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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル

侯爵に恋した人魚姫

侯爵に恋した人魚姫


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ルイーズ・アレン(Louise Allen)
 物心ついたときから歴史に深い興味を抱いていて、八歳のときには三ページの歴史小説を書いた。地理と考古学の学位を持ち、特定の風景や場所から、小説を書くインスピレーションを得ることが多いという。とくにヴェネチアやブルゴーニュ、ギリシアの島々からはこれまでに多くのアイデアが生まれた。作品のモデルにもなる最愛の夫とベッドフォードシャーに在住している。

解説

愛とは無縁に生きてきた。彼の瞳に溺れるまでは。

海辺にある親戚の領地を取り仕切るタムシンには、秘密の日課があった。それは、人目を盗んで裸で泳ぐこと。ある日タムシンが泳いでいると、突然海の中から男性が現れて彼女の両肩をつかんだ。そして生気を求めるようにキスをした。男性はタムシンを抱き上げて砂地を横切り、そのまま意識を失った。大天使を彷彿とさせる、たくましく美しい金髪の男性――どこか冷徹な雰囲気のある彼は、とびきりのハンサムだ。冷えきった彼を屋敷に運ばせ、風呂に入れて介抱していると、悪態をつきながら青い目を見開いた彼がふとタムシンを見つめた。そのときタムシンは恋に落ちた。彼が侯爵だとは夢にも思わずに。

■クリスと名乗るその男性の魅力は抗いがたく、タムシンは束の間の喜びを自分に許して身も心も彼に捧げます。やがてある事件を機にクリスは侯爵の身分を明かし、タムシンは別世界に住む彼への想いを持て余して……。甘く儚い愛の夢、〈不肖の四貴族〉第3弾です。

抄録

 僕は溺れている。そして怒っている。冷たい海水が顔に叩きつけられ、悪態をついて目に入った水を振り払いながら、クリス・ドゥ・フーはそのことに気づいた。何も考えずに小さな入り江から泳ぎだしたのだ。岩の上で服を脱ぎ捨て、思いとどまりもせず、砕け散る波の中へ飛び込んだのだ。
 波を切って深い水中に潜り、頭を真っ白にして両手両脚をそろえ、筋肉を伸ばし、力強く蹴ることに集中するのは気持ちよかった。人生で一度くらい結果を考えず、慎重な計画もせずに行動するのは。だが今や、その奔放な行動が自分を殺そうとしている。
 これが僕が望んでいたことか? 驚きに目を見開き、青緑色の水の世界へ潜り込むと、クリスは怒りにうなりながら水面に向かって蹴り上げた。彼は恋に落ちていた。あらゆる良識と名誉に反する、不道徳で、どうしようもないほどの恋に。そんな恋が許されないのはわかっていた。だからこれ以上傷つく前に背を向け、あてどなくイギリスをさまよい、ここにやってきたのだ。ノースデボンの最果ての海に。
 そのせいで死にかけている。相当幸運でない限り。死にたくはない。叶わぬ望みにどれほど胸が痛もうとも。だが遠くまで泳ぎすぎた。乗馬で鍛えた屈強な体に求める体力の限界を超えている。
 頭を使え。クリスは自分を叱咤した。自らこの苦境に飛び込んだのだ。自力で乗り越えるしかない。あきらめるな。愛のために死んでたまるか。
 塩がこびりついてひりつくまぶたの隙間から陸地を見つめる。そそり立つ崖。その下は打ち寄せる波に削られたぎざぎざの岩が連なっている。あたかも、上陸してみろ、叩きつけられ、血まみれで死ぬぞとあざ笑っているようだ。だがこの辺りに入り江がほとんどないのは知っている。クリスは岸に沿って南西に向かう海流に身を任せ、目的の場所が見つかるまで体力を温存することにした。この数分ですでに進んでいる。だが、ただ浮かんでいるのは危険だ。六月の初日とはいえ、水の冷たさは体力を奪っていく。もはや両脚の感覚もほとんどない。酷使した筋肉や腱が燃えるように痛むだけだ。肩も、両腕も。
 風向きが変わり、水が違う方向から顔に打ちつけた。あそこだ。いちばん近くにそびえ立つ岬の上から、青空に向かって何かが揺らめいている。煙だ。家か浜辺があるはずだ。泳げ。痛みなど無視しろ。最後まで力を振り絞るんだ。第五代アベンモア侯爵がどんな原因で死ぬにせよ、望みのない恋のせいでも、度胸が足りないせいでもない。
 時間が経つと、痛みも努力もぼやけてきた。残っている意識の奥のどこかで、これ以上浮かんでいられないと気づいた。鉛の重りのような頭を上げると、近くに浜辺が見えた。潮の香りの中に、燃える薪と野ニラの香りがした気がした。幻だろうか。
 いや、違う。一瞬、はっきりと女性の姿が見えた。茶色い豊かな巻き毛を肩に垂らし、腰まで水に浸かった女性が僕を呼んでいる。「しっかり!」
 人魚……そこで力が尽きて両脚が沈み、砂に足がつくとよろめいた。どうにか力を振り絞って立つと、人魚が両手を広げて近づいてきた。水に引きずられ、脚は苛立たしいほどゆっくりとしか動かない。波が引くたびに足元の砂に引きずられそうになり、ぐっとこらえる。彼女に向かって一歩進み、もう一歩踏み出してよろめき、また四歩進んだ。
 さらによろりと一歩進んだところでつまずき、近づいた彼女の腕の中に倒れ込んだ。彼女の両肩をつかんでバランスを取る。麻痺した手の下で彼女の肌は燃えるように熱い。目は髪の色と同じ茶色で、鼻の頭にそばかすがあり、口が開いている。
 人魚じゃない。現実の裸の女だ。人間だ。僕も生きている。クリスは頭を下げて彼女にキスをした。その口は熱く、震えながら彼女を抱き寄せる。
 彼女は抵抗せずにキスを返してきた。冷たさと塩味の間から、女性と命と希望の味がし、両手で包み込んだ喉の血管がどくどくと脈打っている。
 背中で波が砕け、二人を押し流した。彼女はもがきながら立ち上がり、クリスに手を伸ばした。だがもう自分の足で立てた。今のキスと希望で最後に残っていた力が出たのだ。クリスは彼女の腰に腕を巻きつけ、彼女を持ち上げた。
「持ち上げてくれなくていいわ。あなたこそ必要でしょう」彼女は抵抗したが、クリスはふらふらと砂浜を横切った。足の裏は麻痺し、石を踏んでも感覚がない。草地まで来ると、両脚はついに力尽きた。クリスは意識が朦朧となり、荒い草地に倒れ込み、気を失った。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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