和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>幼馴染
解説
「いつか必ず迎えに来るから、向こうで一緒に暮らそう」
そう言って島から去った幼馴染の成明を信じ、東京に来た湊だったが、成明は劇団と仕事で忙しく、冷たかった。それでも、成明が酔って帰った日に結ばれ、喜ぶ湊だった。しかし、実は成明には好きな女がいて、その代わりに抱かれたことを知り、ショックを受ける。そんなとき、湊に俳優になることを勧めるプロデューサー・柏木が現れて……!? クールで強引な成明と、素直で従順な湊が、東京で繰り広げる、切なく擦れ違う恋物語。
※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。
そう言って島から去った幼馴染の成明を信じ、東京に来た湊だったが、成明は劇団と仕事で忙しく、冷たかった。それでも、成明が酔って帰った日に結ばれ、喜ぶ湊だった。しかし、実は成明には好きな女がいて、その代わりに抱かれたことを知り、ショックを受ける。そんなとき、湊に俳優になることを勧めるプロデューサー・柏木が現れて……!? クールで強引な成明と、素直で従順な湊が、東京で繰り広げる、切なく擦れ違う恋物語。
※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。
抄録
「なんか悪いな、毎日」
成明は炊き立ての飯を口に運びながら言った。居候になってしまっているのを気にかけているらしい男は首を振る。
「いいよ、俺もなにか役に立ちたいし」
二人の生活もけして悪くはないのだと思う。
姿勢よく正座して座り、箸を動かしている男の顔を見る。同居を始めて十日ばかり。気になってはいるが、聞かないでいることが成明にはあった。
湊は自分をどう思っているのか。
その感情を覚えたのは自分のほうがずっと先だった。
成明が湊に特別な感情を覚えたのは、十四歳のときだ。
中学二年生の夏休み、成明は湊に触れたいと思った。島民も釣り客もあまり近づかない、島の集落とは裏手の海岸。砂浜と呼ぶにはあまりに短い、ざらついた石や岩だらけの場所で、短い夏を謳歌して泳いでいるときだった。
日に焼けてもあまり黒くはならない湊の肌。黒子の位置も覚えるほど見慣れているのに、何故かその日は目に焼きつくみたいに感じられた。水をかいてゆらゆらする、白くて伸びやかな長い手足。海面は太陽の光にきらきらと細かく輝き、何度も自分のほうを振り返って見せる湊の笑顔もまた眩しく映っていた。
成明は海から上がろうとしたその体を手繰り寄せ、キスをした。
湊の唇は少ししょっぱかった。驚いた顔をしていたけれど、突っ撥ねようとはしなかったから、成明は何度か押しつけてみた。
帰り道は、言葉少なだった。ほとんど車も走らない、島を一周する海岸沿いの道を二人は黙ってのろのろと歩いた。
ただ唇を押しつけ合うだけの行為。どうしてそんなことがしたくなったのか、どうして気まずくなってしまうのかも判らなかったけれど、後悔はしていなかった。
「……キス、だよね」
暮れていく日の光の中で、少し前方を歩く湊がぽつりと言った。成明はどう返したらいいのか判らず、『うん、そうだな』とだけ応えた。
太陽がとぷりと海中に沈む瞬間まで、夕日に包まれた幼馴染みの背中を見ていた。栗色の髪や項、覗いて見える小さな耳まで橙色に染まり、海風に吹かれているのをじっと見つめながら歩いた。
それから、夏の間に何度も人目を忍んでキスをした。キスはいつの間にか二人の間では普通の行いになっていて、新学期が始まる頃には湊からしてくるようにもなった。校舎の陰や、家族のいない部屋、海鳥が巣立った後の二人だけの遊び場の岩場で。いつからか、ただ押しつけ合うだけのキスでは物足りなくなり、成明は舌で湊の唇を抉じ開けるようになった。
「変な感じがする」
湊はそう言って最初は嫌がっていたけれど、成明が『したい』と言えば、歯を食いしばるのはやめて迎え入れた。湊はいつもそうだ。自分には逆らわない。
湊の中は温かかった。柔らかくて濡れていて、なにもかも知っているとばかり思っていた幼馴染みの知らない場所に成明は夢中になった。
もっと触れたいと思った。頬や唇や、口の中だけじゃなく、もっともっと。口づけの合間に体を探った。欲求に底などなくて、おぼろげに理解している性の知識は、自分が男である湊になにを求めているのかを知らしめ始めた。
秋は駆け足で過ぎ、長い冬が来て、遅い春を迎える。
再び夏が来た、十五歳。七月の終わりで、明日から夏休みに入るその日は終業式だった。午前中で学校は終わったけれど、家では兄たちになにかと面倒を押しつけられる成明は早く帰るのを嫌がり、校内の片隅で湊とだらだらと過ごしていた。
全校生徒合わせても二十一人の学校。子供たちの声を失った古い校舎は静けさに包まれていて、小さなグラウンドは太陽に照らされ白く発光する盆のようだった。二人がこっそり入り込んだのは二階の資料室という名の物置。アメリカ大陸が歪んで陥没した地球儀やら、いつのものか判らない曇ったトロフィーやらが詰め込まれていた。
最初はただ話をしていただけだった。それから途切れた会話の代わりにキスをして、欲する気持ちは膨れ上がるばかりで、止まらなかった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
成明は炊き立ての飯を口に運びながら言った。居候になってしまっているのを気にかけているらしい男は首を振る。
「いいよ、俺もなにか役に立ちたいし」
二人の生活もけして悪くはないのだと思う。
姿勢よく正座して座り、箸を動かしている男の顔を見る。同居を始めて十日ばかり。気になってはいるが、聞かないでいることが成明にはあった。
湊は自分をどう思っているのか。
その感情を覚えたのは自分のほうがずっと先だった。
成明が湊に特別な感情を覚えたのは、十四歳のときだ。
中学二年生の夏休み、成明は湊に触れたいと思った。島民も釣り客もあまり近づかない、島の集落とは裏手の海岸。砂浜と呼ぶにはあまりに短い、ざらついた石や岩だらけの場所で、短い夏を謳歌して泳いでいるときだった。
日に焼けてもあまり黒くはならない湊の肌。黒子の位置も覚えるほど見慣れているのに、何故かその日は目に焼きつくみたいに感じられた。水をかいてゆらゆらする、白くて伸びやかな長い手足。海面は太陽の光にきらきらと細かく輝き、何度も自分のほうを振り返って見せる湊の笑顔もまた眩しく映っていた。
成明は海から上がろうとしたその体を手繰り寄せ、キスをした。
湊の唇は少ししょっぱかった。驚いた顔をしていたけれど、突っ撥ねようとはしなかったから、成明は何度か押しつけてみた。
帰り道は、言葉少なだった。ほとんど車も走らない、島を一周する海岸沿いの道を二人は黙ってのろのろと歩いた。
ただ唇を押しつけ合うだけの行為。どうしてそんなことがしたくなったのか、どうして気まずくなってしまうのかも判らなかったけれど、後悔はしていなかった。
「……キス、だよね」
暮れていく日の光の中で、少し前方を歩く湊がぽつりと言った。成明はどう返したらいいのか判らず、『うん、そうだな』とだけ応えた。
太陽がとぷりと海中に沈む瞬間まで、夕日に包まれた幼馴染みの背中を見ていた。栗色の髪や項、覗いて見える小さな耳まで橙色に染まり、海風に吹かれているのをじっと見つめながら歩いた。
それから、夏の間に何度も人目を忍んでキスをした。キスはいつの間にか二人の間では普通の行いになっていて、新学期が始まる頃には湊からしてくるようにもなった。校舎の陰や、家族のいない部屋、海鳥が巣立った後の二人だけの遊び場の岩場で。いつからか、ただ押しつけ合うだけのキスでは物足りなくなり、成明は舌で湊の唇を抉じ開けるようになった。
「変な感じがする」
湊はそう言って最初は嫌がっていたけれど、成明が『したい』と言えば、歯を食いしばるのはやめて迎え入れた。湊はいつもそうだ。自分には逆らわない。
湊の中は温かかった。柔らかくて濡れていて、なにもかも知っているとばかり思っていた幼馴染みの知らない場所に成明は夢中になった。
もっと触れたいと思った。頬や唇や、口の中だけじゃなく、もっともっと。口づけの合間に体を探った。欲求に底などなくて、おぼろげに理解している性の知識は、自分が男である湊になにを求めているのかを知らしめ始めた。
秋は駆け足で過ぎ、長い冬が来て、遅い春を迎える。
再び夏が来た、十五歳。七月の終わりで、明日から夏休みに入るその日は終業式だった。午前中で学校は終わったけれど、家では兄たちになにかと面倒を押しつけられる成明は早く帰るのを嫌がり、校内の片隅で湊とだらだらと過ごしていた。
全校生徒合わせても二十一人の学校。子供たちの声を失った古い校舎は静けさに包まれていて、小さなグラウンドは太陽に照らされ白く発光する盆のようだった。二人がこっそり入り込んだのは二階の資料室という名の物置。アメリカ大陸が歪んで陥没した地球儀やら、いつのものか判らない曇ったトロフィーやらが詰め込まれていた。
最初はただ話をしていただけだった。それから途切れた会話の代わりにキスをして、欲する気持ちは膨れ上がるばかりで、止まらなかった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
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