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著者プロフィール
伊藤 榮(いとう さかえ)
昭和13年埼玉県生まれ。
官立東京逓信講習所卒。東京中央電信局勤務を経て執筆活動に入る。
時代小説「こんぴらふねふね」が第97回直木賞候補となる。その他「廣重浮世絵ばなし」「秘湯の旅」「一泊二日五十カ所」など著書多数。気悦作家として将来を嘱望される。
昭和13年埼玉県生まれ。
官立東京逓信講習所卒。東京中央電信局勤務を経て執筆活動に入る。
時代小説「こんぴらふねふね」が第97回直木賞候補となる。その他「廣重浮世絵ばなし」「秘湯の旅」「一泊二日五十カ所」など著書多数。気悦作家として将来を嘱望される。
解説
浮世絵師英泉(えいせん)は、ご禁制の枕絵(ポルノ画)を描かせれば当代一と自負しているが、悲しいかな、名門派閥に属さぬ一匹狼ゆえ、なかなか世間様は認めてくれない。ふとしたことで知り合った河内山宗俊(こうちやまそうしゅん)の応援を受けるが、それとて微々たるもの。遊び友達の治郎吉(後の鼡小僧)も歯がゆがるがどうにも芽が出ない……色模様を通して眺めた江戸っ子の哀歓。
目次
第一章 侍(さむらい)くずれ
第二章 掌の中の小判
第三章 鶴の枕
第四章 座禅(ざぜん)ころがし
第五章 初姿女河内山(はつすがたおんなこうちやま)
後記
第二章 掌の中の小判
第三章 鶴の枕
第四章 座禅(ざぜん)ころがし
第五章 初姿女河内山(はつすがたおんなこうちやま)
後記
抄録
善次郎は、河内山に笑いかけながらいった。
「でも、大きく、立派に描いてさしあげるのが、枕絵師の礼儀というものでして。枕絵では、魔羅は五倍くらいの大きさに誇張して描くものでございます」
「へえ……。じゃ、実際にはあんなでっけえのはいねえわけか……。そうだろうなあ」
河内山は安心したように、やおら反(そ)り返った。反り返ったまま頷いていて、ひとりで納得している。
「魔羅といいますのは、世の中の女にとっては羨望の的でございまして、男にとっては自己顕示欲の顕れでございます。茄子と男は黒いほどよいと申しますが、色は黒にして黒にあらず。高貴な紫にも似て光沢があり、伸び縮みも自由自在。まか不思議な潜在力と、神秘な生命力とを秘めております。従って、魔羅は雄々しく、強く逞しく、偉大に描かねばなりません」
「わかるわかる。それで五倍のでっかさなのか。わかるぜ、絵師の礼儀の正しさが」
河内山は素直に共鳴してみせた。
男ならば、だれしもそうありたいという願望はある。女に賞讃され、女を虜にしておきたいためにだ。
さしずめ河内山ほどの自己顕示欲の旺盛なお方は、いつも厭がる女をむんずと引き据え、あてがわせたりして、むりやり、
「ミロミロ」
とせまっているにちがいない。
女の厭がることや羞ずかしがることを断乎、強要し、制圧することによって、いちじるしく独占欲が充たされるからだ。そういう自己顕示欲の強い男ほど、自己中心の我儘(わがまま)なやからである。
「でも、せっかく誇張して描いても、見る人は往々にして、これが真実かとご心配なさるむきも多うございます。なんて太え野郎だろうか、と……。わが身を顧みてお嘆きになるようですが、ちっとも心配することはございません。世の中には太え野郎ばかりではございません。ちなみに湯屋へでもいって、さりげなくまわりを観察なさると、よっくおわかりのことと存じます。枕絵をみて、劣等感を抱くようなことは、まったくございません。はい」
「でも、大きく、立派に描いてさしあげるのが、枕絵師の礼儀というものでして。枕絵では、魔羅は五倍くらいの大きさに誇張して描くものでございます」
「へえ……。じゃ、実際にはあんなでっけえのはいねえわけか……。そうだろうなあ」
河内山は安心したように、やおら反(そ)り返った。反り返ったまま頷いていて、ひとりで納得している。
「魔羅といいますのは、世の中の女にとっては羨望の的でございまして、男にとっては自己顕示欲の顕れでございます。茄子と男は黒いほどよいと申しますが、色は黒にして黒にあらず。高貴な紫にも似て光沢があり、伸び縮みも自由自在。まか不思議な潜在力と、神秘な生命力とを秘めております。従って、魔羅は雄々しく、強く逞しく、偉大に描かねばなりません」
「わかるわかる。それで五倍のでっかさなのか。わかるぜ、絵師の礼儀の正しさが」
河内山は素直に共鳴してみせた。
男ならば、だれしもそうありたいという願望はある。女に賞讃され、女を虜にしておきたいためにだ。
さしずめ河内山ほどの自己顕示欲の旺盛なお方は、いつも厭がる女をむんずと引き据え、あてがわせたりして、むりやり、
「ミロミロ」
とせまっているにちがいない。
女の厭がることや羞ずかしがることを断乎、強要し、制圧することによって、いちじるしく独占欲が充たされるからだ。そういう自己顕示欲の強い男ほど、自己中心の我儘(わがまま)なやからである。
「でも、せっかく誇張して描いても、見る人は往々にして、これが真実かとご心配なさるむきも多うございます。なんて太え野郎だろうか、と……。わが身を顧みてお嘆きになるようですが、ちっとも心配することはございません。世の中には太え野郎ばかりではございません。ちなみに湯屋へでもいって、さりげなくまわりを観察なさると、よっくおわかりのことと存じます。枕絵をみて、劣等感を抱くようなことは、まったくございません。はい」
本の情報
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