和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>社会人
解説
ジュエリーデザイナーの香津美の楽しみは、週末にクラブで談笑すること。華奢な香津美は大学院生の一樹を始め、いつも3人の男達に口説かれていたが、体に秘密を持っていたため、誰とも深く関わらないようにしていた。そんな香津美が密かに憧れていたのは、年上の相場師・北条だった。ところが、焦れた3人は香津美を罠に陥れ、襲いかかってきた。そこに、呼び出された北条が現れて――!?
目次
アシメトリー
傷痕
傷痕
抄録
「北条さん……」
「安心しろ。俺はリビングにいるから。明日は休みだろ。好きなだけ寝ていればいいさ」
部屋の電気が消されたとき、香津美はもう一度北条の名前を呼んだ。
ベッドサイドのルームランプの薄暗い明かりの中で、振り返った北条の顔が自分を見つめている。彼に向かって、香津美は震える声で言った。
「行かないで。一人にしないで……」
精一杯の訴えだった。それを聞いて、北条の表情がふっと弛んだのがわかった。
「どうした? 子どもみたいなことを言ってないで、さっさと寝ろ」
そう言いながらも北条は、ベッドに腰かけたままの香津美のそばまで戻ってきてくれる。そして、一度香津美を抱き上げるようにして立たせると、ベッドカバーとシーツをめくり、そこに体を横たえるように促した。
香津美はそれはいやだと首を横に振ると、そのまま北条の胸に縋(すが)りついた。
「俺、あなたが好きだ。初めてクラブで会ったときから、ずっと惹かれていた。でも、体のことがあったから、自分から声をかけて誘う勇気なんてなかった。そのくせ、あなたが遊ぶ相手一人一人にすごく嫉妬していたんだ」
もう自分には隠すことなんてない。ただ、この気持ちを正直に伝えてしまいたい。
こんな機会は二度とこないかもしれない。あまりにも優しい北条と、やっと素直になれる自分。まるでこの夜だけの魔法のように思えた。
悪夢のあとの魔法に縋りつきたい。北条に今一度救い上げてほしい。自分の心のわだかまりと、傷ついた体を彼の手で癒してほしかった。
「お願い。一人で置いていかないで。俺、このままだとまたダメになってしまう。誰にも心も体も許せないまま生きていかなくちゃならなくなる。もう、いやなんだ。苦しいんだ。寂しくて死にたくなる。だから、助けて……」
自分の弱さを認めた香津美の告白を、北条はどう受けとめるんだろう。雰囲気に流された馬鹿な告白と思うんだろうか。それとも哀れさに、何か彼らしい同情の言葉を口にするんだろうか。
自分の肩に置かれている彼の手はどんなふうに動くのか、不安に震えながら香津美はそっと北条の顔を見上げた。
二人の視線が絡み合う。その瞬間、息が止まり、時間も止まる。
北条の手が香津美の体を力一杯抱き締めた。大きな手が香津美の髪をかき回す。耳やうなじ、頬や首筋に触れていく。
「ああ……っ」
吐息が漏れた瞬間唇が塞がれる。涙の流れる頬に寄せられた唇とは違う。これこそが、北条と交わす本当に初めての口づけだった。
香津美は手を伸ばして、彼の髪に自分の指を絡める。ワックスで軽く流した彼の髪をつかみながら、もっと深く唇を重ねようと自ら角度を探る。
「あっ……んん……っ」
何度も互いの舌を絡め合ったあと、荒い吐息を漏らしながらもう一度見つめ合った。
「これ以上誘うなよ。そんな体じゃ無理だろう」
北条は彼自身の気持ちを抑えるようにして言うと、香津美の体を引き離そうとした。
「やっぱり、こんな体じゃいや? あんなみっともないところを見られたから、嫌われてもしょうがないけど……」
「そうじゃないさ。ただおまえをこれ以上傷つけたくないだけだ。あの連中がどれほど無茶をしたかは見ればわかる」
「だから、抱いてっ。あんな連中のあとを残したままじゃ、我慢できないんだ」
吐息とともに懇願すると、北条の胸に顔を埋める。
「この体がいやじゃなければ、どうにかして……」
北条の腕が香津美の体をゆっくりとベッドに押し倒す。柔らかなスプリングマットに触れてさえ、体中がみしみしと音が鳴りそうなほど痛い。
無茶なことはわかっている。でも、どうなっても構わないと思った。今は北条の温もりを感じてみたい。
「後悔しても知らないぞ」
北条の言葉に香津美は静かに首を横に振った。
後悔なんてしない。大好きだった人に抱かれるのに、後悔することなど何もないとわかっているから。
*この続きは製品版でお楽しみください。
「安心しろ。俺はリビングにいるから。明日は休みだろ。好きなだけ寝ていればいいさ」
部屋の電気が消されたとき、香津美はもう一度北条の名前を呼んだ。
ベッドサイドのルームランプの薄暗い明かりの中で、振り返った北条の顔が自分を見つめている。彼に向かって、香津美は震える声で言った。
「行かないで。一人にしないで……」
精一杯の訴えだった。それを聞いて、北条の表情がふっと弛んだのがわかった。
「どうした? 子どもみたいなことを言ってないで、さっさと寝ろ」
そう言いながらも北条は、ベッドに腰かけたままの香津美のそばまで戻ってきてくれる。そして、一度香津美を抱き上げるようにして立たせると、ベッドカバーとシーツをめくり、そこに体を横たえるように促した。
香津美はそれはいやだと首を横に振ると、そのまま北条の胸に縋(すが)りついた。
「俺、あなたが好きだ。初めてクラブで会ったときから、ずっと惹かれていた。でも、体のことがあったから、自分から声をかけて誘う勇気なんてなかった。そのくせ、あなたが遊ぶ相手一人一人にすごく嫉妬していたんだ」
もう自分には隠すことなんてない。ただ、この気持ちを正直に伝えてしまいたい。
こんな機会は二度とこないかもしれない。あまりにも優しい北条と、やっと素直になれる自分。まるでこの夜だけの魔法のように思えた。
悪夢のあとの魔法に縋りつきたい。北条に今一度救い上げてほしい。自分の心のわだかまりと、傷ついた体を彼の手で癒してほしかった。
「お願い。一人で置いていかないで。俺、このままだとまたダメになってしまう。誰にも心も体も許せないまま生きていかなくちゃならなくなる。もう、いやなんだ。苦しいんだ。寂しくて死にたくなる。だから、助けて……」
自分の弱さを認めた香津美の告白を、北条はどう受けとめるんだろう。雰囲気に流された馬鹿な告白と思うんだろうか。それとも哀れさに、何か彼らしい同情の言葉を口にするんだろうか。
自分の肩に置かれている彼の手はどんなふうに動くのか、不安に震えながら香津美はそっと北条の顔を見上げた。
二人の視線が絡み合う。その瞬間、息が止まり、時間も止まる。
北条の手が香津美の体を力一杯抱き締めた。大きな手が香津美の髪をかき回す。耳やうなじ、頬や首筋に触れていく。
「ああ……っ」
吐息が漏れた瞬間唇が塞がれる。涙の流れる頬に寄せられた唇とは違う。これこそが、北条と交わす本当に初めての口づけだった。
香津美は手を伸ばして、彼の髪に自分の指を絡める。ワックスで軽く流した彼の髪をつかみながら、もっと深く唇を重ねようと自ら角度を探る。
「あっ……んん……っ」
何度も互いの舌を絡め合ったあと、荒い吐息を漏らしながらもう一度見つめ合った。
「これ以上誘うなよ。そんな体じゃ無理だろう」
北条は彼自身の気持ちを抑えるようにして言うと、香津美の体を引き離そうとした。
「やっぱり、こんな体じゃいや? あんなみっともないところを見られたから、嫌われてもしょうがないけど……」
「そうじゃないさ。ただおまえをこれ以上傷つけたくないだけだ。あの連中がどれほど無茶をしたかは見ればわかる」
「だから、抱いてっ。あんな連中のあとを残したままじゃ、我慢できないんだ」
吐息とともに懇願すると、北条の胸に顔を埋める。
「この体がいやじゃなければ、どうにかして……」
北条の腕が香津美の体をゆっくりとベッドに押し倒す。柔らかなスプリングマットに触れてさえ、体中がみしみしと音が鳴りそうなほど痛い。
無茶なことはわかっている。でも、どうなっても構わないと思った。今は北条の温もりを感じてみたい。
「後悔しても知らないぞ」
北条の言葉に香津美は静かに首を横に振った。
後悔なんてしない。大好きだった人に抱かれるのに、後悔することなど何もないとわかっているから。
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
形式
【XMDF形式】
XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアはここから無料でダウンロードできます。
詳しくはブンコビューアダウンロード初めての方へをご覧下さい。
対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。
【MEDUSA形式】MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存さされているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。
詳細はMEDUSA形式のご利用方法をご覧下さい。
































