和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>兄弟
解説
孤独な日々を送っていた高校生の由羽は、6年ぶりに美貌の異母兄、英国帰りの大学生・柊士と再会する。甘い同居生活の中、奪われてしまう身体。ずっと想いをよせてくれてきた教師の存在と、柊士が向けてきた獣のような欲情に、由羽の心は乱される。禁断の愛に溺れた異母兄弟が、その先に見るものは!?
抄録
「やっと、また逢えたね、由羽」
耳元で、なめらかな低声が響く。
ようやっと我に返った由羽は、文字通り飛び上がった。
「なにっ、なんでっ……」
顔を横に向けると、近すぎる距離に暗灰色の瞳がある。
六年前の面影を残した、けれどもしっかり年の分だけ大人の男に近づいた貌。
締まりのある滑らかな輪郭。顔の中央にすうっと引かれた、やや外人めいた鮮やかな鼻梁。品のいい程度に膨らみのある唇の淡い赤。眉山のはっきりした眉は、意思の強さと理知を見る者に印象づける。眦の涼やかな目には睫の影が揺らめいていた。
心臓がぐうっと胸骨の中で膨れ上がる。
「なんでって?」
「だって――だって、ここの一階、オートロック」
「鍵は持ってるよ。僕の家なんだから」
「……」
この高層マンション一階のエントランスドアはオートロックになっている。訪問者が入るためには、住人がモニターで相手を確認してロックを解除しなければならないシステムだ。
だから由羽は、チャイムが鳴ったら自分がエントランスを開放し、そうすると士がエレベーターでこの二十八階まで上がってきて、玄関でご対面。そこで改めてきちんと自己紹介する、というシナリオを描いていたのだった。
しかし言われてみれば、確かにここは士の家だ。いくらでも勝手に入って来られる。
とは言え、頭の中でシミュレーションを繰り返して完璧な再会を果たすつもりだった由羽は、あまりの不意打ちに完全に思考停止状態に陥ってしまっていた。それに追い討ちをかけるように、
「父さんは君がだれだか教えてくれなくて、それにあのあと僕はすぐにイギリスに行かされて探せなかったけど……ずっと、逢いたかったんだ」
士が甘やかな告白を、切実な声音で口にする。
包み込むような眼差しをそそがれる。
「兄弟なら、もう離れないでいられるね?」
最上のシミュレーションにも思い描かなかった展開だった。
士も自分に逢いたがってくれていた。
兄弟であることを受け入れて、しかも嬉しいと言ってくれている。
夢を見ているみたいだった――あんまりできすぎているから、本当に夢なのかもしれない。
「由羽」
甘い声で、名前を呼ばれる。
ポーッとなったまま士の瞳を覗き込むと、視線が絡まる。
と、由羽の肩を抱く手に、ふいに骨を握り潰すような力が籠もった。
「……シュウジ?」
痛みに眉を寄せる由羽の顔に士が顔を伏せる――水に潤んだ唇にちろりとなにかが這う感触。由羽は目を見開いた。士の細められた目に、群青色の光が宿る。
「持ってきた荷物を片づけてくるよ」
士の腕が解けた途端、由羽は重力のままその場にへにゃりとしゃがみ込んでしまった。
胸が痛くなるほど、心臓が暴れまくっている。
洗面所の入り口で、士が振り返って、笑い含みに優しく言ってきた。
「そうだ。これから僕のことは『兄さん』でいいよ」
「……」
頭も身体も痺れたみたいになっている。
しばらくしてから、由羽は洗面台に両手で掴まって膝立ちした。鏡に映る自分の顔も目も、完熟トマトみたいに赤くなって、潤んでいた。
*この続きは製品版でお楽しみください。
耳元で、なめらかな低声が響く。
ようやっと我に返った由羽は、文字通り飛び上がった。
「なにっ、なんでっ……」
顔を横に向けると、近すぎる距離に暗灰色の瞳がある。
六年前の面影を残した、けれどもしっかり年の分だけ大人の男に近づいた貌。
締まりのある滑らかな輪郭。顔の中央にすうっと引かれた、やや外人めいた鮮やかな鼻梁。品のいい程度に膨らみのある唇の淡い赤。眉山のはっきりした眉は、意思の強さと理知を見る者に印象づける。眦の涼やかな目には睫の影が揺らめいていた。
心臓がぐうっと胸骨の中で膨れ上がる。
「なんでって?」
「だって――だって、ここの一階、オートロック」
「鍵は持ってるよ。僕の家なんだから」
「……」
この高層マンション一階のエントランスドアはオートロックになっている。訪問者が入るためには、住人がモニターで相手を確認してロックを解除しなければならないシステムだ。
だから由羽は、チャイムが鳴ったら自分がエントランスを開放し、そうすると士がエレベーターでこの二十八階まで上がってきて、玄関でご対面。そこで改めてきちんと自己紹介する、というシナリオを描いていたのだった。
しかし言われてみれば、確かにここは士の家だ。いくらでも勝手に入って来られる。
とは言え、頭の中でシミュレーションを繰り返して完璧な再会を果たすつもりだった由羽は、あまりの不意打ちに完全に思考停止状態に陥ってしまっていた。それに追い討ちをかけるように、
「父さんは君がだれだか教えてくれなくて、それにあのあと僕はすぐにイギリスに行かされて探せなかったけど……ずっと、逢いたかったんだ」
士が甘やかな告白を、切実な声音で口にする。
包み込むような眼差しをそそがれる。
「兄弟なら、もう離れないでいられるね?」
最上のシミュレーションにも思い描かなかった展開だった。
士も自分に逢いたがってくれていた。
兄弟であることを受け入れて、しかも嬉しいと言ってくれている。
夢を見ているみたいだった――あんまりできすぎているから、本当に夢なのかもしれない。
「由羽」
甘い声で、名前を呼ばれる。
ポーッとなったまま士の瞳を覗き込むと、視線が絡まる。
と、由羽の肩を抱く手に、ふいに骨を握り潰すような力が籠もった。
「……シュウジ?」
痛みに眉を寄せる由羽の顔に士が顔を伏せる――水に潤んだ唇にちろりとなにかが這う感触。由羽は目を見開いた。士の細められた目に、群青色の光が宿る。
「持ってきた荷物を片づけてくるよ」
士の腕が解けた途端、由羽は重力のままその場にへにゃりとしゃがみ込んでしまった。
胸が痛くなるほど、心臓が暴れまくっている。
洗面所の入り口で、士が振り返って、笑い含みに優しく言ってきた。
「そうだ。これから僕のことは『兄さん』でいいよ」
「……」
頭も身体も痺れたみたいになっている。
しばらくしてから、由羽は洗面台に両手で掴まって膝立ちした。鏡に映る自分の顔も目も、完熟トマトみたいに赤くなって、潤んでいた。
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