マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・イマージュ

閉ざされた館の大富豪 愛の寓話 I

閉ざされた館の大富豪 愛の寓話 I


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・イマージュ愛の寓話
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


解説

毎朝、ボスから届く黄色い薔薇。その花言葉は“友情”だけれど……。

著名な大富豪ディーコンに雇われ、住み込みの助手となったギャビー。出入りが許されるのは、彼女の住居部分と仕事部屋だけで、屋敷につながる扉には鍵がかけられ、雇い主は姿を見せない。仕事の指示は電話かメールのみ。もどかしさを感じていたある日、ギャビーは鍵があいていた隙に、扉の向こうへと足を踏み入れた。ついに現れた彼は、写真や映像で見たのとは別人のようだった。伸び放題のひげと髪に覆われて顔は見えず、その姿も声も、まるで野獣のようで、わずかにのぞく瞳は暗く陰り謎めいている。でもギャビーは不思議と恐れなかった。彼の心を開きたいとさえ思い、彼女はひたむきに一歩ずつ、信頼を得ていった。そしてあるとき、思いきって彼のひげ剃りと散髪を提案すると――

■車椅子生活の父の医療費と生活費を稼ぐため、ギャビーは2つの仕事をかけ持ちしていましたが、とある事情でディーコンに雇われたのでした。彼女の一族と彼とのあいだに横たわる深い溝と運命、そして二人の切ない愛は、どのような結末を迎えるのでしょうか?

抄録

「おはよう」
 ギャビーの声にぎくりとして振り返る。「ここには入るな」どこもかしこも侵入しないと気がすまないのか? ディーコンはかっとなってうなるように言った。「出ていけ!」
「ご……ごめんなさい」
 ギャビーがあとずさった。その拍子に煉瓦の小道から足を踏みはずしてバランスを崩し、両手をばたつかせて後ろ向きに倒れかかった。ディーコンはとっさに手を伸ばしたが間に合わず、彼女はそのまま薔薇の茂みに倒れ込んだ。
 ディーコンは自分の辛辣な言葉を悔やんだ。脅すつもりはなかったのに。心の中でうめきながら、ギャビーに駆け寄った。
 最初に目に入ったのは血だった。棘だらけの枝が絡みつき、腕と脚に点々と血が飛び散っている。僕のせいだ。野獣みたいにうなったから――父親と同じように。絶対にあんなふうにはならないと誓っていたのに。
“ガブリエルをお願い”彼女の叔母の最後の願いがまた脳裏によみがえる。これではまったく果たせていない。
 ギャビーは起き上がろうとしてもがいていた。動けば動くほど状況は悪化するばかりで、苦しげなうめき声をあげている。
「動くな」ディーコンはそっとそばに寄った。
 ここの薔薇の茂みにはまだ手を入れておらず、枝が伸び放題に絡み合っている。ディーコンはジーンズの後ろポケットから植木鋏を引き抜くと、急いで茂みを切り開いてギャビーを助け起こした。
 そのまま腕に抱き上げた彼女は目に涙を浮かべ、鼻をすすっていたが、泣きだしはしなかった。その強さにディーコンは感心した。これまで周囲にいたのは、泣いたりわめいたりする女性ばかりだった。ギャビーは冷静だ。というより頑固と言うべきか。
 ディーコンはギャビーを抱いたまま、屋敷に向かって歩きだした。
「歩けるわ。下ろして」その声には断固とした響きがあった。涙も消えている。
 ディーコンはためらった。下ろしたくない。困ったことに、美しい曲線を描く彼女の体がすっぽりと腕におさまっている感覚が心地いいのだ。
 それに苺のような匂いもした。視線がおのずと唇に引き寄せられる。まさに熟れた苺の色だ。彼女との気まずい関係や、ここ数カ月髪も髭も伸び放題になっていることも頭から消えた。
 その瞬間、頭にあるのは唇を重ねたいという思いだけだった。リップグロスで輝くふっくらとした唇に――。
「下ろして。今すぐ」抑制の効かない思考をギャビーの声が断ち切った。
 その瞳に視線を移すと、彼女は頑とした目で見上げていた。何を考えているか見抜かれていたのか? ディーコンはゆっくりとギャビーを地面に下ろした。
「こっちだ」今度は彼が有無を言わせぬ口調で言い、先に立って歩きだす。
 屋敷の中は薄暗かった。かつてはすばらしい屋敷だったが、今はブラインドが下ろされ、あらゆるものが埃に覆われている。だがそんなことはかまわない。もうこの一階で過ごすことはないのだから。今使っているのは二階の自室だけで、そこへギャビーを連れていこうとしている。
 白い大理石の床と大きなクリスタルのシャンデリアがある広い玄関ホールに出た。そこから弧を描いて二階へと続く階段に向かう。
「どこへ行くの?」ギャビーが尋ねた。
「傷を洗って、手当てをする」
「私なら大丈夫よ」
 僕を信用できないか。無理もない。記憶は断片的で、悪夢にうなされ、自分で自分が信用できなくなっているくらいだ。だが今は彼女に信用されているかどうかは関係ない。肝心なのは彼女の手当てと、深い傷を負っていないかどうかを確かめることだ。
「誰かの手を借りないと」階段の下でディーコンは振り返った。「背中の傷に手が届かないだろう。あいにくミセス・カップスは今日休みを取っている」
 ギャビーが納得してついてくることを願いながら、ディーコンは階段を上り始めた。自分のせいでけがをしたうえに感染症にでもかかられてはたまらない。どんなに望んでも、事故の前に時間を巻き戻すことはできないが、今はギャビーに手を貸せる。彼女がそれを許してくれさえすれば。
 階段を上りきると、廊下は三方向に伸びていた。左手には母が使っていた居室と寝室。右手にはかつて友人だと思っていた人々がよく泊まっていった部屋。そして正面の廊下の先にはディーコン自身の居室と寝室、それに海に面したオフィスがある。
 ディーコンはいちばん奥のドアの前で足をとめた。ベッドを整えていなかった。久しく整頓もしていない。この数カ月はそれを気にすることすらなかったが、今は気になる。今夜にでも少し片づけるか。
「どうかしたの?」ギャビーが尋ねた。「気が変わったのなら、私はこれで」
「いや、なんでもない」そう言うと同時に大きくドアを開けた。今さら好印象を与えようとしたところでどうなるものでもない。好印象を与えるチャンスは出会う前から失っている。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。