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虚業集団

虚業集団

著: 清水一行
発行: オンライン出版
価格:462円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 清水 一行(しみず いっこう)
 昭和六年一月十二日東京生まれ。早稲田大学中退後「東洋経済」「週刊現代」などの雑誌で株式評論を執筆、証券業界に活躍する男たちを描いた処女長篇企業小説『兜町(しま)』を四十一年に発表、作家生活に入る。その後はベストセラー作品を立て続けに発表し、企業小説の旗手と呼ぶにふさわしい活躍をしている。四十八年には、低公害車が全国キャンペーン中に事故を起こすという発端の処女長篇推理小説『噂の安全車(セーフティカー)』を刊行、企業ミステリーや社会派サスペンスも発表している。
 『動脈列島』で第二十八回日本推理作家協会賞を受賞。

解説

 戦後の混乱期に戸籍を抹消され“死者”となった上条健策は、金融業界の知能ギャングと畏れられる男である。彼のやり口は、高利に訪れた相手をまるごと食ってしまうという徹底的なものであった。そんな上条のもとに、ある大きな融資話が持ち込まれる。推定資産額は約五億。かつてない巨額の“御馳走”を食らうべく、上条は経済犯罪のスペシャリストたちを集めて権謀術数をめぐらせ始めた――。
 日本経済業界に暗躍する天才詐欺師たちの、海千山千的手腕を魅力たっぷりに描いた、大人気出世作ここに登場!

目次

一章 罠掛(わなか)け
二章 不渡り
三章 草刈り
四章 追い落とし
五章 葬式屋

抄録

 “里見重工の手形を集めろ!”
 直ちに上条健策は、五、六十名の配下に指示を発した。同時に、いよいよ、罠掛(わなか)けである。強引に里見重工を倒産に追い込む布石の着手だ。倒産に追い込むといっても、もちろん倒産させることが目的ではなく、倒産させて、里見重工の資産を徹底的に食い尽くすことが目的なのである。
 「専門の工作班を大至急つくってくれ」
 上条の指示で、伊田祥三は五、六十人の配下から大橋幹二(おおはしかんじ)、佐々木寿雄(ささきひさお)、米山行孝(よねやまゆきたか)、増尾実(ますおみのる)、内田豊(うちだゆたか)の五人を選び、それに初めのきっかけをつくった阪元乙次を加えた六人を、さっそく八重洲の不二商事に呼び集めた。
 「揃ったか、そこへ坐ってくれ。しかし立派なもんじゃないか、みな見た眼は堂々たる紳士だな」
 上条が珍しく軽口を叩いた。
 「それは紳士ですよ、大学の教授だと言っても通用しますからね」
 年嵩の佐々木が伊田に視線を流しながら言うと、「インテリ面したこの六人が全員ギャングと知ったら、里見重工じゃ腰を抜かすだろうな」と、伊田は苦笑しながら横に広い体を一層丸めて言った。見た眼の押し出しが立派で、将来、偽装債権者として里見重工へ乗り込んだとき、上条の指図どおり堂々と芝居ができそうな者だけを、伊田がとくに選りすぐったものである。
 「はじめよう。もう知っていると思うが、近々里見重工を、食えるところまで食ってみようと思っている。どこまで食えるかそれを試す意味で、徹底的にやってみるつもりだが、君達六人にその中心になってもらいたい」
 上条は、命令を下す口調で、説明をはじめた。
 「里見重工には倒産懸念がない。だから面白いと思うし、思うさま食えるはずだ。なぜかというと、すこしでも倒産懸念のある会社では、倒産にたいしてある種の準備ができてしまっているものだ。隠すものは隠すし、食うものは自分達が食ってしまう。こういう相手は効率が悪い。しかし、倒産懸念のまったくない会社が倒産したらどうなるか、無防備な相手を、それも暗闇で丸太ん棒で叩きのめすようなもんだ。もちろん当の里見重工は悲鳴をあげる暇もないだろう。同時に里見重工の債権者も、当座は何が起こったのかわからず、必要な手も満足に打てないはずだ。その間隙を縫ってわれわれが好きなように料理する。言うならば一種の実験劇場だ。硬派金融の威力を思うさま駆使してみたい。成功したら君達にたいする割り戻しの歩率を一、二パーセント引き上げてやってもいい」
 「会長、ちょっと待って下さい。割り戻し歩率を引き上げるっていうのは、結果を見てからにしましょうよ」
 「伊田さん、会長が珍しくああ言ってるんだから、いいじゃないの」
 「大橋はいいだろうさ。しかしそれが前例になっちゃうと、これからの統制上まずいんだ」
 「まあいいから黙って聞け。おれは里見重工で五億円は食ってやるつもりだ。狙いがでかい」
 伊田と大橋を押さえ、上条は「五億だぞ、わかるか」と、強く念を押した。

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