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公爵家の籠の鳥

公爵家の籠の鳥


発行: ハーレクイン
シリーズ: MIRA文庫
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

貧民街の捨て子は、公爵家への復讐のため、悪魔になった――L・ヒース真骨頂!愛と罪が交錯するヴィクトリアン絵巻、開幕。

幼い頃に天涯孤独の身となり、公爵夫妻を親がわりに育ったアスリン。次期公爵に嫁ぎ、何不自由のない日々を送るはずだった彼女の世界は、突然現れた大富豪ミック・トゥルーラヴによって一変する。貧民街に生まれながらも、不屈の意志で巨万の富を築きあげた彼は、裏社会を統べる危険きわまりない存在。真夜中を思わせる瞳、官能的な手練手管に、純真無垢なアスリンが抗えるはずもなかった。しかし、ミックが近づいてきたのは壮大な復讐劇のため――30年前に公爵家から捨てられた幼子が、すべてを奪う悪魔となって戻ってきたのだ。

抄録

「なんだよ、離せよ! この野郎!」
 金切り声に、アスリンは足を止めて振り向いた。さっきの子供がミック・トゥルーラヴに襟首をつかまれ、腕を振りまわしている。たちまち、アスリンの心臓がどきりと跳ねた。ミスター・トゥルーラヴは男の子を引きずりながら、こちらに近づいてきた。
「レディ・アスリン」彼は暴れ続ける子供を捕まえたまま、あいているほうの手で帽子をさっと脱いだ。
 アスリンの視線は彼に釘づけになった。日差しのなか、先日の夜よりも彼の瞳がはっきり見えた。もっと暗い色かと思いきや、サファイアのように深みのあるブルーだった。黒い髪と顎ひげも、瞳の色をきわだたせている。アスリンはごくりと生つばをのみ、ふいに渇いた喉を湿らせようとした。「ミスター・トゥルーラヴ」
 彼は男の子を強く揺さぶった。「返してもらおうか」
「なんのことだか全然わかんねえよ」
 ミック・トゥルーラヴは眼光鋭く子供をにらみつけた。あんな目で射すくめられたら大の男でも震えあがり、命からがら逃げていくに違いない。メイドのナンが暗い路地で彼と出くわしたくないと言った理由も、わかるような気がする。こうして真昼に広い通りで出くわすだけでも怖いのに。
「ちくしょう、くそったれ」少年は悪態をつきながら上着のポケットに手を突っこみ、真珠のブレスレットを取りだすと、トゥルーラヴが突きだしていた手のひらに落とした。
 アスリンは息をのみ、自分の手首を見下ろした。ほんの数分前まで手首に巻きついていたはずのブレスレットがない。「泥棒!」
 掏摸の子供はトゥルーラヴのすねを蹴った。トゥルーラヴはうなり、思わず手をゆるめた。子供が逃げていき、アスリンの下男ふたりが追いかけようとした。
「追わなくていい!」トゥルーラヴの大声に、下男ふたりが凍りついた。神の命令のごとく威厳に満ちた声だった。「逃げ足が速いうえ、このあたりの通りや路地も知りつくしているだろう。盗まれたブレスレットも、全員で力を合わせて取り戻せた」
 誰も何もしていない。彼ひとりの手柄だったのに。
 トゥルーラヴがふたたびアスリンに目を向けた。「ブレスレットをつけてあげよう。手を出してごらん」
 体じゅう好きにされてもかまわないという思いが脳裏に浮かび、アスリンは落ち着かない気分になった。いやだわ、太陽が頬に沈んだように感じる。いま鏡を見たら、頬がリンゴみたいに赤くなっているでしょう。それでもアスリンは、言われたとおりに手を出した。頬の火照りに気づかれないといいけれど。
 細かい作業になると見てとったのか、トゥルーラヴが自分の手袋をすばやくはずした。彼の手はよく日に焼けて浅黒く、爪もきれいに整えられている。ただし、あちこちに小さな傷跡があった。子供のころの傷かもしれない。いたずらっ子で、しょっちゅう怪我をしていたのだろう。
 ミック・トゥルーラヴはアスリンの手首に顔を近づけ、ブレスレットをつけることに集中している。とはいえ、まるで急ぐようすもなかった。アスリンは手袋をはめたままだけれど、脈打つ手首をかすめる彼の指が気になってしかたがない。そのうえ、いまにも体が触れそうなので、いっそう脈が速くなる。男の人にアクセサリーをつけてもらうなんて、ひどく馴れ馴れしいけれど、うっとりしてしまう。ふいに空気が熱くなり、呼吸するのも難しくなった。なんだか頭がくらくらする。まさか、卒倒する前兆?
 そばを通りすぎる人たちは皆、歩調をゆるめながら、じろじろのぞきこんでくる。それでもアスリンにとって、他人の視線はたいして気にならなかった。むしろ、ミック・トゥルーラヴだけに意識が向かないよう、さえぎってくれる壁にも等しい。
 アスリンの指に比べると、彼の指はとても長く太いうえ、あまり器用ではないらしい。ブレスレットの端を小さな留め金に通すのも、やたらと手間取っているのだから。とはいえ、彼のしぐさには乱暴なところが少しもなかった。大きな手がようやく離れていき、黒革の手袋に覆い隠されてしまうのを、アスリンはうっとりしつつも未練がましく見つめた。あの手なら一日じゅうでも見ていられるのに。あれは労働者の手だった。あんな手が伸びてくれば不快に感じてもおかしくないはずなのに、なぜか引きつけられた。何不自由のない人生を歩んできた紳士の手のように、なんだか惹かれてしまう。
 キップの手はもっとほっそりしているし、すべすべで傷もない。厳峻な山嶺を思わせる血管も浮いていない。力や技量、勇気をうかがわせる手でもない。それに反して、ミック・トゥルーラヴの手は、どんな仕事も厭わないだろう。単純作業から困難きわまる労苦まで、必要なことはなんでも躊躇せずにやってのけるだろう。だからこそ彼の手には、小さな傷跡がたくさん残っているのだと思う。それでも、手の美しさは少しも損なわれていない。かえって、傷だらけの手に人柄が表れている。夜更けに暖かい暖炉のそばで昔の武勇伝を語るとき、傷跡は勲章のように光り輝くのだ。
 アスリンがこれほど誰かの手を意識するのは初めてだった。ここまで誰かの手に惹かれたこともない。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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