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裏切り

裏切り

著: サラ・クレイヴン 翻訳: 小砂恵
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:525円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 サラ・クレイヴン(Sara Craven)
 イングランド南西部サウス・デボン生まれ。海辺の家で本に囲まれて育った。グラマースクール卒業後は、地元のジャーナリストとして、フラワーショーから殺人事件まで、あらゆる分野の記事を手がける。ロマンス小説を書き始めたのは一九七五年から。執筆のほかには、映画、音楽、料理、おいしいレストランの食べ歩きなどに情熱を傾けている。サマセット在住。

解説

 母は兄ばかり可愛がり、意地悪な家政婦には邪魔扱いされる。そんな寂しい少女時代を過ごしたリディーにとって、同じ屋敷に住む継父の甥、マリウスだけが心の支えだった。17歳になるとリディーは純潔を捧げて彼への思いを遂げるが、その直後、別の娘との間に醜聞が立ち、彼は姿を消してしまう。裏切りに傷ついた心を癒せぬまま5年が過ぎたある日、継父の誕生パーティの席で、リディーの胸は再び千々に乱れる。マリウスが長年の沈黙を破り現れ、彼女の耳元で囁いたのだ――きみに楽しい思い出をよみがえらせてあげるよ、と。

抄録

 それ以来二人は、奇妙な新しい感情をいだいてお互いを意識するようになった。表面上は何一つ変わらないようでいて、マリウスが絶対に二人だけにならないよう注意していることに、リディーは気がついた。まるで二人の間に存在するある種のもろい休戦状態が、ほんのちょっとした親密な言葉やまなざしで砕け散ってしまうかのように。
 マリウスもわたしも、ある特別な瞬間がくるのを待っていた。そう、わたしが大人になる日を。長い年月を経て、体も心も大人になる時期を待っていた。
 あらゆることが劇的な変化を遂げたのは、リディーが十七歳になったばかりのクリスマスのことだった。グレーストーンズではオースチンの友人数人を招いてパーティーが催されることになり、リディーはこの屋敷の娘らしく料理を配ったりして客をもてなすべきだとデブラが主張した。マリウスはよそのパーティーに呼ばれていると言い、そのうえジョンまで連れていってしまったことがデブラをひどく怒らせた。オースチンは肩をすくめて妻をなだめた。
「まあ若いやつらは仕方ない。独身男は好きにさせておこうよ。娘が家にいてくれるだけでもよかったと思うんだな」
 ジョンとマリウスは真夜中近くに帰ってきた。リディーはミセス・アーンスウェイトに、ワインに甘味料や香料、卵黄を入れて温めたマルドワインを出すよう頼むためにちょうど廊下に出たところだった。いきなりドアが開き、氷のように冷たい風がさっと吹き込んできた。すぐ後ろにマリウスを従えて、騒々しい笑い声をたてながらジョンが入ってきた。
「見てごらん」ジョンはコートの上でとけかかっている白い雪片を指差した。「どうやらホワイト・クリスマスになりそうだ」ジョンは妹を抱き上げてくるりと回してから手を離し、笑い声が聞こえてくるリビングルームの方にさっさと行ってしまった。
 マリウスはオーバーを脱いで大きな木彫りのカウチにほうり投げた。リディーから頭上に視線を移した彼の唇が奇妙な笑みにゆがんだ。マリウスの視線が行った先をたどると、頭の上に宿り木で作った大きなリースが吊るしてあるのが見えた。
 パニックにも似た感情に襲われ、リディーは息が詰まりそうになった。宿り木の下にいる人にはキスしていいっていうのが習わしだわ。早くここから動かなくてはいけない。早く動くのよ……。
 マリウスが両手を差し伸べてきた。しっかりとリディーの肩をつかみ、優しく自分の方に引き寄せていく。「メリー・クリスマス」彼は小さな声で言うと、頭を下げて彼女の唇にキスをした。
 マリウスの唇が触れたとき、リディーの体の中に小さな火がついた。リディーは彼にキスを返した。これまで長いあいだ押さえつけてきた思いのすべてが、唇に灯った小さな火を一瞬にして巨大な炎に変えた。
 マリウスがうめくのが聞こえた、肩にかかった手に力がこもり、リディーは固く抱き寄せられていた。ウールのシャツを通して彼の胸の鼓動が感じられる。彼の唇が強く押しつけられると、リディーは素直に、夢中になって唇を開いた。舌に触れた熱い舌はサテンのようになめらかだ。リディーは何もかも忘れて深まっていくキスに応えていた。二人は、しっかりと抱き合っていた。
「一体全体、なんの真似なの」デブラのとげとげしい声に、二人は突然現実に引き戻された。
 リビングルームの戸口に立っている母は、凍りついたように無表情だった。「リディー、今夜はお客さまがおいでなのを忘れてしまったの? それにいくらクリスマスが口実でも、酔っ払いの誘いに乗るにはあなたはまだ若すぎるでしょう?」
 マリウスは片手でリディーを抱いたまま、体を半分ひねってデブラを見ると、静かすぎるほどの声で言った。「ぼくは酔っ払ってもいないし、クリスマスなんか口実にしていませんよ」
 二人の視線が激しくぶつかった。先に目をそらしたのはデブラのほうだった。彼女は冷ややかに言った。「リディー、あなたに頼んだことがあったでしょう」そして部屋に入るとドアを閉めた。
「頼まれたこととやらをやったほうがいいな」マリウスは残念そうにつぶやき、少ししてから言った。「少なくともさしあたりはね」
 マリウスが頬を軽く撫でる。リディーは彼の指に一瞬唇を押しつけた。そしてさっと彼から離れると、マルドワインを頼むためにその場を走り去った。
 リディーはすぐにリビングルームには戻らず、横手のドアから庭に出た。雪が激しく降っていた。こうこうと輝く屋敷の明かりのなかで小さな白い雪片がくるくると舞い、茂みや芝生をおおっていく。
 彼女は空を仰いで、肌に触れる羽根のような雪の感触に笑い声をあげた。あまりにも興奮していて寒さなどまったく感じない。彼はわたしのものよ。とうとう、そして永久に、わたしのものになったんだわ。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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