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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル

あのキスの記憶

あのキスの記憶


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 マーガレット・ムーア(Margaret Moore)
 俳優エロール・フリンに憧れ、『スター・トレック』のミスター・スポックに恋をした少女は、やがて謎めいた魅力的な悪漢をヒーローに仕立てたロマンス小説を書くことに夢中になった。カナダのオンタリオ州スカボローに夫と二人の子供、二匹の猫と暮らしている。読書と裁縫が趣味。

解説

 ある真夜中、フランス人のジュリエットは大きな物音に夢を破られた。行方不明の兄を捜すためにロンドンに宿を取っていたが、窓の外を見ると、一人の男性が四人の男性から暴行を受けている。男性が思わずもらしたフランス語の叫び声を聞き、ジュリエットは無意識にそばにあったものを暴漢めがけて投げつけた――。ダグラスは朦朧とした意識の中でゆっくりと目を開けた。自分がどこにいるのかもわからないが、男に襲われたのは覚えている。そして、夢の中で女性の柔らかな体を抱きしめ、キスをしたことも。そのとき隣に女性が寝ているのに気づき、彼ははっとした。夢の中で見た女性とそっくりだが、もしかして……。

抄録

 ジュリエットは屈んで呼びかけた。「ムッシュー?」
 男性は身動きせず、反応もしなかった。ジュリエットは彼を起こそうと、肩に手をのせた。生地の手触りからも非常に高価なコートだとわかる。
 衣服にこれほどお金をかけられる人が、こんな時間に、ロンドンのこのあたりで何をしているの?
 売春婦や賭博《とばく》場を求めてやってきた裕福な紳士かしら? そんな考えが心に浮かんだが、ジュリエットは間違いであることを祈った。「ムッシュー?」
 なおも返事がないので、うつぶせになっていた男性をそっと仰向けにした。高い頬骨に意志の強そうな顎。鼻筋のとおった鼻。額のあたりに血がにじんでいる。幅広の肩に、ウエストは引き締まっていて、脚も長い。
 ジュリエットはコートの前を広げ、月明かりの下で男性の様子を調べた。白いリネンのシャツに黒の幅広のネクタイ《クラバット》、体にぴたりと合った黒の乗馬用ジャケット、灰色のベストに黒いズボン、そして革の乗馬ブーツを着けている。どれも最上級のものだ。幸い、額のほかに血や傷は見当たらなかったが、彼の両手を見てジュリエットはぎょっとした。何か変だわ……。
 男性が彼女の腕をつかんだ。ことのほか力が強い。すがりつくような手から逃れようとジュリエットが体を引くと彼は目を開け、胸に突き刺さるようなまなざしでこちらをじっと見つめた。それから、低くかすれた声で何かをつぶやいた。アニーだかなんだかという名前のようだ。
 奥さんを呼んでいるの?「ムッシュー?」
 男性はうつろな瞳を閉じると、再び何かつぶやいた。
 彼がジュリエットの腕をつかんだのは傷つけようとしたのではなく、恐怖や絶望のためだったのだ。彼の両手がどこか異様なのはたしかだが、完全に不自由というわけではないらしい。
 彼が何者で、ここにたどり着いた理由がなんであれ、ごみが散乱して悪臭漂う路地にそのまま置き去りにすることはできなかった。
 少しでも意識があるなら、わたしの部屋まで運べるかもしれない。そこなら濡《ぬ》れていないし、ベッドだってこの地べたよりは柔らかいわ。
 ジュリエットは男性の脇の下に肩を差し入れ、彼を起こした。なんとか立ちあがらせることはできたが、予想以上に重かった。彼が苦しそうなうめき声をあげた。たぶん、服で隠れて見えないところに傷を負っているのだろう。
 ジュリエットは同じ屋根の下に住むほかの下宿人に助けを求めようかと思ったが、あきらめた。先ほどの騒ぎが聞こえなかったとしても、フランス人だということで彼女はすでに不審な目で見られていた。男を部屋へ運ぶのを手伝ってほしいなどと頼んだら、たとえ彼がけが人だとしても、どう思われるかわかったものではない。
 だめよ《ノン》、一人でやらなければ。
 男性を下宿の中へ運ぼうと四苦八苦しながら、ジュリエットは農場で生まれ育ったことに感謝した。この六カ月は狭くて暗い地下室で縫い物をして過ごしたが、男性に手を貸して建物内へ導き、階段を上らせてベッドへ寝かせるだけの力はまだ残っていた。とはいえ、相当な努力が必要だったが。
 ジュリエットはベッドのそばのスツールの上にあった蝋燭《ろうそく》の燃えさしに火をつけると、冷水の入った洗面器と布切れを取ってきた。男性のそばに座って顔から黒髪を払い、目の上の切り傷をそっと洗ってやった。額にはこぶができかけている。
 傷が深刻なものではないことを祈りながら、彼女はクラバットを緩め、身元を示す手がかりを求めてコートのポケットを探った。
 だが、中には何も入っていなかった。悪漢は盗みも働いていったに違いない。
 男性が再びつぶやいた声を聞き取ろうと、ジュリエットは屈み込んだ。
「いとしい人よ《マ・シェリ》」目を閉じたまま低くかすれた声でささやくと、男性は彼女の体に腕をまわして引き寄せた。
 驚きのあまり、ジュリエットは身を引くこともできなかった。男性を止めることもできず、何をされるのかもわからぬうちに、彼が唇を重ねてきた。そっと優しく、いとおしむように。
 彼を止めなくては。でも、すごくいい気持ち。温かくて甘くて、とてもすてきだわ。ずっとわたしは一人ぼっちだったんだもの……。
 すると突然、ジュリエットを抱いていた男性の腕がだらりと下がり、唇からも力が抜けた。意識を失ったのだ。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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