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やれる時にやっておけ

やれる時にやっておけ

著: 樹生かなめ 画: 北畠あけ乃
発行: 大洋図書
レーベル: SHY NOVELS
価格:893円(税込)
10ポイント還元
形式:MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆8
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解説

 三浦病院の不良息子・智己は病院に出入りする葬儀屋兄弟を嫌っていた。なぜなら、社長の悠一を筆頭に美形揃いの兄弟は、その美貌で看護師をたぶらかしては仕事を取っていたからだ。しかし、悠一の祖父が経営する老人ホームへ智己と仲がよい老人が移ったことをきっかけに、ふたりは急接近することに!? 「歳をとってからじゃ遅いんだ」と格言する老人がキューピッドになり、奥手な悠一と短気な智己を結びつける心温まるラブ・コメディー。

※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。

抄録

 タクシーに乗り込んで、運転手に行き先を告げる。
 今時の若者を体現しているような智巳の目的地に、白髪頭の運転手は驚いているようだが何も言わない。車中、お天気の話もしなかった。
 三十分ほどで高い塀に囲まれている星山老人ホームの前に辿り着く。礼を言ってからタクシーを降りた。
 面会を遮るように門がきっちりと閉じられているので、智巳は戸惑う。老人が勝手に中から外に出ないために閉じているのだろうか、智巳には判断ができない。ただ、ここで立ち往生していても仕方がない。
「智巳くん」
 空耳ではない。振り向くと、白いシーマの運転席から悠一《ゆういち》が出てくる。智巳は神出鬼没の悠一に顎《あご》を外しかけた。
「どうして、こんなところに?」
「上田《うえだ》先生から辰之助さんのことを聞いたんだ。絶対に智巳くんはここに来るだろうと思った」
 地味な色のスーツに身を包んだ悠一は、売るほどある男性フェロモンを発散させながら、目前にある老人ホームを指で差した。
「俺、キサマは嫌いだけど、今のところ、オヤジに柘植《つげ》セレモニーの出入り禁止を言うつもりはないから」
 院長の息子である自分の機嫌を取ろうとする業者の目的は明確だ。智巳は溜め息をつきながら、近寄ってくる悠一に言った。
「優しい智巳くん、いつの間にそんなに性格が歪んだのかな。どうして、すべて仕事に結びつけるの?」
 いけしゃあしゃあと語る悠一に、嫌悪感が込み上げてくる。色男面にカウンターを繰りだしたくなるけれども、智巳は持てる理性を総動員してぐっと堪えた。
「頼むから、何も喋らないでくれ」
「目と目で語り合うの?」
「だから、喋るな」
「辰之助さん、ここにはいないよ」
 悠一は女性を魅了する微笑を浮かべながらあっさりと言う。智巳は驚愕で長い睫毛《まつげ》に縁取られた目を大きく見開いた。
「……え? ど、どこに行ったんだ?」
 勢いあまってというか、智巳は悠一の襟首を掴みながら尋ねる。身長の差は十センチ、智巳が悠一の美貌を見上げる形だ。
「キスして」
 にっこりと微笑みながら、悠一が顔を近付けてくる。
 一瞬、智巳は何を言われたのかわからなかった。
「……は?」
「キスしてくれたら、辰之助さんがどこに行ったのか教えてあげる」
 男性フェロモンを辺りに撒き散らしている色男は、途方もないことを言いだす。智巳は鬼のような形相で固く握った右の拳を悠一に向けた。
「ふざけるなっ」
 智巳の先制攻撃を悠一が躱《かわ》す。
「……っと、暴力反対。言っとくけど、智巳くんより棺桶を担いでいる俺のほうが力はあるよ」
 棺桶を引き合いに出すところが葬儀屋の葬儀屋たる所以だ。一人称も僕から俺に変わった。どうやら、こちらが地の悠一らしい。
「俺、冗談を聞く余裕がないんだ。そういうのは看護師相手にやれーっ」
 智巳は母親譲りの女顔を醜悪なまでに歪めながら、腹の底から怒鳴った。
「冗談じゃないんだけど」
 悠一は目を細めながら手を振っている。
「俺にホストみたいな色恋営業は無駄だっていうか、無用だっ」
「そんなに怒らなくても」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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