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愛は魔法でなく

愛は魔法でなく

著: スーザン・マレリー 翻訳: 三好陽子
発行: ハーレクイン
シリーズ: MIRA文庫
価格:630円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 スーザン・マレリー(Susan Mallery)
 シルエット・スペシャル・エディションを代表する人気作家。USAトゥデイ紙や大型書店などのベストセラーリストの常連である。ユーモアがありながら情感に満ちた作品を年五、六冊執筆するが、それでも頭の中にあるアイデアをすべて作品にする時間がないのが悩みだと言う。

解説

 諜報機関に勤めるジェイミーはザックが敵に捕らえられたと聞き、いてもたってもいられなくなった。7年前、優秀な諜報員ザックは新人研修で憧れの教官だった。だが彼はなぜかジェイミーに特別厳しく当たり、彼女は見返したい一心で過酷な研修をやり抜いたのだ。そして最初の任務でともに命の危機を乗り越えたとき、抑えつけていた情熱が解き放たれ、二人は貪るように求めあった。それきり彼とは顔も合わせていない。今でも忘れられないなんてばかげていると思いながら、ジェイミーは彼のもとへ向かった。周囲の制止を振り切って。

抄録

「患者の秘密は厳守されるんじゃなかったんですか」
「君は患者じゃない。事情聴取を受けただけだ。ジェイミー、君は一人を殺し、もう一人が死ぬのを見た。それについて、話をするべきだよ」
「名前で呼ばれたのは初めてだわ」彼女はつぶやいた。
「失敬。サンダーズ」
「ジェイミーでけっこうです。でも、どうしても、その話をしなければなりませんか?」
「ああ、そうだ」
 そのことは、話すどころか考えたくもなかった。恐怖はあまりに大きかった。三日後のいまでも、男が地面に倒れる姿が目に焼きついている。ピストルの反動と、その後の胃のけいれんを感じる。ハヴァズの死体も、ありありと目に浮かぶ。
 エージェンシー専属の精神科医と面談したとき、ジェイミーはそれについては話したくないと言った。いまでもそうだ。
「思っていたのとは違っただろう。君は人を殺すことを想像していた。でも想像とは違っていた」
「ええ」彼女はささやくように言った。
「殺すのがあまりに簡単で、君は驚いた。忘れることのほうが難しかった」
「どうして、それを?」
「僕も同じ経験をしたからだよ。そのうち楽になると言いたいところだけどね。ある意味では、そうだ。しかし、もう代償を払わなくてよくなったと思ったころ、大きな打撃が来る。そしたらまた最初からやり直しだ」
 ジェイミーはザックのことを、感情も何もなく、意地が悪く、残酷でさえあると思っていた。しかしいまは彼がこの世で一番親切な人に思える。
「目が閉じられないんです。男が倒れるところが思い浮かぶことはもうないんだけど、眠れなくて。夢を見るのがこわいんです。かわいそうだとか、後悔してるとかではないけど、ただ……」
 ザックはつと手を伸ばして、ジェイミーの頬を撫でた。指が涙をぬぐった。彼女はもう一方の頬に手を触れた。自分が泣いているのがショックだった。
「ごめんなさい。もう泣いたりしません」彼女は激しくまばたきしたが、涙は流れ続けた。
「かまわないよ」
「いいえ。私はもっと強い人間です」ふいに嗚咽《おえつ》がこみ上げてきて、ジェイミーは窓枠をつかんだ。
「四六時中タフでいる必要はないさ」
「あります。私は――」だめだ。ザックに見苦しいところは見せたくない。「どうぞ帰ってください」彼女はつぶやいた。
 ザックは肩に手を置いた。ジェイミーは振りはらおうとしたが、ザックはかまわず抱き寄せた。
 ジェイミーは抵抗した。自分の弱さがうとましかった。戦うのをやめて彼の強さを借りたいと願う気持が。けれどもザックは、まるで引き離されるのを恐れるようにジェイミーを強く抱いた。ジェイミーは涙がかれるまで泣いた。
 そのうち彼女は、すぐそばにあるザックの体を意識し始めた。彼はいつのまにかソファに座り、ジェイミーをしっかりと抱き寄せていた。彼の規則正しい心臓の鼓動と、胸の上下が感じられる。
 欲望が洪水のように押し寄せてきて、ジェイミーは反応するまいと体を固くしなければならなかった。何も考えず、望みもしないうちに、ジェイミーは顔を上げて、彼を見つめていた。
 ザックの黒い目が、これまで見たことのないような光を帯びた。頬の筋肉がぴくりと動いた。
「ジェイミー、そんなふうに見ないでくれ」
「どんなふうに?」
「まるで僕がヒーローか何かのように。僕をひどいやつだと言ったのは正しかったんだよ。君はこんなことを望んでいないんだ」
“こんなこと”がどんなことなのか定かではなかったが、自分が望んでいるのは確かだった。前にはこんな気持になったことはない。男たちは常に友達であり、楽しい仲間だった。女友達より、男友達のほうが気が合った。でも……。
 彼女は指先でそっとザックのあごに触れてみた。体の熱と、伸び始めたひげが指先に感じられる。
 ザックは彼女の手を強く握った。それから手のひらの敏感な肌にキスをした。
 熱い衝撃がつま先まで走った。息が苦しくなった。いままでやっかいものでしかなかった胸がふくらんで、未来の可能性に息づき始めた。
 ザックは手のひらの柔らかな肌を噛んで、舌でその傷を癒した。それから手を離し、ソファにもたれて目をつぶった。
「よりにもよって最初の日に。僕は六カ月のあいだ、これを避けてきた。君が僕の責任でなくなった最初の日に、しくじってしまったよ」
 しくじった? 避けてきた?「あなたは六カ月間、私を抱きたいと思っていたの?」
 ザックはジェイミーの手を取って、自分の体に持っていった。彼女はそこに、彼の熱い欲望を感じた。もちろん、そういうメカニズムについては知っている。裸の男だって見たことがある。高校時代トレーニング・ルームに行くとき、男子のロッカーを通らなければならなかった。男子からはちらちら見られたけれど、ジェイミーはまったく興味を持たなかった。これまでは。
 いまわかった。私たちは二人とも同じことを望み、それを避けるために全力を尽くしていたのだ。
 唇が重なった。ザックはジェイミーの与えるものをすべて奪い、それ以上のものを返した。彼の手はあらゆるところに伸びた。背中に、腰に、胸に。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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