和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>花嫁
解説
「私の宮殿で私に逆らうな」仕事のためイギリスにむかった朋之だが、目覚めるとそこは砂漠の宮殿だった。そして、そこにはひとりの男がいた。次期マディナの国王であり、かつて朋之を裏切った男、アスィールだ。拉致同然に宮殿に閉じ込められ反発する朋之だったが、身体はくちづけひとつで蕩けてしまう。もうすぐ結婚してしまうくせに、なぜ? 傲慢な支配者として振る舞うアスィールに翻弄される朋之だったが……!?
※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。
※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。
目次
永遠の愛を、我が花嫁に
楽園
楽園
抄録
『MR.MAKABE?』
声をかけてきた男はロレンスと名乗り、社員証を見せてきたので朋之は彼に従い空港を出た。――けれど、迎えの車がリムジンだった時点で、乗るべきではなかったのだ。
変だと思いつつも、朋之は礼儀正しいロレンスに勧められるまま車中に身を滑らせた。まさかそこに思いもよらない男が待っているとは知らず。
『久しぶりだな』
シャンパングラス片手に、ほほ笑んだ男。
朋之は俄《にわか》には信じられずに、言葉もなく双眸を見開いた。
『なにも言ってくれないのか』
『――――』
『六年ぶりだというのに』
驚愕し、混乱する朋之をまっすぐに見つめてくる男の視線に肌が粟立《あわだ》つ。名を呼んだが、声にはならなかった。
どうしてと、唇だけで問いかける。
『ファリダット。約束どおり、迎えに来たよ』
艶然とほほ笑みを浮かべる面差しから目がそらせなかった。
腕を掴まれ、引き寄せられた。近づいてきた唇に、ようやく我に返って身を捩ったときにはすでに手遅れだった。
ハンカチで口許を押さえられ、男の重みでシートに縫いとめられる。逃れようともがいたが、それもわずかな間だった。
目の前が霞み、まもなく意識が混濁し、朋之はそこでブラックアウトした。
あれから、どれくらいの時間がたったのかわからない。目が覚めてみれば商談で訪れたはずのイギリスではなく、砂漠のオアシスにいた。瞬間移動してしまったかのように。
だが、朋之はここがどこか知っていた。テレビで何度か目にしたことがあるからだ。リドワーン首長国連邦でもっとも豊かな国――この場合の豊かとは風土も国家の財政も含まれる――マディナのオアシス、サーリア。
世界有数の観光地でもあるマディナはメディアでよく紹介されるので、誰しも一度はサーリアの景色を見た記憶があるといっても過言ではない。
「そうしていると、少しも変わってないな」
背後から声がして、反射的に振り返った。いつからそこに立っていたのか、朋之をここまで連れてきた張本人が、開け放たれたドアのリンテルに手をかけてこちらを見ていた。
「……アスィール」
ようやく名前を口にした朋之に、アスィールが精悍な双眸を細める。ドアから一歩足を踏み出し、朋之へ歩み寄ってきた。
少し離れた場所に立ち、頭の天辺から爪先まで視線を這わされる。いたたまれず思わず後退りすれば、すかさず腕を捕らえられた。
「ようこそ、我が国マディナへ」
平然と告げられ、反射的に朋之はアスィールの手を振り払う。好きで来たわけではない。それ以前にどうしてこんなことになったのか、アスィールの意図がわからなかった。
「あまり顔色がよくないな。気分は?」
「最悪」
吐き捨てるように言い放ち、唇を引き結ぶ。朋之にしてみれば、いまさらという思いでいっぱいだった。
アスィールが眉をひそめる。
「薬が残っているのか」
顎をとられ、間近で凝視されて平静でいられるはずがない。
褐色の髪と、蜂蜜色の肌と瞳。エキゾチックな顔立ちは怜悧《れいり》な印象を与えるほど端整だ。切れ長の目で見つめられて、朋之は必死でアスィールを睨みつけた。
昔から気高いまでに美しい男だったが、朋之の知る頃のアスィールよりも大人になったぶん威厳が増し、対峙しているだけで背筋が震えるほどだ。
シャツとトラウザーズというラフな服装なのに、これほど気品を感じさせる男は他にいない。
人形のように整った造作の中で唯一情熱的な印象を与える唇が、十数センチ高い位置から朋之の名を呼んだ。
「ドクターの処方だから、あとを引かないはずだが」
朋之の体調を心配していると言わんばかりの表情を見せられ、気持ちが揺らぐ。動揺をしていると知られたくなくて、朋之はアスィールから視線を外した。
「――いきなりこんな目に遭わなきゃいけなかった理由を聞かせてほしい」
可能な限り素っ気なく問う。実際は、足元から頽《くずお》れそうだとしても。
なんの説明もなく意識を奪い、マディナに連れてきた理由を聞きたい。納得できる言い訳が聞けるとも思っていないが。
「理由?」
アスィールはなんの躊躇《ためら》いもなく答えを口にのぼらせる。
「理由は言ったはずだ。約束どおり、と」
約束という言葉に、伏せた睫毛が震えた。
「約束? なんのことだか」
感情的にならないように精一杯努力する。
大丈夫だ。冷静に返答できている。
なにを思い描いてか、アスィールは口許だけでくすりと笑った。
「そう言うだろうと思っていた。だからやむなく強行した。朋之は昔から一度決めたら、がんとして寄せつけないところがあったから」
*この続きは製品版でお楽しみください。
声をかけてきた男はロレンスと名乗り、社員証を見せてきたので朋之は彼に従い空港を出た。――けれど、迎えの車がリムジンだった時点で、乗るべきではなかったのだ。
変だと思いつつも、朋之は礼儀正しいロレンスに勧められるまま車中に身を滑らせた。まさかそこに思いもよらない男が待っているとは知らず。
『久しぶりだな』
シャンパングラス片手に、ほほ笑んだ男。
朋之は俄《にわか》には信じられずに、言葉もなく双眸を見開いた。
『なにも言ってくれないのか』
『――――』
『六年ぶりだというのに』
驚愕し、混乱する朋之をまっすぐに見つめてくる男の視線に肌が粟立《あわだ》つ。名を呼んだが、声にはならなかった。
どうしてと、唇だけで問いかける。
『ファリダット。約束どおり、迎えに来たよ』
艶然とほほ笑みを浮かべる面差しから目がそらせなかった。
腕を掴まれ、引き寄せられた。近づいてきた唇に、ようやく我に返って身を捩ったときにはすでに手遅れだった。
ハンカチで口許を押さえられ、男の重みでシートに縫いとめられる。逃れようともがいたが、それもわずかな間だった。
目の前が霞み、まもなく意識が混濁し、朋之はそこでブラックアウトした。
あれから、どれくらいの時間がたったのかわからない。目が覚めてみれば商談で訪れたはずのイギリスではなく、砂漠のオアシスにいた。瞬間移動してしまったかのように。
だが、朋之はここがどこか知っていた。テレビで何度か目にしたことがあるからだ。リドワーン首長国連邦でもっとも豊かな国――この場合の豊かとは風土も国家の財政も含まれる――マディナのオアシス、サーリア。
世界有数の観光地でもあるマディナはメディアでよく紹介されるので、誰しも一度はサーリアの景色を見た記憶があるといっても過言ではない。
「そうしていると、少しも変わってないな」
背後から声がして、反射的に振り返った。いつからそこに立っていたのか、朋之をここまで連れてきた張本人が、開け放たれたドアのリンテルに手をかけてこちらを見ていた。
「……アスィール」
ようやく名前を口にした朋之に、アスィールが精悍な双眸を細める。ドアから一歩足を踏み出し、朋之へ歩み寄ってきた。
少し離れた場所に立ち、頭の天辺から爪先まで視線を這わされる。いたたまれず思わず後退りすれば、すかさず腕を捕らえられた。
「ようこそ、我が国マディナへ」
平然と告げられ、反射的に朋之はアスィールの手を振り払う。好きで来たわけではない。それ以前にどうしてこんなことになったのか、アスィールの意図がわからなかった。
「あまり顔色がよくないな。気分は?」
「最悪」
吐き捨てるように言い放ち、唇を引き結ぶ。朋之にしてみれば、いまさらという思いでいっぱいだった。
アスィールが眉をひそめる。
「薬が残っているのか」
顎をとられ、間近で凝視されて平静でいられるはずがない。
褐色の髪と、蜂蜜色の肌と瞳。エキゾチックな顔立ちは怜悧《れいり》な印象を与えるほど端整だ。切れ長の目で見つめられて、朋之は必死でアスィールを睨みつけた。
昔から気高いまでに美しい男だったが、朋之の知る頃のアスィールよりも大人になったぶん威厳が増し、対峙しているだけで背筋が震えるほどだ。
シャツとトラウザーズというラフな服装なのに、これほど気品を感じさせる男は他にいない。
人形のように整った造作の中で唯一情熱的な印象を与える唇が、十数センチ高い位置から朋之の名を呼んだ。
「ドクターの処方だから、あとを引かないはずだが」
朋之の体調を心配していると言わんばかりの表情を見せられ、気持ちが揺らぐ。動揺をしていると知られたくなくて、朋之はアスィールから視線を外した。
「――いきなりこんな目に遭わなきゃいけなかった理由を聞かせてほしい」
可能な限り素っ気なく問う。実際は、足元から頽《くずお》れそうだとしても。
なんの説明もなく意識を奪い、マディナに連れてきた理由を聞きたい。納得できる言い訳が聞けるとも思っていないが。
「理由?」
アスィールはなんの躊躇《ためら》いもなく答えを口にのぼらせる。
「理由は言ったはずだ。約束どおり、と」
約束という言葉に、伏せた睫毛が震えた。
「約束? なんのことだか」
感情的にならないように精一杯努力する。
大丈夫だ。冷静に返答できている。
なにを思い描いてか、アスィールは口許だけでくすりと笑った。
「そう言うだろうと思っていた。だからやむなく強行した。朋之は昔から一度決めたら、がんとして寄せつけないところがあったから」
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