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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル

エマと伯爵

エマと伯爵


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ポーラ・マーシャル(Paula Marshall)
 イギリスはレスターに生まれ、ノッティンガムで育つ。勤め先の資料図書館で同じ司書の夫と出会い、結婚。三人目の子が学校に入ったのをきっかけに英語の臨時講師として働きはじめる。その後再び大学で歴史を学び、学士号を取得した。そこで得た知識を歴史ロマンスの執筆に役立てている。

解説

 あれは十年前、一八〇四年の社交シーズンのこと――富豪の一人娘のエミリアは、アポロ像のようにハンサムでエレガントなドミニクに恋をした。彼は貧しいが、いずれ爵位を継いでチャード伯爵となる人物。口ごもるくせのある太った不器量な彼女にも、とても優しかった。だが、ドミニクに求婚されたとき、エミリアは断った。財産目当ての求婚だと知ったからだ。結局ドミニクはほかの女性と結婚し、エミリアは社交界から退いた。その後、運命の嵐がエミリアを襲った。父親は破産して自殺。痩せて見違えるほど美しい女性に生まれ変わった彼女は、エマと名前を変え、今は家庭教師として生計を立てている。チャード伯爵から仕事の依頼を受けたとき、財産のない彼女に選択の余地はなかった。この仕事を引き受ければ、彼と一つ屋根の下に住むことになる。ドミニクは、わたしのことに気づくだろうか?

抄録

「人によってはノーサンブリアは並はずれて未開の土地だと思うかもしれませんわ」エマはからかうような瞳で答えた。「それはその人の考え方ですもの」
「そのとおりだ。もしもぼくがもう少し洗練されようと努力したとしても、きみは許してくれるね」
 エマの心臓の鼓動がだんだん激しくなってきた。ふたりの会話を聞いたら、だれもがふたりは戯れていると思うだろう。とくに伯爵がオーク材のデスクをまわってきて、エマのそばに来てからは。彼はふだん着に着替えていた。晩餐のときのめかしこんだ姿よりもいまのほうが好き、とエマは思った。このほうが彼の円熟したたくましさに似合っている。かつての若くて軟弱な彼には合わなかっただろう。
「あまり洗練されすぎなければいいですわ」エマはすぐ前にいる伯爵を見上げながらゆっくりと言った。エマを見つめる彼の瞳は輝き、唇は少しゆがんでいる。
「どのくらい?」伯爵がきいた。「これくらいはどうかな?」彼はエマに触れずに身をかがめて、彼女の唇に軽くキスした。みつばちがまだ一度も訪れたことのない花の蜜を吸うかのように。伯爵は、エマがまだだれにも触れられていないと感じた。そして、それは真実だった。
 甘い唇が伯爵の唇の下でかすかに動いた。一度だけのつもりで顔を上げかけた伯爵だったが、ふたたび唇を重ねないではいられなかった。
 二度目のキスが終わったとき、今度はエマが身を引いた。ひざの力が抜け、体じゅうがこの魔法のときが続くよう要求している。もしも彼の秘書として働くつもりなら、こんなことはやめなければならない。それも、いますぐに。
「だめだ」伯爵はややかすれた声で言い、エマを引き戻そうとした。
「いけません」エマは小さな手で彼を押しのけた。「そんなことをすべきではありませんわ」悲しげな声だった。「わたしを情婦のように扱うのなら、わたしはあなたの秘書にはなりません」
「情婦などでは決してない」伯爵は情熱的に言った。「しかし……」彼はことばを切った。自分がうそを言っていることを知っているからだ。ミス・ストレイトの言っていたように、彼にはエマと結婚するつもりなどない。
 じゃあ、ぼくはどうするつもりなんだ? わからない……だから、彼女にキスする資格などない。ふたりが関係を持ったら、彼女はほんとうにぼくの情婦になってしまう。
 伯爵は振り向いて、壁に掛けてある祖父の肖像画を見つめた。このラウドウォーターが傾きはじめたのは、あの祖父のころからだった。ああ、もしもぼくが結婚するとしたら、それは富のためでなくてはならない。金のために魂を売り払うことがどんなに不幸であるか、思い知っているくせに!
「わたしには“しかし”はありません」エマは伯爵の広い背中に向かって悲しげに言った。「あなたがなぜ、わたしと関係を持たないように努めておいでなのかわかっています。わたしには生活がありますし、わたしの持っているものといったら、名誉とわずかな才能だけですもの。そのどちらを奪われても、わたしは貧乏のどん底です」
「貧しさの種類はひとつだけじゃない」伯爵が壁の肖像画に向かって言った。暗い声だった。
「ええ、そのとおりですわ。なかには死ぬほどつらいものもあります。あなたもきっとおわかりでしょうけど」
 伯爵はこれほどの寂しさを感じたことがなかった。彼は寂しさを友とさえ思っていた。友情も愛も退けた無味乾燥な生活でも幸福に過ごせると考えていた。夢中になれるものはラウドウォーターを破産から救うことだけになりつつあったが、いま、この優美な顔をした、しかも内面に強さを秘めた女性が彼の生活に侵入してきて魔法の呪文をかけ、彼の決意をすべて破壊してしまったのだ。
 しかし、自分は彼女を破壊するわけにはいかない。そんなことをしたら、最低のろくでなしになってしまう。ミス・ローレンスを秘書になどしたら、ゴシップの種になることは目に見えている。この計画はあきらめるべきなのだろう。ところが、伯爵が振り向くと、エマの真剣なまなざしがそこにあった。いいや、砂漠のような人生をさまようことを運命づけられていても、ぼくが自分を救うためにほんの少しの水を飲むのまで、神は否定しないだろう。
「我々は友人同士になろう」伯爵はできるだけ穏やかに言った。「ぼくはたったいま、ふたりの友情を壊すようなことをしたくてたまらなかった。しかし、ぼくは決してきみを傷つけるようなことをしない。そのことを信じてほしい」
 エマは顔を伏せた。涙がにじみそうになったのだ。「はい、信じます」はっきりと答えた。「もう下がってよろしいですか? ティシュが心配するといけませんから。午後だけあなたのために働くようにとおっしゃいましたね。だとしたら、午前中、ティシュは忙しくなりますわ、おわかりでしょう」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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