和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>花嫁
著者プロフィール
遠野 春日(とおの はるひ)
2月5日生まれの水瓶座。出身地は西方、東京都在住。血液型は「調べてないけどO型のはず」。趣味は舞台鑑賞、習い事はヨガと英会話。おもな著作に<茅島氏>シリーズ、<情熱>シリーズ、<貴族>シリーズ、<金曜紳士倶楽部>シリーズ他がある。月刊体制といえるほどの執筆をこなしながら、さらに同人誌活動も行うなど、精力的な活躍を続ける人気作家。
2月5日生まれの水瓶座。出身地は西方、東京都在住。血液型は「調べてないけどO型のはず」。趣味は舞台鑑賞、習い事はヨガと英会話。おもな著作に<茅島氏>シリーズ、<情熱>シリーズ、<貴族>シリーズ、<金曜紳士倶楽部>シリーズ他がある。月刊体制といえるほどの執筆をこなしながら、さらに同人誌活動も行うなど、精力的な活躍を続ける人気作家。
解説
“……きみは私と結婚し、私の妻になるのだ。”
倉光子爵の庶子として生まれた伊深彩人は、避暑に訪れていた別荘の窓越しにひとりの美しい男と出逢った。言葉もなく、窓越しにみつめあったふたり。それが、運命を狂わせることになるなど、そのときの彩人には知る由もなく……。夏も終わったある日、彩人は父である倉光子爵の命令により、興津伯爵家の次男・孝雅の婚約者のふりをすることになる。男の身である自分をなぜ孝雅は婚約者として扱うのか? 疑問に思いつつも、ひとときのことと覚悟した彩人だが、真意のわからない孝雅に惹かれながらも翻弄されて……。
※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。
倉光子爵の庶子として生まれた伊深彩人は、避暑に訪れていた別荘の窓越しにひとりの美しい男と出逢った。言葉もなく、窓越しにみつめあったふたり。それが、運命を狂わせることになるなど、そのときの彩人には知る由もなく……。夏も終わったある日、彩人は父である倉光子爵の命令により、興津伯爵家の次男・孝雅の婚約者のふりをすることになる。男の身である自分をなぜ孝雅は婚約者として扱うのか? 疑問に思いつつも、ひとときのことと覚悟した彩人だが、真意のわからない孝雅に惹かれながらも翻弄されて……。
※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。
抄録
「上がったか」
てっきり誰もいないと思い込んでいた彩人は、いきなり声をかけられ、驚いてタオルを取り落としてしまった。
「孝雅さま……!」
天蓋付きの寝台の傍に据えられた安楽椅子に孝雅がいる。
「本当にゆっくりしていたのだな。湯あたりしなかったか」
どうやら孝雅は少し前からここにいたようだ。手持ち無沙汰に開いていたらしい大判の書物をぱたりと閉じると、横合いにあるティーテーブルの上に載せ、やおら立ち上がる。普段から洋装中心の孝雅は夜着もやはり同様で、寝間着の上に繻子《しゅす》織りのドレッシング・ガウンを重ねていた。
落ちたタオルを拾って顔を上げた彩人は、すぐ目の前まで来ていた孝雅にぎょっとして半歩後退った。反射的に体が動いたのだ。
「疲れは取れたか?」
さらに一歩詰め寄ってきて、孝雅は彩人の体に両腕を回してきた。
「は……はい……」
今度は素直に、彩人は孝雅の胸に抱き込まれた。
お互い薄地の夜着を着けただけで身を寄せ合うのは初めてだ。
今まで三つ揃いを着た姿や、挙式の際に召していた特別な装いの孝雅しか知らなかった彩人は、孝雅が思っていた以上に筋肉質のしなやかな体つきをしており意外だった。
体温と心臓の鼓動、そして仄《ほの》かな香水を五感で感じ、彩人はこれまでになく孝雅の存在を強く意識した。
「いい香りがする」
彩人の湿った髪に顔を寄せ、孝雅は深く息を吸い込み、言った。
どうしていればいいのかわからず、彩人は孝雅に抱擁されたまま体を硬くしたきりだ。気の利いた返事など、とてもままならない。
「ベッドに行く前にもう少し寝酒を飲むか?」
「あ、いえ、わたしは」
祝い事でもない限りお酒を嗜む習慣のない彩人は小さく首を振った。
「よろしければわたしは先に休ませていただきますので、孝雅さまはお酒をお召しになられては」
まだ八時前という時刻だ。孝雅が起きていたいのならば早寝に付き合ってくれる必要はないと気を利かせたつもりで、彩人は言った。
「きみは私を避けたくて仕方ないみたいだな。だが、だめだ。初夜の務めは果たしてもらう」
「……えっ……?」
彩人は自分の耳に自信が持てず、孝雅を見た。
普段となんら変わらぬ取り澄ました表情を浮かべた孝雅と目が合う。
「あ、あの」
孝雅と視線を交わした途端、聞き間違いではないとわかり、彩人は狼狽えた。まさか、本当に花嫁として迎えられたのだとは、今の今まで思いもしなかった。外で夫婦の振りをするのが自分に課せられた役目だと信じ込んでいたのだ。
「こ……困ります。できません、そんなこと……」
*この続きは製品版でお楽しみください。
てっきり誰もいないと思い込んでいた彩人は、いきなり声をかけられ、驚いてタオルを取り落としてしまった。
「孝雅さま……!」
天蓋付きの寝台の傍に据えられた安楽椅子に孝雅がいる。
「本当にゆっくりしていたのだな。湯あたりしなかったか」
どうやら孝雅は少し前からここにいたようだ。手持ち無沙汰に開いていたらしい大判の書物をぱたりと閉じると、横合いにあるティーテーブルの上に載せ、やおら立ち上がる。普段から洋装中心の孝雅は夜着もやはり同様で、寝間着の上に繻子《しゅす》織りのドレッシング・ガウンを重ねていた。
落ちたタオルを拾って顔を上げた彩人は、すぐ目の前まで来ていた孝雅にぎょっとして半歩後退った。反射的に体が動いたのだ。
「疲れは取れたか?」
さらに一歩詰め寄ってきて、孝雅は彩人の体に両腕を回してきた。
「は……はい……」
今度は素直に、彩人は孝雅の胸に抱き込まれた。
お互い薄地の夜着を着けただけで身を寄せ合うのは初めてだ。
今まで三つ揃いを着た姿や、挙式の際に召していた特別な装いの孝雅しか知らなかった彩人は、孝雅が思っていた以上に筋肉質のしなやかな体つきをしており意外だった。
体温と心臓の鼓動、そして仄《ほの》かな香水を五感で感じ、彩人はこれまでになく孝雅の存在を強く意識した。
「いい香りがする」
彩人の湿った髪に顔を寄せ、孝雅は深く息を吸い込み、言った。
どうしていればいいのかわからず、彩人は孝雅に抱擁されたまま体を硬くしたきりだ。気の利いた返事など、とてもままならない。
「ベッドに行く前にもう少し寝酒を飲むか?」
「あ、いえ、わたしは」
祝い事でもない限りお酒を嗜む習慣のない彩人は小さく首を振った。
「よろしければわたしは先に休ませていただきますので、孝雅さまはお酒をお召しになられては」
まだ八時前という時刻だ。孝雅が起きていたいのならば早寝に付き合ってくれる必要はないと気を利かせたつもりで、彩人は言った。
「きみは私を避けたくて仕方ないみたいだな。だが、だめだ。初夜の務めは果たしてもらう」
「……えっ……?」
彩人は自分の耳に自信が持てず、孝雅を見た。
普段となんら変わらぬ取り澄ました表情を浮かべた孝雅と目が合う。
「あ、あの」
孝雅と視線を交わした途端、聞き間違いではないとわかり、彩人は狼狽えた。まさか、本当に花嫁として迎えられたのだとは、今の今まで思いもしなかった。外で夫婦の振りをするのが自分に課せられた役目だと信じ込んでいたのだ。
「こ……困ります。できません、そんなこと……」
*この続きは製品版でお楽しみください。
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