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情熱に焦がれて

情熱に焦がれて

著: ヴィッキー・L・トンプソン 翻訳: 竹原麗
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ブレイズ
価格:630円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 ヴィッキー・L・トンプソン(Vicki Lewis Thompson)
 子供のころから自室のクローゼットにこもって詩や物語を書いていたという、天性のストーリーテラーである。アリゾナ大学大学院で修士号を取得したのち、最初は英語教師に、つぎはジャーナリストになったが、満足できなかった。夫の励ましを受けて、ついにロマンス小説家へと転身。以来活躍を続け、黄金の羽根ペン賞をはじめとする数々の賞を受賞、RITA賞にもたびたびノミネートされている。今ではニューヨークタイムズのベストセラーリストの常連。夫ラリーとは偶然立ち寄ったダンスホールで知り合い、一男一女に恵まれた。子供が独立してからは、夫婦で気ままに出かける旅が大きな楽しみだという。自然豊かなアリゾナ州で暮らしている。

解説

 ★ときめきが欲しいと願うのは、そんなにいけないことですか?★
 アイリーンは不安にさいなまれていた。親の期待に応えるためとはいえ、愛も喜びも感じない相手と、このまま婚約していいの? 安定がいちばん大切だと言われても、情熱とは何かさえ知らずに、生涯暮らしていくなんて。これが逃れられないさだめなら、自由なうちに一度だけ、熱く激しいスリルを味わってみたい。そう、ずっと夢見てきた奔放な一夜を。ついにアイリーンは自制心をかなぐり捨てて、あやうい冒険へと踏み出した。

抄録

「きかないで」
 彼はもう一度、アイリーンの目をのぞき込んだ。「彼と結婚するつもりなんだろう?」
「ええ、そうなると思うわ」
「そして、君は死が二人を分かつまで、貞淑なよき妻として生きていくんだね?」
「ええ」そんなふうに言われると、絶望的な一生のように聞こえた。とくに今夜の経験のあとでは。
「それなら、彼が帰国するまでゲームを続けないか? 夢の世界で遊ぶ最後のチャンスじゃないか。君がその……なろうとしているものになるまでの」
「大人になるまでってこと?」
 彼がもう一度ほほ笑むと、目尻にしわが寄った。「僕が見たところ、君は立派な大人だけどな」彼が顔を近づけて言った。「どう思う? 僕たちは何日いっしょに過ごせるのかな?」
 そんな提案を真に受けるべきではなかったが、アイリーンはつい計算していた。今日は火曜日。ベンジャミンの帰国は土曜日。あと三日と三晩、すばらしい情熱を味わうことができる。
 だがベンジャミンのことを思い出して、アイリーンは罪悪感を覚えた。彼はまさか私がこんな冒険をするとは考えもしないだろう。私をベッドに誘ったこともない。だから、心に秘めてきたファンタジーをベンジャミンには打ち明けられなかった。
「考えてみてくれ」彼はアイリーンにそっとキスをした。「僕はちょっと消える。戻ってきたら話を決めよう」彼がゆっくり身を引いた。「ああ、離れたくない。君はすばらしいよ」
 あなたもすばらしいわ。アイリーンは彼と離れたのが悲しかった。でも、楽しみには終わりがある。「ゲームを続けるのはよくないと思うの。二人が赤の他人だからこそ、すてきなんですもの」
「すぐに戻ってくるからね」彼は脱ぎ捨てた服をかき集めて、アイリーンのオフィスを出ていった。
 動きたくはなかったけれど、アイリーンはしぶしぶ起き上がってデスクから下りた。彼が服を着て戻ってくるなら、こちらも裸で迎えるわけにはいかない。濃密な匂いがこもった部屋は、退廃的な映画のセットのようだ。アイリーンはうれしくなった。これこそ狙ったとおりだわ。
 下着を探しながら一瞬だけ、もう一度ゲームを楽しもうかと考えた。だめ、うまくいかないわ。彼が見知らぬ男でなくなったら、今夜のような喜びは得られないだろう。
 アイリーンはスカートに足を入れ、腰まで引き上げた。ガーターとストッキングをつける手間は省いた。ドアに背中を向け、スカートのジッパーを上げている最中に、咳払いが聞こえた。
「受付で待っているほうがよさそうだ。セミヌードの君を見ただけで、欲しくてたまらなくなる」
 すべて終わったのだから冷静さを失ってはいけないと思いつつ、アイリーンは胸がときめいて振り返った。男性からこんなふうに求められたのははじめてだ。
 彼は飢えた目でアイリーンを見つめている。「ああ、君はきれいだ」
 ベンジャミンに欠けているのはこれだわ。ささやかでセクシーな衝動。でも、彼を責めるのはフェアじゃない。ベンジャミンがセクシーな衝動を感じなかったのは、私のせいかもしれないのだから。
 アイリーンは咳払いをして答えた。「そう……そうね。受付で待っていて」
 彼はうなずくと、もう一度熱いまなざしをアイリーンにそそいで、戸口から離れていった。
 アイリーンは着替えを続けながら、目標はもう達成したと自分に言い聞かせた。彼がいなくなると、これきり終わりにすると誓うことができた。関係を続ければ厄介なことになる。
 それでも、彼の熱烈な意思表示は、女としての喜びを感じさせてくれる。ベンジャミンには望めないことだ。ベンジャミンをセクシーな小道具で誘おうとしたこともあったけれど、彼は興味がないと言って背を向けた。
 でも、今夜の夢の男性なら喜んでくれるだろう。アイリーンは服を着ると、室内を片づけて、汚れた書類をデスクのいちばん下の引き出しに押し込んだ。明日の朝、早めに出勤して仕事を終わらせよう。今はどうするかを考えなければ。ファンタジーに夢中になるのは、大人の女になりきれない証拠かもしれない。三十歳の女性としては恥ずかしい話だわ。
 紺のスーツの上着を着てブリーフケースをつかむと、アイリーンは明かりを消して受付へ向かった。さっきと同じ光景が目に入った。彼は膝をついて、ワイヤーを取りつけている。まるで何事もなかったかのように。
 だが、彼のまなざしは一時間前にアイリーンを見上げたときとくらべると、四百度も熱くなっている。ひと言告げさえすれば、彼はあと三晩、ファンタジーにつき合ってくれるだろう。
 でも、人生はファンタジーとは違う。人生とは、立派な男性とともに家のローンを払い、両親に孫を抱かせ、隣人たちをホームパーティーに招待するということだ。両親も二十年前の危機を除けば、そういう人生を送ってきた。彼らはこれからもいっしょに老いていくのだ。アイリーンは両親のような安定した生活を心から望んでいた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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