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次期ホテル王のスイートな求愛

次期ホテル王のスイートな求愛


発行: マーマレード文庫
シリーズ: マーマレード文庫
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

俺に感じるときはどんな表情に変わるの?

町の小さな洋菓子店で働く見習いパティシエの里桜は、超一流ホテル「スノウ・カメリヤ」総支配人・天野崇正から、いきなりスカウトされてしまう。戸惑いながらも短期の出向というかたちで了承したけれど、慣れない職場に悪戦苦闘。そんな時、いつもは厳しい崇正が優しく支えてくれて……。彼への恋心に気づいた里桜は、庭園で突然抱きしめられ!?

抄録

「もうだいぶ前からそういうことは慣れてるので、心配には及びませんよ」
「あっ……、天野さん!」
休憩室にいた女性が驚いて声を上げた。私も心の中で同様に叫び、真後ろにいる天野さんを見上げる。
「こ、これは違うんです。その……世間から見るカメリヤの評価を知るためと言いますか」
最後に話したほうの女性が、しどろもどろになる。天野さんの登場で、先にいた私の存在なんか気にもならないみたい。
天野さんは私を素通りすると、奥のソファに腰を下ろし、長い足を組む。肘かけにおいた腕で頬杖をつき、口元に笑みを浮かべた。
「そう。今やネットの口コミがあって当然。だったら、それをうまく利用するしかないと思いませんか?」
「は、はい……」
女性たちはすっかり委縮して、辛うじて聞こえるほどの細い声で返した。それは天野さんの耳にも届いたようで、彼はさらに口角を引き上げる。
「私がロビーやラウンジ、レストランなどをできるだけ長い時間回るのは、そういう内容も含まれています。仕事の一環ですから、煩わしくなんてありません。あ。万が一、良くない書き込みがあれば、そのときはすぐに知らせてくださいね」
天野さんの訂正と依頼に、ふたりは「はい」を何度も繰り返す。そして、「もう時間なので」などと言って、逃げるようにいなくなってしまった。
うわ。こんな微妙な空気のまま、天野さんとふたりにしないで!
私は行くも戻るもできぬまま、置物のように固まっていた。だけど、沈黙に耐えられなくて、口火を切る。
「天野さんも休憩室を利用されたりするんですね」
ソファに座る天野さんを視界の隅に置いて、作り笑いを見せる。
「いや。俺はホテル館内どこでも行くが、休憩室や食堂はあまり足を向けないね」
「え?じゃあなんで……」
言っていることとやっていることが違うじゃない、と彼の顔に目を向ける。視線がぶつかると、天野さんはやおら足を直し、スッと立った。
「レストランへ行ったら、きみが休憩だって聞いたから」
「な、なにかご用ですか?」
ほどよい厚みの唇に笑みを浮かべ、コツ、コツ、とこちらにゆっくりと歩み寄ってくる。私の右足が自然と後ろに下がる。しかし、天野さんはその長い足で、易々と私のパーソナルスペースに侵入してくる。ドキッとして全身に力が入る私を覗き込んで、クスッと笑った。
「初日の感触はどうだったかなあってね」
この人は、自分のルックス偏差値の高さをわかっていて、この距離でそんな笑顔を振りまいているんだろうか。
自分で言うのも悲しいけれど、私は男の人への免疫力が低い。高校時代は清い交際くらいはしたけれど、製菓学校へ行ってから、今に至るまで男女交際はゼロ。明けても暮れてもスイーツ作りに没頭していたのだから、出会いもなくて当たり前だったし、免疫がつかないのも当然だ。でもこれまで、焦りや不安はなかった。だって、自分のやりたいことに好きなだけ時間を費やしていれば、それで満たされていたから。どうしたら滑らかな食感になるかとか、鮮やかな色を出せるかとか。
そういう問題になら何度も向き合ってきたから対処できるけれど、綺麗な男の人の扱い方なんて全然わからない。
「感触もなにも……私、まだ厨房に入っていないので」
私はふいと目を逸らし、そのまま身体ごと横を向いた。すると、耳の近くで艶のある声を出される。
「正直なところ、腹が立った?」
私は小さな悲鳴をどうにか口の中でとどめ、肩を上げる。ササッと天野さんから逃げるように二メートルくらい離れ、動悸を落ち着けようと深呼吸をした。
「……まさか。慣れない仕事に戸惑いはしましたけれど」
「へえ。てっきり、引き抜きみたいなことされてきたのにホールなんてバカにしてるのか、って怒るかと思ってた」
天野さんは片手を顎に添え、あたかも意外だと言わんばかりに目を丸くした。私はついムッとして言い返す。
「心外です。与えられた場所がどんなところかは、私にとって大した問題じゃないんですよ。それよりも、直にお客様の反応を見れることがうれしいんです」
自分の就職を困難にしている理由のひとつは、それだった。
あまり大きなパティスリーだと裏方ばかりで、お客様の顔が見えない。工場に至っては単純作業の繰り返しで、一からすべてを作り上げる醍醐味を味わえないだろう。
私の原点は、楽しく作って、そのスイーツを手にしたり食べたりした瞬間の、相手の幸せそうな表情を見届けること。小さな頃から、それがモチベーションに繋がっている。
「だから今日も、ホールでお客様がどんな顔をして食事をしているかを見られてよかった」
パティシエ業をしながら、適度に接客をする。かつ、私が作りたいものを理解してくれるようなところに就職……なんてうまい話あるわけない。自分でもそんなところにこだわって就職先の候補を絞っているなんて、わがままだって理解している。でも今、自分でケーキを手がけ、接客もできる百瀬にいられるから幸せだ。
「それならいい。でも、それはあくまで仕事のひとつということを忘れずに」
天野さんからはさっきまでの笑みも消え、釘を刺される。
私は、この短時間に忘れるわけないでしょう、と心で舌を出して、表向きは笑顔で「はい」と返事をしておいた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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