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シークに娶られて【ハーレクイン・セレクト版】

シークに娶られて【ハーレクイン・セレクト版】


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・セレクト
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 メイシー・イエーツ(Maisey Yates)
 ロマンス小説を書く前から、熱心な読者だった。自分のヒーローとヒロイン作りが楽しめる今の幸運が信じられないという。オレゴン州南部の自然の中で、通りの向かいに住む両親の手を借りながら、夫と幼い3人の子供と共に暮らす。朝起きて家の裏口に熊を見つけるような生活と、自宅で書くエキゾチックな街で起こる物語との落差を楽しみながら、執筆に励んでいる。

解説

砂漠の国の王妃となった姉に代理母になってほしいと頼まれ、クロエは国王夫妻の子アデンをひそかに出産した。だがその直後に夫妻が事故死し、事情を知る者がいなくなる。貧しい学生のクロエに子どもを育てる余裕などない。途方に暮れながら必死に赤ん坊の世話をしているところへ、代理母の契約書を発見したという亡き王の弟サイードが現れた。「契約どおり、子どもは我が国に属する」冷たく宣言する彼に、クロエは懇願した。乳母でも召し使いでもいい、甥と一緒にいたいと。まさかサイードの名目だけの妻にさせられるとは、思いもせず。

■ロマンスの申し子メイシー・イエーツ。国のために感情を排し生きてきた冷酷なシークと、貧しくも懸命に幼い命を育てるヒロインが赤ん坊を巡って散らす火花はやがて恋の炎となり……。

*本書は、ハーレクイン・ロマンスから既に配信されている作品のハーレクイン・セレクト版となります。 ご購入の際は十分ご注意ください。

抄録

「君がパスポートを持っていて助かったよ。アデンの分を追加するだけですんだ。旅行にはよく出かけるのか?」サイードが尋ねた。
 もちろん単なる世間話ではない。クロエのことをまだ完全には信用していないのだ。かまわないわ。私だってそうだもの。「二年前に、スイスに大型ハドロン衝突型加速器を見に行ったのよ。またとない経験だったわ」
 サイードは唇の端を上げ、下手な笑みを取り繕った。「僕の知っている大方の女性にとっては、デザイナーズ・バッグのセールのほうが、またとない経験だろうな」
 彼は私を怒らせようとしているんだわ。理由はわからないが、クロエはそう確信した。「私も世間の女性並みにバッグは好きよ。でも、いちばん夢中になれるのは、やっぱりストリング理論の話題ね」
「残念ながら太刀打ちできそうにない」
 そう言ってサイードが首を傾けるさまには、いくらか敬意が感じられた。
 私を試しているのね、とクロエは思った。別に珍しいことではない。男性は女性に優位に立たれるのを嫌う。研究仲間の男子学生も、彼女の頭脳と研究成果に脅威を感じている。
「そうね。でもたぶん……アラビア産の種牡馬の話なら、私もあなたに太刀打ちできないわ」
 サイードは笑った。「僕の専門は種牡馬だと言いたいのか?」
「外れたかしら?」
 彼は肩をすくめた。「馬は得意というほどではない。あえて言うなら軍用車が専門だ。武器、大砲、砂丘での待ち伏せ」
 本来ならショックを受けるべきなのだろう。だが、サイード・アル・カダールは見るからに危険の匂いに満ちていた。クロエは普段、人と深く交わるほうではないが、危険に関しては人生の早い時期にそれを見抜く術を身につけた。生き延びるために。「まあ……そういう話題で長く話すのは難しいかも」
「それではお互い黙っていることにしようか?」サイードは一方の眉を上げた。
「そうね。長い一日だったもの」
「いまこの瞬間にも、アタールの宮殿前では報道陣が場所の陣取り合戦を繰り広げているだろう」
「発表の内容はすでに伝わっているの?」
 サイードは首を横に振った。「いや、発表はDNA検査の結果が出てからだ。わかっていると思うが、念のためだ。子どもがアタール国の正当な世継ぎではないという噂が立っては困る」
「忠誠を誓うのも、なかなか面倒なのね」
「そんなことはない。どんな人間にも役目がある。皆が役目を果たすかぎり、世の中は滞りなく動く」
 彼の言葉から伝わってくるむなしさというか、諦めのようなものが、クロエは気になった。
 飛行機のエンジン音がとどろき、機体が滑走路を進み始めた。クロエはアデンをしっかり抱きしめた。
「子どものことだと神経質になるんだな」
 サイードの指摘に、クロエは顔を上げた。彼の言いたいことはわかっている。「赤ん坊を世話するのは初めてだから」
「特に欲しかったわけでもないんだろう?」
「私はまだ二十三歳よ。子どもを欲しがる年齢じゃないわ。まあ将来的にも、結婚や出産を考えているわけではないけれど」それどころか、これまでは疫病のように避けてきた。
「にもかかわらず、その子を守ろうとするんだな。まるで母虎のように」彼の言葉はどれもさらりとして、感情がまったく感じられなかった。
「本能の成せる業よ」クロエはアデンのくしゃくしゃの髪に視線を落とした。「種の保存」
「それだけか?」
 クロエは首を横に振った。「いいえ」
「よかったよ、この子に愛情を注いでくれる叔母がいて」
 アデンに対するクロエの愛情はごく自然なものだった。自分の一部のような感じがする。実のところ、彼はクロエに残された唯一の家族だ。
 彼女が認めるただひとりの家族。両親はすでに赤の他人だ。二度と口をきくつもりはない。せっかく逃げてきた彼らのもとに戻り、醜い結婚の実態を目にしたいとは思わない。
「ええ、愛しているわ」クロエは答えた。
「よかった」
 サイードの声に喜びはいっさいなかった。隠された感情が見えはしないかと、クロエは硬い輝きを帯びた黒い目の奥を探った。腕の中の小さな赤ん坊に対する優しさのようなものがないかと。
 けれど、そこには何もなかった。あるのは闇だけ。光さえのみこむブラックホールさながらだ。
「僕は七歳のときに叔父のカリードに引き取られた。ラシッドから聞いているかもしれないが」サイードが言った。
「いいえ」義兄とはほとんど話したことはない。タマラと会うときは、たいていその場にいなかった。
「珍しいことではない。兵士になる子どもは皆、現役の兵士のもとで訓練を積む」
「そんなに幼いうちから?」
「君も指摘したように、幼いころの経験は人格形成に大きな影響を及ぼす。そういう重要なことに関して、万一のことがあってはならない」
「どういうこと?」
「完全な兵士であるためには、完全な人間であってはならない。あとから敵の手で破壊されないよう、最初に壊しておく必要がある」
 さりげない口調には、恐怖はいっさい感じられない。けれども恐怖は間違いなく存在した。彼の目の中に。
 クロエはその闇に引きずりこまれ、闇の中で彼に溺れる自分を想像した。それによってもたらされた感覚に、彼女は激しく揺さぶられた。胃をわしづかみにされたような感覚に襲われたのは生まれて初めてだった。
 彼女は顔をそむけ、別のことを考えようと努めた。今日からの半年間はアデンのためのものだ。必要な移行期間を経て、この子が自分のいるべき場所になじめるようにしなくてはならない。
 暗い目とそれ以上に暗い魂を持つ男性に、私が惹かれるための時間ではない。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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