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著者プロフィール
森岡 由宇子(もりおか ゆうこ)
8月17日生まれ。獅子座。AB型。
8月17日生まれ。獅子座。AB型。
解説
大学生・光原一樹の恋人は、完璧な学生総会会長の天王寺操。目の前で後輩からの告白シーンを見てしまった一樹はヤキモチを焼き、泥酔して独りウサをはらしていた。翌朝、目が覚めると横には見知らぬ女子大生が!? そこへ天王寺に踏み込まれ、怒りを買った一樹を待っていたのは――。18世紀フランスが舞台の、シンデレラストーリーのような小作品付き。
目次
act1 君に溺れて
act2 愛の痛み
Special Story 絹の寝床
act2 愛の痛み
Special Story 絹の寝床
抄録
事の発端は、昨日の午後に起こった。
天王寺、一樹、そして学生総会の委員数人は、学生会館にあるティールームで雑談していた。
そこに、一人の学生が近寄って来た。
法学部の一年生である彼を、電子工学部二年の一樹も名前と顔だけは知っていた。何故なら彼は非常に綺麗な容姿をしていて、あるファッション誌が主催した美少年コンテストに入賞したこともあり、学生たちの間で話題にされることが多かったからである。名前は野々村拓人といった。
まだ少年らしさの残る頬を上気させ、思い詰めたような表情で真っ直ぐに天王寺を見つめると、野々村は口を開いた。
「あの……天王寺先輩」
遠慮がちにかけられたその声や、おとなしそうな顔つきが野々村を気弱な性格に見せている。しかしその実、法学部の学生である彼が他学部の者に比べ、天王寺を先輩と呼ぶ権利をより多く持っているのだと周囲に向かって誇示しているように、一樹には思えた。
「ん……? 何?」
天王寺が野々村を見る。
その表情は柔らかくまなざしは優しげだが、天王寺が何を考えているのか周りの者には分からない。
彼が穏やかな表情を崩すことは、まずない。常に優しそうな顔をしているが、いつでもそうなのだから、言ってみれば無表情なのと変わりはないのだ。
言葉を待つ天王寺の前で、野々村が口を開いた。
「僕の手紙……読んでもらえましたよね?」
その言葉にも、一樹は心の底で密かに反応する。
――よね? だって……――
『読んでくれましたか?』とか『読んでもらえました?』という疑問形ではなく、わざわざ語尾で念を押している辺りに、自分の手紙を天王寺が読まない筈はないという自信が滲んでいる気がするのだ。
そんなことを思いながら見守る一樹や他の委員たちの前で、天王寺が軽く頷いた。
「うん」
表情を変えずに一言だけ返した彼を、野々村が真剣な目で見つめる。
「返事、聞かせて下さい」
その言葉で、一樹には彼の手紙の内容が想像できてしまった。
「今、ここで?」
問い返した天王寺に、野々村が頷く。
「はい、ここで、聞かせて下さい」
――い、いいのかな……だって、この子、いくら可愛いっても男なのに……――
手紙の中身は、おそらく野々村の気持ちを告白したものの筈で。
それに対し天王寺が何と答えるかを知っているのは、当人を除けば一樹だけだ。
先程覚えた反感めいたものも忘れ、一樹は野々村のことが心配になる。
――自分と同じ男にコクハクするってだけでも大変なことなのに……その上、操の答えなんか聞いたら……――
と、ハラハラする一樹ほど明確ではないにしろ、周りの委員たちも何となく事の次第を感じ取ったようで、彼らのいる一角に張り詰めた空気が漂う。
そんな中で一人だけ普段と変わらない様子の天王寺が、淡々と答えた。
「悪いが、君の気持ちには応えられない」
その言葉に、野々村は一瞬だけ黒目がちで大きな瞳を更に大きく見開く。そしてすぐに俯いた。
伏せられた睫毛が見る間に涙に濡れ、滴がポタポタと床に落ちる。
まるで映画のワンシーンのようなその様に、一樹たちはただ黙って成り行きを見守るしかなかった。
嗚咽を漏らし始めた野々村に、天王寺がハンカチを差し出す。
「君はとても魅力的だから、相応しい人がきっと現れるよ。それは僕ではなかったけれど……泣かないで」
ハンカチを受け取って、野々村が涙を拭いた。
嗚咽の治まった彼が無言でハンカチを返そうとすると、天王寺が言う。
「それは君にあげる」
――えっ!?――
ハッとして一樹が天王寺を見た。
天王寺は、野々村を優しげな顔で見ている。
ハンカチを両手で固く握り締めて天王寺を見つめ返す野々村の瞳に、先刻よりも大粒の涙が盛り上がった。
「ありがとう…ございます」
一樹と天王寺が特別の関係にあることを、ここにいる者たちは誰も知らない。
当事者である二人以外は。
だから天王寺は特定の相手を作る気がないのだと、皆思っている。
果たして、野々村の思いにも応えられないと彼はきっぱりと断った。
ところが。
相手が泣き出してしまったからとはいえ、天王寺は野々村を優しい言葉で慰め更に自分のハンカチまで与えたのだ。
彼のそんな言動は、野々村に期待する気持ちを残させるのではないかと、一樹は危惧した。
冷たく突き離しておいて、なのに優しい態度を取る。
それはかえって野々村には残酷なことではないのだろうか。
応えられないのなら、言葉だけでなく態度でも、きっぱりと突き放してしまった方が良いのではないかと、一樹は思う。
その方が、今は辛くても早く立ち直れる筈だ。
一樹は天王寺の態度に反感を持った。
しかし、彼がそういう男だということを、一樹はよく知ってもいる。
*この続きは製品版でお楽しみください。
天王寺、一樹、そして学生総会の委員数人は、学生会館にあるティールームで雑談していた。
そこに、一人の学生が近寄って来た。
法学部の一年生である彼を、電子工学部二年の一樹も名前と顔だけは知っていた。何故なら彼は非常に綺麗な容姿をしていて、あるファッション誌が主催した美少年コンテストに入賞したこともあり、学生たちの間で話題にされることが多かったからである。名前は野々村拓人といった。
まだ少年らしさの残る頬を上気させ、思い詰めたような表情で真っ直ぐに天王寺を見つめると、野々村は口を開いた。
「あの……天王寺先輩」
遠慮がちにかけられたその声や、おとなしそうな顔つきが野々村を気弱な性格に見せている。しかしその実、法学部の学生である彼が他学部の者に比べ、天王寺を先輩と呼ぶ権利をより多く持っているのだと周囲に向かって誇示しているように、一樹には思えた。
「ん……? 何?」
天王寺が野々村を見る。
その表情は柔らかくまなざしは優しげだが、天王寺が何を考えているのか周りの者には分からない。
彼が穏やかな表情を崩すことは、まずない。常に優しそうな顔をしているが、いつでもそうなのだから、言ってみれば無表情なのと変わりはないのだ。
言葉を待つ天王寺の前で、野々村が口を開いた。
「僕の手紙……読んでもらえましたよね?」
その言葉にも、一樹は心の底で密かに反応する。
――よね? だって……――
『読んでくれましたか?』とか『読んでもらえました?』という疑問形ではなく、わざわざ語尾で念を押している辺りに、自分の手紙を天王寺が読まない筈はないという自信が滲んでいる気がするのだ。
そんなことを思いながら見守る一樹や他の委員たちの前で、天王寺が軽く頷いた。
「うん」
表情を変えずに一言だけ返した彼を、野々村が真剣な目で見つめる。
「返事、聞かせて下さい」
その言葉で、一樹には彼の手紙の内容が想像できてしまった。
「今、ここで?」
問い返した天王寺に、野々村が頷く。
「はい、ここで、聞かせて下さい」
――い、いいのかな……だって、この子、いくら可愛いっても男なのに……――
手紙の中身は、おそらく野々村の気持ちを告白したものの筈で。
それに対し天王寺が何と答えるかを知っているのは、当人を除けば一樹だけだ。
先程覚えた反感めいたものも忘れ、一樹は野々村のことが心配になる。
――自分と同じ男にコクハクするってだけでも大変なことなのに……その上、操の答えなんか聞いたら……――
と、ハラハラする一樹ほど明確ではないにしろ、周りの委員たちも何となく事の次第を感じ取ったようで、彼らのいる一角に張り詰めた空気が漂う。
そんな中で一人だけ普段と変わらない様子の天王寺が、淡々と答えた。
「悪いが、君の気持ちには応えられない」
その言葉に、野々村は一瞬だけ黒目がちで大きな瞳を更に大きく見開く。そしてすぐに俯いた。
伏せられた睫毛が見る間に涙に濡れ、滴がポタポタと床に落ちる。
まるで映画のワンシーンのようなその様に、一樹たちはただ黙って成り行きを見守るしかなかった。
嗚咽を漏らし始めた野々村に、天王寺がハンカチを差し出す。
「君はとても魅力的だから、相応しい人がきっと現れるよ。それは僕ではなかったけれど……泣かないで」
ハンカチを受け取って、野々村が涙を拭いた。
嗚咽の治まった彼が無言でハンカチを返そうとすると、天王寺が言う。
「それは君にあげる」
――えっ!?――
ハッとして一樹が天王寺を見た。
天王寺は、野々村を優しげな顔で見ている。
ハンカチを両手で固く握り締めて天王寺を見つめ返す野々村の瞳に、先刻よりも大粒の涙が盛り上がった。
「ありがとう…ございます」
一樹と天王寺が特別の関係にあることを、ここにいる者たちは誰も知らない。
当事者である二人以外は。
だから天王寺は特定の相手を作る気がないのだと、皆思っている。
果たして、野々村の思いにも応えられないと彼はきっぱりと断った。
ところが。
相手が泣き出してしまったからとはいえ、天王寺は野々村を優しい言葉で慰め更に自分のハンカチまで与えたのだ。
彼のそんな言動は、野々村に期待する気持ちを残させるのではないかと、一樹は危惧した。
冷たく突き離しておいて、なのに優しい態度を取る。
それはかえって野々村には残酷なことではないのだろうか。
応えられないのなら、言葉だけでなく態度でも、きっぱりと突き放してしまった方が良いのではないかと、一樹は思う。
その方が、今は辛くても早く立ち直れる筈だ。
一樹は天王寺の態度に反感を持った。
しかし、彼がそういう男だということを、一樹はよく知ってもいる。
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