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死返しの女

死返しの女


発行: キリック
シリーズ: 死返しの女
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

ぼさぼさの髪を振り乱し、汚れた服装でオフィス街を歩く九泉詩織《きゅうせんしおり》。本来は美しい容姿を持つ彼女があえてそうしているのにはわけがあった。実は、詩織にはある特殊能力がある。それは、他人の「死」の予兆が捉え、その痛みを感じ取り、感じ取った「死」を第三者へと「返す」というもの。すなわち「死返し」は、九泉家の女に代々受け継がれてきた宿命ともいた。しかし能力と引き換えに背負わされたのが、運命の相手以外と恋に落ちればその相手は死ぬという定め──。過去に二度、恋人を亡くしてきた詩織は、それ以来人を寄せ付けないように生きてきた。ところがそんなある日、ある男との出会いが詩織の運命をさらに狂わせる。その人物とは、かつて彼女の親友を殺した男、沢崎《さわさき》に他ならなかった。親友の仇を討つために、詩織は沢崎を「死返し」の呪法で殺すことを決意。だが沢崎と接触するうちに、いつしか彼に強く惹かれていた自分に気づき……。

憎しみと愛情の狭間で詩織が下す決断とは? 鬼才・梅津裕一が放つ、推理系リリカル・ホラー!

目次

第一部
第二部
第三部
第四部
第五部
終章

抄録

 心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。
 どうやらバイクと乗用車の接触事故らしい。
 状況はわからないが、自動車のほうは三台も巻き込まれている。多重衝突事故だ。
 一台はガードレールに激突し、もう一台は横転していた。
 残る一台は車体の左側を凹《へこ》ませたまま、道路の真ん中に鎮座している。
 予想よりも深刻な事故かもしれない。
 特に危険なのは、バイクから放り出されている男だった。
 すでに救急車が停まり、救急隊員が男に駆け寄っている。
 ようやくやってきたパトカーから、警官たちが降りてきた。
 不謹慎なことに、何人もの人々がスマホで写真を撮っている。
 救急隊員によりヘルメットを脱がされた男は、派手に血を流していた。
 意識レベルを確認しているようだが、詩織にはすでに彼の運命はわかっていた。
 あの男は、まもなく死ぬ。
 黒い瘴気《しょうき》のようなものが、男から立ち昇っているのだ。
 頭はちょっと切っただけで派手に出血する部位ではあるが、これは致命傷だ。
 もう意識もないだろう。
 自分は判断を誤ったと、詩織は悟った。やはりこの事故現場は回避すべきだった。
 打ち合わせなど後回しだ。とにかく、この場から急いで離れなければと思った瞬間、「それ」はやってきた。
 頭が割れるような激痛が走る。
「があああああああっ」
 白目をむいて、詩織は路地に跪いた。
 まわりの人々が驚いているようだが、もうそんなことはほとんど認識できない。
 死にゆく男の苦痛が、こちらに伝わってきたのだ。
 頭だけではなく、胸にもひどい損傷を受けていたようだ。
 詩織の胸も男の苦痛を味わっていた。
 肋骨が何本も、肺に突き刺さっている。
 意識が混濁し、なにも考えられなくなりそうだ。
 落ち着けと自分にむかって何度も言い聞かせた。
 これは自分が感じている痛みではない。
 あの事故にあった男の、死にゆく者の苦痛がただ体に流れ込んできているだけだと。
 いうなれば幻痛のようなものだ。
 実際には、自分の体はぴんぴんしている。
 だが、いくら経験してもこの耐え難い苦痛には慣れなかった。
 死にもさまざまな種類のものがあるが、そのほとんどは苦しみに満ちている。ましてや、今度は外傷による死なのだ。
 詩織は道端でのたうち回った。
「おい、ちょっと、なんだよこれっ」
「なんかの発作じゃないの?」
「救急車、呼んだほうが……」
「待て、救急車はもう来てるだろ! 救急隊員、呼んできたほうが早いっ」
 必死になって詩織は叫んだ。
「私は平気だからっ!」
 みなこちらを心配してくれているのだろうが、詩織にとってはありがた迷惑も良いところだった。
 もし病院に搬送されたりすれば、さらに他の死にゆく者たちの苦痛を味わわされることになるのだ。
 それだけは絶対にごめんだった。
「あがあああああああっ」
 詩織は無様な声をあげて、ひくひくと体を痙攣させた。
 バイクの男はもう長くない。
 肉体から魂が引き剥がされるような、絶望的な感覚がやってくる。
「あああああああああああっ」
 周囲の人々は、あきらかに怯えていた。
 髪を狂女のように振り乱し、詩織はこのあまりにも直接的な死の感覚に耐えていた。
 これは本物の痛みではない。
 偽物の、あのバイクの男の死の苦しみと自分の心身が同調しているだけなのだ。
 次の瞬間、体じゅうが引き裂かれるようなとてつもない激痛とともに意識が遠のいた。
 それは、唐突に終わった。
 気がつくと何人もの男女が、恐怖と怯えの表情を顔に滲ませながらこちらを凝視している。
 気がつくと、詩織の呼吸はひどく荒くなっていた。
 何度、経験しても他人の死を擬似体験するのはきついものだ。おそらく普通の人間ならば、そのまま死んでいただろう。これでも詩織の味わう痛みは、実際の死者の味わう痛みのごく一部にすぎないのだが。
 とりあえず、失禁などはしていないようでほっとした。
 むくりと起き上がった詩織を見て、人々が後ずさる。
「あの……大丈夫ですか?」
 まだ若い、いかにも親切そうな男がおそるおそるといった感じで声をかけてきた。
 あの人にどこか似ている。
 そう思った瞬間、ふいに涙が零れ落ちそうになり、詩織は顔の筋肉を引き締めた。
「もう大丈夫です。みなさんにはご迷惑をおかけしました」
 頭を下げると逃げるように事故現場を離れていった。
「なんだよ、あいつ」
「気持ち悪い女だったな」
「なんかの発作だったのかもよ」
「それより、バイクの人……死んじゃったみたい」
「あらあら、まだ若そうなのに。やっぱバイクは怖いな」
 声が後ろに遠ざかっていく。

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