マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションボーイズラブ小説花嫁

姫君の輿入れ

姫君の輿入れ

著: 和泉桂 画: 佐々成美
発行: 大洋図書
レーベル: SHY NOVELS シリーズ: 姫君の輿入れ
価格:893円(税込)
10ポイント還元
形式:MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆7
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


解説

「私のためだけに咲き、私のためだけに散ればいい」
 今を時めく左大臣の一の姫にして、帝に入内を心待ちにされている姫・狭霧には、誰にも知られてはいけない秘密があった。それは、実は男子であるということ……。狭霧はとある事情により、男でありながら生まれたときから姫として育てられていたのだ。そんなある日、光源氏に喩えられる遊び人で、父の政敵でもある宰相中将・源実親が、狭霧の許に突然現れて!? 貴公子と少年、平安の華麗なる婚礼奇譚、登場!!

※ 電子版には挿絵は収録されておりません。ご了承ください。

目次

一、雪の下
二、莟紅梅
三、若草
四、薄花桜
五、若菖蒲
六、藤
七、花橘
八、撫子
九、夏萩
十、花薄
十一、女郎花
十二、龍膽
十三、忍
十四、比翼

抄録

「初めてお目にかかります、狭霧の君」
 改めて耳にする男の声は、ひどく蠱惑的《こわきてき》だった。
 音が触れた鼓膜から溶けていくような気がして、未知の感覚に狭霧は動揺した。
「このような時間に、一体何のご用ですか」
 どう対応すればいいのか迷いつつも、狭霧は厳しい声で問うた。ここで不用意なことをすれば、父や兄に迷惑がかかる。家族に災いがあるのは御免だった。
「つれないことをおっしゃいますね。私の思いを託した文を、何度かお届けしたつもりですが」
「空々しい言葉など、どなたにでもおっしゃることができましょう」
 声が震えそうになるのを堪え、狭霧は気丈な姫を装った。
「では、姫は私の思いのほどを知りたいとおっしゃるのですか?」
 男の声が笑いを含む。
 なんて心地よく、それでいて人の心を揺さぶる声なのだろう……。
「いいえ。知る必要などございません。このような淋しい庭は中将様には似合わないことでしょう。東風《こち》に誘われるままに、明け方の雲でも愛でられてはいかがです?」
 明け方の雲――実親が足繁く通うという東雲宮の姫君のことを揶揄すると、彼は小さく笑った。
「これは耳がお早い。ですが、そこまで私を頑なに拒まなくてもよいでしょう。お互いにもっと知り合わなくては」
 おかしげに笑う実親を見て、傍らに控える常磐も肩を震わせている。常磐たちには、子供が駄々を捏《こ》ねているようにしか見えぬのだろう。
「第一、あなたを知ったところで何になりますか」
「少なくとも私という男を理解する手だてになる」
「あなたを理解するつもりなどありません」
「――また、冷たいことを」
 男が声を一段低くし、彼の口調に滲む音の淫らさに狭霧はぞくりとして目を瞠った。
「だがそのつれなさがいい。計算で私を振り回しているのではなく、姫は未だに稚《いとけな》くておられる」
「な……!」
 己の未熟さを見透かしたような言葉に、普段は穏やかな狭霧もむっとした。
「姫は男の怖さをご存じないのですね。このような簾一枚、男ならば簡単に蹴破れるものですよ」
 ぞっとするほどに、低く冷たい声だった。
「あなたを私のものにすることなど、造作もない」
「どう、やって……」
 全身を冷たい霧で覆われたような気がして、狭霧は身を震わせる。
「この手であなたを奪う」
 どうすればいいのかもわからずに、狭霧は咄嗟《とっさ》に手近にあった護身用の小刀を握り締めた。
 尤も、帝の弟であり右大臣家とも密接な繋がりのある実親に怪我をさせることなど許されるはずもなく、狭霧は怒りを堪えるためにそれを握り締めることしかできなかった。
「梅が枝《え》のように戯れに手折《たお》りたいというのなら、どうかお引き取りください」
「戯れでなければよろしいのですか。私の心はいつも誠実です」
「月でさえも日ごとに移ろうというのに、ましてや人の心がどうして常に変わらぬものだと証明できましょう」
 我ながらつれない言葉を吐いているという自覚はあったが、この攻防で負けるわけにはいかぬ。
「わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら、今宵は帰りましょう。――ですが、私はあなたを諦めるつもりはない」
 何か言い返したかったが、場数を踏んでいない狭霧には、気の利いた言葉は一つとして出てこなかった。
 彼が緩やかに立ち上がった刹那、彼の纏う香が微かに鼻孔を擽る。
 薫衣の君と呼ばれるに相応しい、艶めいてどこか物狂おしい気分にさせる香りだった。
「それでは、また」
 二度目などあってたまるかと思ったものの、口に出さぬ理性はあった。
 気づくと額には汗がじっとりと滲み、狭霧は己がどれほど神経を尖らせていたのかをしみじみと思い知る。自分が他人に対してあんな態度を取るなんて、思ってもみなかった。
 貴族社会では当然とされる恋の鞘当てなど、狭霧には愚かしい絵空事にしか思えなかった。
 単なる噂でしかない狭霧の美貌を一目見んと貴公子はこぞって文を寄越し、他家の姫君たちはそんな狭霧を羨んで負けまいと対抗心を露にする。
 狭霧が入内し、帝の寵《ちょう》を得て子でも宿したらどうしようかと焦っているに違いない。
 そんなことがあるわけがないのに。
 何もかもが滑稽だった。

*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

形式

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存さされているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式のご利用方法をご覧下さい。