときたら、さながら高級ワインを飲んでいるかのようだった。
「ひとつどうぞ」
 飲み干したグラスを下ろすなりナディアの声がし、目の前に容器が差し出された。
「君のランチだろう」容器の中は、一見して手作りとわかるサンドイッチだった。
「たくさんあるから」軽く受け流したナディアは、サンドイッチを容器ごとギデオンの隣、カウチの上に残したまま、沸騰しているケトルのほうに注意を向けた。「中身はチキンサラダよ」首だけひねって言い添える。「私が作ったの」
 においが食欲をそそり、見た目もおいしそうで、これは遠慮するのがマナーだろうと思いながらも、気がつくとギデオンはひとつ手に取っていた。
 体が目覚めるには、最初のひと口で充分だった。食事をするという日々の行為を、彼の体は数日前から忘れてしまっていたのだ。
「おお!」崇高なひと口目の味わいが、口の中に広がった。「これはうまい」
 ギデオンはとっさに二口目を頬張った。だから発音が不明瞭になっていたはずなのに、ナディアがほほ笑んでくれたところを見ると、ちゃんと聞き取ってくれたようだ。
 今のほほ笑みでもうひとつわかったことがあった。ナディアのこれまでの笑みは表面的なものだった。今みたいな笑顔を見ていればもっと早くに気づけたに違いない。彼女はこんなにも美しいのだと。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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