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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン文庫

永遠をさがして

永遠をさがして


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャロン・サラ(Sharon Sala)
 強く気高い正義のヒーローを好んで描き、業界のみならず読者からも絶大な賞賛を得る実力派作家。息子と娘、それに孫が四人いる。“愛も含め、持つ者は与えねばならない。与えれば百倍になって返ってくる”が信条。ダイナ・マコール名義の著書も出版されている。

解説

オナーはその日、見上げるほど豪奢なマローン家の門をくぐった。かつて誘拐されたマローン財閥の令嬢と判明し、26年ぶりに帰ってきたのだ。代理人トレースとともに。だが、オナーを高慢な親族たちが歓迎するわけもなく、あまつさえ財産目当ての偽物と拒絶した。冷え冷えとした屋敷のなかで、味方はトレースだけだったが、彼の出張中、オナーは暗闇のエレベーターに閉じ込められる。闇を引き裂き、「このあま」と吐き捨てるような声が響き――そして落下してゆくなか、思い浮かぶのはトレースの黒い瞳……。

抄録

 今のトレース・ローガンには、初対面の女性にいかにいい印象を与えるかが人生の最重要課題になっていた。
「お嬢さん」彼は声をかけ、歩み寄った。
 オナーは驚いて顔を上げた。気まずくてたまらなかったが、耐えに耐えたすえにようやく流した涙を途中で止めるのは不可能だった。背の高い、黒い人影が近づいてくるのを見て、彼女の胸に不安が芽生えた。見たことのない人物だ。カジュアルな服をこれほどみごとに着こなせる男性は、テキサスの労働者階級の中にはいない。
 長い脚の動きに合わせてズボンの黒っぽい生地がしなやかに動き、シャツ越しにも均整のとれた上半身が見て取れる。急速に濃さを増す闇の中で、顔は陰になっているものの、輪郭からして、端整で魅力的な顔立ちであることは間違いない。そして、いくらか頑固そうな顎。筋の通った鼻は非の打ちどころがなく、唇は見たこともないほどセクシーだ。そして顔全体に、彼女への気遣いが表れていた。
 オナーは身ぶりで彼を制した。「前にお会いしたことがあったかしら?」どうにも止まらない涙をぬぐいながら、彼女は尋ねた。
「いや」
 その声は、深まる闇を突き抜けて、まっすぐに彼女の心に響いた。
「何かご用?」見知らぬ人間と二人きりでいることを思い、オナーは急に怖くなった。
「鍵が落ちていたから」
 鍵を差しだしながら、トレースは相手がおびえていることに気づいた。
「まあ」オナーは静かに言い、手を伸ばした。鍵がてのひらに落ち、じゃらじゃらと鳴る。彼が後ろに下がったので、彼女はほっと息をついた。「あなたはいい人なの?」自分でも驚いたことに、オナーはその見知らぬ男性を引き止めたいと感じていた。
「家族にはそう思われているけれど」おもしろがるように答えた直後、トレースは彼女が途方に暮れたような表情をしたことに気づいた。
 それは“家族”という言葉に触発されたものだった。これ以上ひとりでいることには耐えられない。それが、今のオナーの偽らざる気持ちだった。
「よかった」オナーは喉をつまらせ、トレースの腕の中へと身を寄せた。「知っている人には泣いているところを見られたくないの」
 トレースはとっさに抱きしめたものの、ひと言も言葉が出なかった。ショックととまどいに続いて、彼女を自分のものにしたいというおそろしく強い感情がわきおこった。彼は悟った。僕は一生、彼女を手放せなくなるに違いない、と。
 オナーは理性と常識の声に耳をふさいだ。わかっている。私は今、これまで生きてきた中で最も愚かなことをしている。身の安全も何も考えずに、見知らぬハンサムな男性に身を任せ、それでいて、かつて経験したことのない安心感を味わっている。オナーは彼の強さに身をゆだね、耳もとでそっと響く慰めの言葉に胸を打たれた。
 彼女がどう感じているかについて、トレースは考えないことにした。まるで意図されたように二人の体がぴったり重なり合うことにも、気づかないふりをした。今、トレースの顎の下には彼女の頭がある。彼はかすかなシャンプーの香りを吸いこんだ。そして腕の中の女性と同様のさわやかな香りに心を奪われた。
 いったいどうやってこの感情を克服しろというのだろう? どのようにJ・J・マローンの使いを果たせというのだろうか? 本当のことを話せば彼女がどんな顔をするかはわかっている。そんな場面は想像もしたくない。
「ごめんなさい」オナーはささやくほどの声でかろうじて言い、きまり悪そうに体を離した。「名前も知らない方なのに」
「トレースだよ。トレース・ローガンだ」彼は静かに名乗り、彼女に立ち直るきっかけを与えた。
「トレース? “|跡形《トレース》もなく消える”の、あのトレース?」オナーは尋ね、涙にくれた顔でにっこり笑った。
 その笑顔を、トレースは呆然と見つめた。かなり濃くなった闇の中でも、左の頬に浮かんだえくぼははっきりと見える。自分が今何をきかれたのか、彼は必死に思い出そうとした。
「そう」彼はやっとの思いで答えた。「その“トレース”だ。もっとも、“トレース”は愛称で、本名はトレーシー。本名はめったに使わない」
「どうして?」オナーは尋ねた。「トレーシーという名前に特に問題はないと思うけど」
「だがその前に、“リチャード”がつくとなると話が違ってくる」トレースは物憂げに言った。「一生“ディック・トレーシー”と呼ばれ続けるのも、なかなか大変なんだ。週に五、六回は名前のことでけんかをしていたものだから、六年生のときの担任が気をきかして、僕のことをトレースと呼びはじめたんだ。それを家族がまねるようになり、以来、僕はずっとトレースというわけさ」
「なるほど、トレース・ローガン」オナーはそっとささやいた。あたりはついに、完全なる闇に包まれた。「広い胸とたくましい肩をありがとう。誰かに寄りかからないと、立ち直れない状態だったの。知らない人との抱擁をこれほど心地よく感じたのは初めてだわ。気遣ってくれてありがとう。わけがわからなかったでしょうけど」
 答えかけたトレースの唇の端に、彼女の唇がそっと触れた。甘いキスを期待して、彼は磁石のように顔の向きを変えた。しかし一瞬の差で間に合わなかった。彼女はため息をつくと、感謝の意をこめて彼の腕に触れ、去っていった。
 トレースは呼び止めようとしたが、何を言うつもりだったのか忘れてしまい、言葉が出てこない。結局、彼はテキサスの夜の中に消えていく彼女を黙って見つめ、そのあともずいぶん長い間、じっとその場に立っていた。矛盾するさまざまな感情と闘いながら。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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