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略奪愛人

略奪愛人

著: 橘かおる
発行: 笠倉出版社
レーベル: CROSS NOVELS
価格:945円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆2
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解説

 「愛人ならば、その身体で俺を籠絡しろ」
 美貌の秘書・響也は、敬愛していた上司を陥れ解任させた首謀者・慎二にある契約を持ちかける。すべては上司を救う為。土下座をも辞さないと構えていた響也に、男は冷酷に促した――服を脱いで奉仕しろ、と。屈辱に震えながら跪いた響也は、慎二によって男としての矜恃を踏み躙られ、反応しやすい身体につくり変えられてしまう。心までは赦さないと拒絶する響也だが抱かれるたびに心は揺れ……。

抄録

「で? 何か言いたいことがあるのだろう。それとも辞表を持ってきたのか? だったら出しなさい」
 黙ったままの響也に、慎二の方がきっかけをくれた。相変わらず皮肉な言い方ではあったが。
「いえ、辞表は書きませんでした」
 響也はカップを置き、膝に置いた手をぎゅっと握る。ちゃんと言わなければ、となけなしの勇気を振り絞る。
「書かなかった? へぇ〜、昨日あれだけの啖呵を切ったわりには行動がぬるいじゃないか」
「一晩考える時間がありましたので」
「考える時間ね。そっちが考えてもこっちが受け入れるとは限らないが? なにしろ捨て台詞が『死んだ方がまし』だったからなあ。それが一晩で……。いったいどういう心境の変化か、そのあたりをぜひ詳しく聞きたいものだ」
 一方の眉を上げ、慎二がますます皮肉を効かせて問い詰める。響也はひと言もなくて唇を噛んだ。猫が獲物を嬲るように、慎二は昨日の響也の捨て台詞をあげつらう。もうけっこうです、と言い捨てて帰りたかった。しかし渋沢に、「君の助けが必要だ」と言われたことを思い返すと、おめおめ帰ることもできなかった。響也は深呼吸して、胸に湧き上がる悔しさを堪えた。
「昨日は興奮していて、いろいろ申し訳ないことを口走ったと思います。冷静になれば、そう簡単に仕事を投げ出すことがいいとは思えなくなって。失礼を申し上げたことについては、どのようにでもお詫びします。しろと言われるなら、土下座でもします。ですので、もう一度チャンスをいただけないでしょうか」
 ここで突き放されては、と響也は必死で食い下がった。すると慎二は、急に眉を顰め、
「もしかして親父さん、また失職したのか? それで困って仕事を……」
 と、とんでもないことを言い出した。
「え?」
 わけがわからずに聞き返すと、
「という顔でもないな」
 慎二は戸惑い顔の響也を見て決めつけた。
 響也は表情を強張らせる。どうしてこの男が、自分の父の失職を知っているのか。渋沢の口利きで事なきを得たとはいえ、響也にしてもあちこちで吹聴したい話ではないから、親しい人間にも言っていないのに。
「どういうことですか? 僕の父が何か……」
「ああ、なんでもない。掌を返したように低姿勢になったのはなぜだろうかと考えただけだ。俺を嫌いなのは、相変わらずのようなのにな。だがそうする理由は、ひとつしかないのを思い出したよ。義兄に説得されたんだろう」
 慎二は手を振ってその話題を否定し、忌々しげに核心を突いてきた。父親のことから急に話題が変わり、咄嗟に響也も表情を繕うことができなかった。その顔を見た慎二はふんと鼻で笑う。
「やはりな。義兄の息がかかっている人間を、簡単に秘書に戻すと思うのか。それだけのメリットが、俺にあるとでも?」
 答えようがなくて、響也は口を噤んだままでいた。頑ななその態度を、慎二はどう思ったのか、
「土下座する、か。してもらっても、あまり俺の役に立つとは思えないが」
 皮肉に言ったあとで慎二はきらりと目を光らせた。
「義兄のために何ができる?」
「なんでも、します」
 振り絞るような声が出た。
「なんでも、ねえ。口先だけなら、誰にでも言える言葉だな」
 慎二は値踏みするように響也を見た。どこまでの覚悟やら、と馬鹿にしているようだ。響也は、カッとなった。テーブルの上に半身を乗り出すようにして、
「なんでも、と言ったら、なんでも、です。男に二言はありません」
 激しく言い募った。自分でも、どうしてこれだけ腹が立つのかわからなかった。挑発されて熱くなるタイプではけっしてなかったのに、慎二にだけは、いちいち反発心を掻き立てられてしまうのだ。結果として口が止まらなくなり、自分でも失礼な態度を取っていることは自覚していた。
 慎二が目を細めた。そうすると酷く酷薄な顔に見える。
「だったらその覚悟を見せてもらおうか」
 冷ややかな声が響也を追い詰めた。
「どうしろと……」
 ぞくっと背筋に震えが走るほどの、冷酷な眼差しだった。
「噂では、義兄の愛人をしていたそうだな」
「な……っ、ちがうっ、そんな噂、でたらめだ……」
 響也は愕然として舌を縺れさせながら否定した。だがその否定に僅かに狼狽が混じったのは、事実としてそういうことはなくても、憧れの目で渋沢を見ていた自覚があるからだ。男同士なのに、自分でも少し不自然だと思えるほど、渋沢に傾倒していた。それが傍目に、不埒な噂となってしまったのかもしれないと思うと、否定する言葉が尻窄みになってしまう。
 その曖昧な否定の仕方が、ますます慎二の怒りを買ったようだ。
「愛人なら愛人の手管があるだろう」
 嘲りに満ちた言葉を投げつけられる。だがまだ響也は、慎二が何を要求しているのかわからなかった。
「愛人の、手管?」
「そうだ。もともと愛人とは、身体を使って相手を籠絡するもんだろう」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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