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ジェシカの愛情研究

ジェシカの愛情研究


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ペニー・ジョーダン(Penny Jordan)
 1946年にイギリスのランカシャーに生まれ、10代で引っ越したチェシャーに生涯暮らした。学校を卒業して銀行に勤めていた頃に夫からタイプライターを贈られ、執筆をスタート。以前から大ファンだったハーレクインに原稿を送ったところ、1作目にして編集者の目に留まり、デビューが決まったという天性の作家だった。2011年12月、がんのため65歳の若さで生涯を閉じる。晩年は病にあっても果敢に執筆を続け、同年10月に書き上げた『純愛の城』が遺作となった。

解説

 ジェシカはため息をついて受話器を置いた。姉からの電話だ。姉はジェシカと夫の仲を疑っている。事実無根のこんなことで執筆を邪魔されるのはかなわない。ジェシカは好評の前二作に続いて三作目では、結婚生活には必ずしも愛は必要ではない、見合い結婚こそ理想だ、という持論を展開するつもりでいる。姉の疑いを除くには……ふと新聞の交際広告欄が目にとまった。そうだわ! こういう形で結婚に持ちこめれば、姉も心配しなくなるだろうし、私の持論を実証することもできる。ジェシカは早速、交際広告の原稿を書きはじめた。

抄録

 ライルはベッドにうつ伏せになっていて、息をするたびに肩が大きく動く。目をつぶっていて、まぶたは濃い眉とは対照的にろう細工みたいにもろく見える。眠っている男性をこんなに近々と見たことなどいままで一度もないせいだろうか、不思議ないとおしさや優しさがこみ上げて、ジェシカはいっそうとまどった。スチュアートが意地を張りとおしている時に感じる同情に似た思いも胸にあふれている。
 ライルはシャツを着ていない。シャツは彼女の足元に脱ぎ捨てられ、オリーブ色の肌にはびっしりと玉の汗が浮かんでいる。自分は彼が眠っていてよかったと思っているのか残念に思っているのかわからないままに、ジェシカはベッドを離れようとした。
「なんの用?」
 疲れきった不明瞭な声にジェシカは足を止め、ゆっくりと振り向いた。ライルの目は相変わらず閉じられているが、いままで気づかなかった頬の紅潮が目に入った。熱があるのだろう。
「お茶を持ってきたの。母も偏頭痛で苦しんでいたから……母は熱いお茶を飲めば薬の効き目が増すと信じていたの」
 ライルがうなり声をあげた。どういう意味か正確にはわかりかねたが、もっといてほしいという気持はないと判断して、ジェシカはドアへ向かおうとした。
「ほかに役立つことはなかった?」
 そうきかれてジェシカは驚いてライルのほうを向いた。今度は目を開けている。苦痛のせいでかすんだようになっているその目を見たとたんに、激しい自責の念がこみ上げてきた。
「私が首や肩をマッサージしてあげたのがよかったようだわ」やはり邪魔をするのではなかったと後悔しながらジェシカは答えた。
 ライルはまたうなり声をあげたが、つづいてこうきかれてジェシカは感電でもしたようなショックを感じた。「ぼくに効果があると思う?」
 言葉を探しながらジェシカは言った。「あなたの偏頭痛の引き金が何かによるわ。緊張か、特定の食べ物か、お天気に対する過敏さか……」
「天候のせいもあるが、きっかけは緊張だ」ライルは落ち着きなく体を動かして目をつぶった。「ああ、頭が割れるようだ」
 ジェシカは反射的に手を伸ばして彼の首の後ろに当てた。筋肉がぴんと張りつめている。ゆっくりとこりをもみほぐしはじめた。指は要領を忘れてはいなかった。
 緊張がほんのわずかながらゆるみはじめるのが感じられた。呼吸の仕方が楽そうになったので手を止めると、ライルが目をつぶったままつぶやいた。「気持がいいんだ、やめないでくれ」
 初めは徐々にだったが、やがてはっきりとこりがほぐれてきた。力を必要としたので、十分後には手を休めて大きく息をつかなくてはならなかった。ライルと同じくらいに汗びっしょりになり、薄いトップがべったり肌にまつわりつく。
 手をどけたとたんに、ライルが喉の奥で声をあげた。不服なのだと察してジェシカはすぐに体をかがめ、今度は肩をもみほぐしにかかった。
 母の肩をもむのとは比較にならないほどきつい仕事だった。力が何倍もいるし、暑くてたまらない。汗が肌を伝い、ライルの肩に落ちた。ふくためにせっかくのリズムをくずしたくなかったので、何げなく顔を寄せて舌でぬぐった。
 だが舌が熱い肌に触れたまさにその瞬間に、その動作が誤解されたことを感じ取った。相手が大人の男性だということをうっかり忘れてしまっていた。ライルの体に緊張が走り、次の瞬間には彼は顔を枕から上げてジェシカを見つめた。その目は陰っている。怒りのためだろうか。不信だろうか。嫌悪だろうか。
 謝ろうとしてジェシカは口を開きかけたが、ライルのほうが先に言った。彼の口調は奇妙なくらい軽く、感情がまったく表れていない。「きみは行ったほうがよさそうだ」
 ライルの目はもう閉じられている。ジェシカの姿を視界から消してしまいたいとでも言わんばかりに。少なくとも彼女はそう感じ、体全体がかっと熱くなった。私が彼の注意を引こうとしたと思ったのだろうか。彼を刺激しようとしたと。絶望と怒りで身震いしながらジェシカはライルの肩から手を離した。そんな女ではないことぐらい、彼はとっくに知っているはずではないか。まさか、彼が病んで無防備なのをこれ幸いと聖域に侵入した、とまで思っているのだろうか。
 だが、あの動作を彼がほかにどう解釈しようがあるだろう。とにかく私のしたことはごく自然な本能的な反応だったはずなのに、いまや自分でも生涯最大の愚行と思わないわけにはいかないような、とんでもない出来事になってしまった。
 ジェシカは体を起こしてベッドから立ち上がった。ライルは目をつぶってはいるが眠っているわけではない。激しい苦痛が彼女の胸をふさいだ。私のうかつさのせいで、この何週間かの間にでき上がっていた親密な結びつきがだいなしになってしまったのではないだろうか。
 部屋を出てドアをそっと閉めた時、どうして何もかも失ってしまったように感じてこんなに苦しいのだろうという疑問が、頭をもたげた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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